第七界—10 『鎧ノ開界』
「ッ……ゼァァァア!」
銀の鎧達の描く波が押し寄せる中、大きく跳躍……空にその身を舞い上がらせる。突進の対象である俺達がその場から居なくなった事で先頭に位置する鎧が衝突し、互いが互いを打ち砕き、さっきまで俺達が居た所には月光を模した光を放つ銀の残骸が積み上げられた。
「これならッ……!」
ただ衝突しただけで崩壊してしまうくらいにこの鎧達は脆いらしい。最初はその圧倒的な数に怯んだがこれなら、この程度の硬さなら簡単に、難無く一掃出来そうだ——と、そう思い、俺の心には余裕が出来ようとしていた——だが。
「アーマードレギオンに終わりはない……アーマードナイトを殲滅するまでは決して止まらないッ……!」
「まじかよッ!?」
「これじゃあキリが無い……!」
残骸は動き出し、重なり、繋がり合い鎧としての姿を再形成した。他の鎧達はその復活を確認すると俺の真下に群がり、互いに乗せ、乗り合って自分達を素材とした巨大なアーマードレギオンの塔を作り、どんどんと空まで、俺の元まで接近する。
「ッ……ナイトサイザー!」
鎧達が空に迫るのと反対に俺の……というより重たいアーマードの鎧は降下……空から遠ざかり、俺と鎧達の接近速度加速した。群れ、そして頂上に存在する鎧の伸ばした手が俺の足首を掴み取る——捕獲する寸前。ナイトサイザーを右手に作り、飛翔し鎧による捕獲を回避した——だが。
「「「ヴィォウエェェェオ!」」」
「なッ……がッ——」
積み重なった鎧達が1人ずつ、底の者達を除いた全員が互いの肩を蹴り合い、跳躍する事で瞬間的に、一瞬だけレギオンの塔を伸ばし俺をその中へと呑み込み、閉じ込めた。
「ヅァ……! アーマードレギオンッ……単体では非力……けどこの数はやばい!」
「些細な存在であろうと大勢の集約された力は強大ッ……今の状態じゃあ振り解けない——どころか確実に圧殺される……!」
俺に全方向からから与えられる力に逃げ場は無く、その負担はアーマードナイトの鎧に全て掛けられる。直接触れているアーマードレギオンは次々と木っ端微塵、粉となるが数が尽きる事は無かった。鎧は軋み、そして装甲の表面には少しずつ、僅かではあるが確実に亀裂が走る。
「あッ……今の状態じゃあ振り解けないッ……それはつまり! そういう事でいいんだよな!?」
「あぁそうだ……あれをやる!」
今の状態では不可能。
ナイトの言うその言葉は今の状態を超える状態——形態であれば可能である……という事。
「ゼッ——」
命を懸け、ある意味賭け、そして咆哮を放とうとした時だった。
「レギオンの援軍、過剰増員だ」
アーマードワールデスの言葉の通り、新たに銀の塵が空を白銀色に埋め尽くされる程作り出され、それら全てはアーマードレギオンとなり、アーマードナイトを封じ込める蠢く鎧の群れに加わる。
「このまま熱と圧で殺すのも悪くはない……が、やはりアーマードナイトは私の手で始末しなければならない」
構成している者達がアーマードナイトに向かおうとし、中央で潰れ圧縮されていくレギオンの群れと、自身の右手を視線の中で重ね合わせる。その声は余裕が無く、かといって焦燥している様でもなく……ただただ淡々としており、冷たいモノであった。
「アルマァッ……!」
黄金の鎧、その右手の輝きが更に強まり、太陽さえも凌駕する閃光となる。アーマードワールデスはその右手を強く、指先と手のひらが互いに破壊し合ってしまう程の力で握り締めると跳躍、右拳を掲げる様にして振り上げた。
アーマードレギオン達の銀の装甲、灰色の街、そして白の雲はアーマードワールデスの放つ黄金の輝きにより金に染め上げられる。
「消失しろ……世界と共に……!」
右拳に込められた力に引かれ、黄金に染められた雲は渦巻き、空に巨大な一つ目の様な陣を描く。
「ワールドエンッ……」
アーマードワールデスの拳が振り下ろされ、レギオンの大群を、アーマードナイトを、そして今、自らが存在しているこの世界さえも無に返そうとした——その瞬間。
「ゼァァァアァア!」
「ッ……!? レギオンを振り解くかアーマードナイト!」
刹那の間に全てのアーマードレギオンが粉微塵にされ、黄金に染められた周囲を銀の霧が覆う。
そして、黄金と白銀の入り交じるその中心にはそれが存在していた。夜空色に銀の粉末を纏わせ星空にし、鎧の隙間から黄色の月光色を放つ者——アーマードナイトがそこにいた。
「残り58ッ……」
「来る!」
アーマードナイトは……俺達は降下を、着地を待たずに空中で身を屈ませる。その際視線は決してアーマードワールデスから離さず、
「秒!」
「刹那を超えるかッ……!」
微かに風が黄金の鎧に触れた瞬間、俺の周囲に舞っていた銀の霧には巨大な空白が開く。そして、それとは反対に俺とアーマードワールドの間に存在していた空白は消失した。
「ナイトエンドァァ!」
「ワールドエンドッ……!」
互いが互いの攻撃の届く射程圏内に入った瞬間、俺は右足を月光色に輝かせ回し蹴りをする。アーマードワールデスは既に輝かせ、待機状態となっていた黄金……太陽色に輝く右拳を放ち、互いの殴打と蹴りを衝突させた。
「ゼアァァァァ……!」
「アルマァァァ……!」
月の足と太陽の拳——その衝突は既に渦を巻いていた雲を更に入り組ませ、世界中から引き寄せる事で拡張させる。そして、気流に乗り銀の霧も雲と同じ様に渦巻き、俺とアーマードワールデスを中心の重力を持つ者として擬似的に銀河を作り出した。
