第二界—4 『刀ノ開界』


「鎌ッ……それが貴様達アーマードナイトの武器か……! 裏切り者にお似合いの悪を感じさせる……貴様を象徴する刃!」


 カタナワールデスは刀に掛ける力を強める事をやめず……そのまま、下から上への跳躍の勢いは落とさないまま俺達の鎌の刃を見てどこか楽しげに、高揚した様に……新しい玩具のCMでも見た子供が心躍らせている様な、そんな様子で言う。

 戦いの……会話の様子から薄々感じてはいたが、このカタナワールデスという怪人は勝負が、一手間違えば一瞬でその命を散らす、そんな一髪触発の戦いが楽しくて、そして何より好きなのだろう。


「ただの鎌じゃない! こいつは光を消し去ったり飛んだりも出来る鎌ッ……ナイトサイザーだ……!」


 ナイトは胸アーマーの瞳でカタナワールデスを、上から下へと見下ろしながら今必要なのかもよく分からない情報を混じえて言う。

 ナイトサイザー……予想していたより大分、特撮物にありそうなネーミングだった。

 変幻黒刃ナイトサイザー、違和感は特に無い。


「名前などどうでもいい……! その鎌がこの戦いにどんな影響を与えるのか、勝敗を分けるのか……大事なのはそれだけッ……だ!」

「っぅお!?」


 カタナワールデスはそう言い、両手で強く握り締め、ナイトサイザーの刃に強く押し付けていた刀を一瞬で消失する光の様に消滅させる。

 ナイトサイザー越しに全力の力を衝突させていた刀が消えた事で、俺達は……ナイトサイザーは一気に空振り、カタナワールデスに背を向けてしまう。


「しまった……!」

「裏切りの鎧ッ……貴様の命は今! ここで散る!」


 カタナワールデスは新たな刀を生成、右手に掴み取り、そして俺達の背に向かい剣撃をカタナワールデスにとっては最後の……俺達にとっては最期の一撃を放とうとする。

 振られた刀、その輝く刃は風を切り裂き、光の起動を生み……そして俺達の背と紙切れ1枚程度の所にまで迫った。


「っ……うぉぁぁあ!」

「ほう……!」


 瞬間的な、瞬発力で、脊髄反射的にナイトサイザーを振り上げ天井に突き刺し、そして左腕を曲げ、鈎柄を支点とし身体を前方に向かい上げる事で刀を回避する。

 今はなんとか、ギリギリの所でなんとか回避する事が出来た……だが、カタナワールデスを倒すまではこの剣撃は終わらない。

 そして1度でもまともに攻撃を受けてしまえばおそらく……いや、確実に俺は死ぬ。

 だから死なない為に、生存確率を上げる為にカタナワールデスを1秒でも早く倒さなければならない。


「つまり攻撃の手を1秒、いや一瞬でも止めちゃいけない!」


 鈎柄を軸とし、身体を……アーマードナイトの重たい鎧を遠心力に任せて回転させ、天井からナイトサイザーを引き抜き……重力に引かれ、引力に押され、そして俺自身の力によってカタナワールデスに向かい振り下ろされる。

 カタナワールデスは俺が剣撃を回避した事で空振っており、その右腕と刀は後方を向いていた。

 今、カタナワールデスの攻撃手段……又は防御手段は可能な範囲で最も俺と遠い位置に存在している……つまり、この鎌による斬撃を回避する事も、俺を攻撃する事も不可能……俺が予測出来る範囲内であれば、たとえ現実的ではない、ファンタジーの存在だったとしても、刃の能力を利用し光を生み出したとしても俺の攻撃がトドメ……とは行かなくとも相当なダメージを与えられる事は間違いないはずだった。


 だが——


「素人にしてはよくやった……が、あと一歩及ばなかったな……!」

「っ!? 足から生やせんのかよ!?」


 だが、カタナワールデスのカタナの力は俺の想定外の現象を起こした。

 突然大きく、上げられたカタナワールデスの右足……そのふくらはぎから刀が生えたのだった。

 皮膚を引き裂く事無く、血を噴き出す事無く一瞬で作り出し……そしてナイトサイザーの刃の先に合わせ、上方向への勢いを利用し、ナイトサイザーの峰をレールの様にして足の刀で滑り上がり、俺達に向かい迫る。


「そしてその一歩が勝敗を、生死を分ける!」


 カタナワールデスが迫ってくる……という事はつまり、その手に握られた刀も、死も迫ってくるという事になる。

 どうにかして……なんとかしてこの死を遠ざけなければならない。


 でもどうやって?


