第七界—1 『鎧ノ開界』
——
「ッ……まじで狙ってきやがるぞあいつ!」
「手加減したら訓練にならないからねぇ!」
灰色の通学路、朝日 昇流はかつて……色のある世界が健在であった頃に毎日毎日、何度も通ってきた道駆けていた。
額には汗が流れ、その必死さは遅刻から逃れようとする学生の姿を連想させる。
朝日の走った跡の道には黄金の閃光——バトライルブラスターの銃弾、光線が当たり、赤い溶けかけの穴が量産させられていた。
「まっ……頑張ればギリギリで回避出来るくらいで撃ってるけどね、死なれたら困るし」
3日前のシーワールデスとの戦闘により半壊した展望台、黄金 黒姫はその上から一定の間隔でバトライルブラスターの引き金を引く。
「割と適当にやってるしひょっとしたら当たっちゃうかもだけどさ」
黒姫はしっかりと目視で確認してギリギリの位置に撃っているのではなく、直感に頼り……何となくの感覚で撃っていた。
更に朝日を殺す可能性を全く考慮せず……というか、もしそうなっても別に構わないという風な様子である。
「っ……けどあと少しで校門に辿り着ける! そうすればこのクソみたいな訓練は終わって俺が攻撃側だ……!」
どんどんと迫り……距離の狭まる校門を見つめて、鼓舞する様に自分自身に語りかけた。
あと数秒でこの地獄から開放される、この銃撃の仕返しを黒姫にする事が出来る——と、そう心の中で繰り返す。
だがそんな思考はただのフラグであったと、次の瞬間理解する事となった。
「っォ!?」
つまづく。
目の前ばかりを……視界の先の校門に注目して足元を見なかったせいで足をもつれさせてしまった。
バトライルブラスターの銃撃は全力疾走でようやく、ギリギリ回避出来た……それはつまり、一瞬でも前進を止めてしまえば光線に撃ち抜かれる事となる。
「しまッ……!」
展望台の方から黄金の閃光がこちらに向かい迫ってくるのを視認した。
死を覚悟した時、人の時間感覚は異常になると聞いた事があったがどうやらそれは本当らしい。
本来ならば視認した時にはもう既に視界から消えている程の速度を持つ光線は、俺の視界の中ではスローで再生している様に映る。
だが、だからと言って肉体がその再生速度に対応する事が出来る訳ではない。
光線と同じく、自身の肉体も低倍速で動く様に感じながら、じわじわと迫る死に怯えるしかないのだ。
そして、黄金の閃光が俺の頭部を消失させるその寸前——
「ッ……!?」
突然、光線は何かに弾かれた様に軌道を変え、すぐに……掻き消される様に消失した。
視界の中の時間の流れが遅くなっている状態でも、何かが光線を攻撃した姿は見えなかった。
「ワールデス……ではないか……今の内に!」
だが、確実に何者かの介入があったと確信する。
俺はそんな……見えない何者かの存在を気にしながらも、今はとりあえず、おそらく黒姫が困惑した事によって生まれた隙に校門に向かい走り出した。
「……」
黒姫は光線が弾き飛んだ瞬間を脳内で再生しながら、それと同時に校門に辿り着く朝日の姿を眺める。
特に何も言わず、ただ無言で、呆然と見つめていた。
困惑の色も、悔しさも表情して表現する事はなく事はなく……その整い、造られた様な顔には——
「ハハ」
僅かな歪みもない、機械的に感じられる……そんな満面の笑みが浮かべられていた。
そして、これまでは光を持たず漆黒に染められていたその瞳は彗星が走った後の、跡の如く輝き……煌めきを放つ。
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