「ゼァァァア!」
「なッ!?」
「押し合ってられる程時間に余裕がある訳じゃないんでなァ!」
右足を僅かに上方向に上げ、アーマードワールデスの拳を空振らせ、同じ様に俺も空振り……その勢いに任せ全身を一回転。ナイトエンドの蹴りをアーマードワールデスの頭部に直撃させようとした——だが。
「封じろッ……レギオン!」
「なッ!?」
周囲に舞っていた銀の塵が俺の右足を覆い……纏わり付き、ナイトエンドの煌めきを掻き消す。それはただ光を消すだけではなく、俺達の……アーマードナイトの力を消失させるモノであった。
「銀——鈍い鉛色の蹴りはこの程度ッ……アルマァァァ!」
「ッオガ!」
ナイトエンドの力を失い、動作も鈍くされた蹴りがアーマードワールデスの頭部に傷を付けれるはずもなく、俺の蹴りは軽く弾かれ、放たれた左拳の突きによって吹き飛ばされる。
「ッ……あと何秒だ!?」
「残り30ッ……あるかないかだ!」
「あってくれると助かる……!」
アーマードワールデスから遠ざかり……そしてショッピングモールの屋上の範囲外に追い出され、降下を開始する。
この形態になってから60秒……現在からおよそ30秒後以降もアーマードナイトであり続け、その上でナイトと分離した場合俺は人の形を取り戻せず……液体となって生命ではなくなってしまう。だから出来るだけ早く、さっきの回し蹴りで決着を付けたかったのだが失敗した。他に策がある訳でも無く——
「いいや今までだって勢いで……その場しのぎで! 即興で作戦を作りワールデスに勝利してきたッ……だから今回だって!」
「そんな奇跡何度も続くものか……! 今回の戦いが君達ッ……貴様達の最後の戦いとなる! 今度こそワールドッ……」
「勝とうが死のうがどっちにしろ最後の戦いだッ……!」
ショッピングモールの外……地上に向かい、アーマードワールデスと向き合いながら落下する。その右拳は黄金の輝きを纏っており……次に放たれた時こそが俺の、俺達アーマードナイトの最期だと確信出来た。
「どうッ……どうするどうすればいい! おいナイト何か無いか!?」
「……」
「おいナイト!?」
視界内のアーマードワールデスがどんどんと大きくなる中、この絶体絶命……緊急事態を回避しようとナイトに打開策を求める。だがナイトは何も言わず、俯きアーマードナイトの胸を見るとそこに浮かぶ瞳は微かに泳いでおり……隠しきれない焦燥を感じさせた。
「地上に着地した時、タイムリミット——残り時間は残り1秒となる。だから、着地の瞬間に全力で逃げて、分離して、それで……アーマードワールデスが俺を破壊すればそれはつまりアーマードナイトを打ち倒した事になる」
「ッ……俺だけ逃げろって言うのか!?」
それは、自分の為に誰かを犠牲にするなんて事はヒーローからはかけ離れた行動……真逆のモノ。そんな事する訳にはいかない。
「あぁそう……いや駄目だッ……!」
「なんだッ!?」
「違う……俺とお前は同時に、共に死ななければ……!」
「おいナイト……駄目そうだなァ……!」
言動、声の震えからナイトの精神は今全くもって正常ではない事が伺える。となると俺自身で、俺だけで打開策を考えなければならない。だが……
「アルマァァァ……!」
「残り5秒あるか……!?」
アーマードワールデスの右拳が、地上が、タイムリミットが、その全て……アーマードナイトの敗北——俺の死を意味するモノ達がもう目前まで迫ってきていた。
右拳との衝突までおそらく残り2秒あるかないか、地上との衝突までは4、タイムリミットは5……右拳を回避し、上手く着地したとしてもタイムリミットは確実に来る。タイムリミットの瞬間にナイトと分離したとしてもアーマードワールデスが俺を見失う確証も無いし、俺は逃げたくない。
「あっ……ぁぁ……!」
周囲の時、迫るモノ全てが遅く感じられる。感覚が研ぎ澄まされ、それにより死を、抗えぬ終わりをより強く感じられた。
どうする事も出来ない——という、そんな焦燥に囚われ、何の意味を持たない、何の意味も成さない無駄な声を発してしまう。
だが、次の瞬間——
「ッ!」
窓から覗くショッピングモールの2階、その内側のある光景を見た瞬間。その動揺は掻き消される事となった。
「ハッ……俺達の勝ちだ!」
「焦燥の末に狂気に心を堕としたか……!」
俺は右手で銃を象り、人差し指を……銃口をアーマードワールデスの頭部、人間であれば脳天の存在する所に向けさせる。
「確かに狂えば苦しくはないッ……だが哀れ……!」
「言ってろ……!」
「ッ……?」
アーマードワールデスは違和感を覚えた。その声からは恐怖により壊れたモノとは思えない程の勇気……何かに対する確信を感じられる。という事は、狂ってなどおらず、先の”俺達の勝ち”という言葉が真実である——と、そういう事。ならばその言葉を真実たらしめる根拠とは何か……
「”俺達”……? まさかッ!?」
アーマードワールデスは根拠に、答えを理解し、それを確かめようとショッピングモールに視線を向ける——するとそこには。
「バトルッ……」
全身の装甲が半壊状態になりながらも直立し、バトルブラスターを構え、その銃口をアーマードワールデスの頭部に向ける者——アーマードバトラーの姿があった。
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