 ここまではなんとか……ギリギリの所で死を回避する事が出来ていた……だが、もう何も思い付かない、発想する事が出来なくなっていた。

 跳躍し、どこかへ逃げるのか1番……けれど今の状況……宙に浮かび、触れている物体はナイトサイザーのみ……つまり跳躍による回避は不可能だ。

 それじゃあナイトサイザーを振り回し、カタナワールデスを吹き飛ばすのはどうか……一瞬だけならそれが最適解の様に思える……が、実際にやってみても振り回そうとした瞬間に跳躍され、結局首を斬られるのがオチだろう。

 他には無いか、考える、感じる様に思考する……だがやはり思考は出来ても発想がどうしても出来ない。


 力を手に入れて、俺は人間で、戦いにおいて完全に初心者……素人である。

 そんな俺が、人間ではない怪人であり……戦いにおいて完全な熟練者であるカタナワールデスに勝利出来る訳が、勝負の最中に死なない訳が無かったのだ。

 

 だが俺は忘れていた。

 アーマードナイトは俺じゃなく……俺達であった事を——


「モードランス!」

「っ!? なんだよこんな時にっ……」


 ナイトは突然、意味の分からない……いや、ワード自体の意味は分かるが何の為の、何をする為の物なのか分からない言葉を発する。


 そして意味を知らなかった言葉、その意味を俺は次の瞬間理解する。


「っぉぉが!?」

「うぉぉ!?」

「危ない所だったが上手く行ったな」


 ナイトサイザーはナイトの声に呼応した様に、微かに震え、そして柄首の先……鎌の刃を持ち手に垂直に立ち上がる。

 カタナワールデスは咄嗟の事に、想定外の事に反応出来ず腹を峰で殴打され吹き飛び……そして、その銀に輝く身体を灰色の天井に衝突させた。


「変形もすんのかこれ凄いな、槍……ランスモードってとこか……というか策があるなら先言えよ」

「口に出したらバレるからな、ちゃんと……上手くやってやたんだから許せ」


 ランスモードへと変形したナイトサイザーを見つめながらナイトと気楽に、先程までの戦いにより緊張していた心を和らげて会話する。

 ナイトサイザー……ランスモード……鎌から槍の形態への変形だからランスモードと付けたくなるのは分かるが、それなら武器自体のネーミングに槍要素を入れるべきなんじゃないだろうか、名前には鎌要素しか無いのにその後にランス……いや、やめておこう、そんな細かい事考えても全くもって、何も意味が無いし何よりまだ戦いは終わっていない、こんな事を思考している暇なんて無い、あってはならない。


「っ……」


 天井と衝突した後の落下、その最中に、僅かな時間の間にカタナワールデスは体勢を整え、身体に衝撃を与えない様に両足を曲げ、着地する。

 1度、一瞬は、俺ではカタナワールデスに勝てないと、そう考えてしまっていた……だが、ナイトサイザーの変形による攻撃により完全にカタナワールデスの想定外を突いた、という事実が俺の心を立ち直らせた、闘志を燃え上がらせた。

 勝たなくてはならない……ではなく勝つ、そうやって心に決意を固く決める。


「っ……あまりこの力は使いたくなかったのだが……仕方あるまい……」


 立ち上がったカタナワールデスはどこか今を惜しむ様に言い、刀を両手で逆さにして掴む。

 その刃先は床ではなく、その下……校舎の下の地面、地球そのものを向けられていた。


「なんだ……?」


 攻撃の体勢を取るわけでも、刃を俺に向け威圧するわけでもなく、ただ逆に持っているだけ……アーマードナイトのバイザー越しのそんなカタナワールデスの行動に俺は首を僅かに傾げる。


刀ノ開界トウノカイカイ……!」

「っ! 今すぐ教室から脱出しろ朝日!」

「分かッ……」


 刀ノ開界……と、そう何かの始まりを宣言する様にカタナワールデスが発言し、刀を床に突き刺した直後……

 ナイトがこれから何が行われる行為について理解し、俺に呼びかけ、叫んだ直後……

 そして、俺が廊下への扉へと飛び込み、脱出しようとした瞬間だった——


 カタナワールデスを中央として、床から、地獄の針山を連想させる、無数の刀の刃が波の様に生え、伸び、広がり……教室の中を白銀の煌めきで満たしたのだった。

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