第七界—9 『鎧ノ開界』
「どうした……らしくないなアーマードワールデス」
「黙れッ……裏切り者が何故ッ……!」
喚き叫ぶアーマードワールデスを見て、ナイトは困惑した様に……純粋に心配している風に声を掛ける。だが、その声はアーマードワールデスの焦燥を更に加速させた。
「私達はッ……ワールデスは世界の為に自らの良心を捨てた……! そうしなければ世界が壊れるから……そうしないと自分が壊れてしまうから!」
両手で自身の頭部を挟む様にして掴み、上半身を大きく揺らし……足元をふらつかせながら、絶叫混じりで語る。
「使命として割り切った雪や、勝利を愛していた刀はまだいい——だが花は偽善に走り、心は己の消失を願い、海は戦いに魅力されようとしッ……そして自身の力に絶望した……!」
「……あぁ」
アーマードワールデスの語り——花と心と海のワールデス達の苦悩には心当たりがあった。
『私も自分で命を奪ったりはしたくないからね』
と、フラワーワールデスは俺との1体1での会話——花の談義の際にそう発言していた。この言葉とアーマードワールデスの言っていた偽善に走り——という事が繋がっている。フラワーワールデスは目の前の敵より小さな、たった1輪の花を優先し負ける様な優しい心を持っている。だから自らの業に耐えられない——だから《幸せな夢に誘う》という大義名分、偽善を掲げなければならなかったのだろう。
『もう嫌なんだ……誰かを不幸にして、誰かの心の悲鳴を聞くのは……もう耐えられないんだ……!』
ハートワールデスはそう嗚咽交じりに、使命と業からの解放を望み……懇願し、叫んでいた。それはつまり、確実に自らの死を願っていた——という事であり、アーマードワールデスの言う己の消失そのモノの意である。
『……死んだな』
シーワールデスとの戦いの最中、俺が荒波に飛び込んだ後の沈黙……その中で発せられた言葉。それはとても冷たく……俺に対して失望した——いや、それ以上に自分自身の強さへの絶望。それが込められていた。
『面白くなってきたなァ朝日 昇流ゥ! どうやら貴様は俺を本気で楽しませてくれるらしいナァァア!?』
そして俺が海から姿を現した後、シーワールデスは絶望とは真逆の希望を俺に感じている様であった。きっと、戦いを愛する事で罪悪感を掻き消そうとしていたのだろう。だが愛せる程の戦い——手に汗握る接戦はシーワールデスの圧倒的な力では叶わず、自身の力を呪いながら戦いを欲していた。つまりあの時、あいつは遂に自身の力を受けても再起する存在、絶望の暗闇の中に現れた光を見つけ、歓喜していたのだらう。
「そうまでして、そんなにまでなって……世界の為に、無数の世界で開界し……そして幾千もの悲しみ、絶望、怒り——不幸を生み出してきた。世界の癌——絶対的不幸が誕生しない様、その代わりとして……!」
「よく分からないけど……お前達は世界の……健康? その為に沢山の世界を自らの世界で塗り替えてきたっていうのか?」
世界の癌の誕生の阻止、そこから連想されるのは世界の健康維持の様なモノ。語りの具体的な内容は分からないがとにかく、ワールデス達は世界の平和の為にいくつもの世界を侵略してきた——という事らしい。
「あぁ……あぁそうだ! だがッ……だというのに世界は! 私達が自らを犠牲にして守ってきた世界が、私達ワールデスを否定し……不用品として処分しようとしている!」
黒姫の部屋で語られた事、古物の守護者と新たな守護者——ワールデスとアーマードの事だろうか。
「不幸により絶対的不幸を防ぐワールデスではなく……正義により絶望的不幸を打ち砕くアーマードを愛した! ッ……なんだ……なんなんだこれはッ……」
「ッ……」
アーマードワールデスの声はどんどんと弱々しくなり、それと共にその鎧の輝きは風前の灯となり……脱力し地面に膝を付く。
そして、上げられた顔、その上の薄紫色のバイザー……それは決して形の変わらない物であり、優雅な様を見せ付けていた時も、哀れに嘆く今も同じ形をしている。だが、形は変わらなくともバイザーからは……アーマードワールデスの目からは意思——憎悪がはっきりと感じられた。
「何故お前なんだ……自らを上位の者ッ! 神に等しき者だと慢心し! ワールデス以外の全てを見下してきた貴様が何故ッ……どうして新たな守護者に……人間と共にアーマードになっている!」
その言葉を、狂乱の嘆きを聞いて理解した。アーマードワールデスは、最後のワールデスは——
「……嫉妬、みたいなモノか」
俺達、アーマードナイト——というよりナイトに嫉妬……羨望を1段超えて妬んでいるのだろう。
「あぁ君の言う通りッ……私は嫉妬している……! だからッ……私は……!」
アーマードワールデスは再び肉体……鎧を黄金に輝かせて立ち上がり……俺達に鋭い視線と共に人差し指を向け、そして——
「君達を……アーマードナイトを抹殺し、アーマードを否定ッ……そしてワールデスを……私自身を肯定する!」
黄金の輝きと同じ様に調子を取り戻した鎧の声。それが発せられ、宣戦布告が掲げられたその時だった。
どこからか銀の霧——塵が屋上に舞い降り……
「ッ……! やッ……ばいな」
「遂に本気で来るつもりらしい……!」
俺達とアーマードワールデスを取り囲むようにして無数の、黄金の鎧とは対照的な白銀の鎧を作り出した。その群がり、屋上を月色に染め上げる鎧達。それら全ての視線は俺達、アーマードナイトに向けられる。それには確実で明確な殺意が込められており——
「押し潰せアーマードレギオンッ……二番煎じの守護者を!」
「来るッ!」
アーマードワールデスが戦闘開始の言葉、合図を言い放った瞬間。全ての銀の鎧は一斉に、死体に群がるハエの如く俺達に向かい駆けだした。
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