第12話 根本 ユウヤ

「我が名をレゾン・デートルと呼ぶ。」

俺は振り返る、神社の社が消失し、代わりに巨大な存在が佇んでいる。


シカの頭蓋骨をかぶり、人の人差し指のような前足、カタツムを思わせるからと、無数の触手。


先ほどの畑の神と比べて、名状しがたい何かがそこにいる。

恐怖よりも、受け入れる気持ちが強まっている。

「お前は、いったい。」

レゾン・デートルと名乗るそれは、畑の神よりも大きな存在に見える。

物理的にも、位的にも大きな存在。


レゾンデートル……フランス語で確か、という意味。


それを自称するこの存在は……

「我が名をレゾンデートル……お前の魂の価値を測りに来た。」

レゾンデートルは、骨の隙間から白く光る目のようなもので、俺を見つめている。


ゾクッとする。

魂の価値を測る。


「なぜ測るんだ」

俺はそう問いかける。

何となく、わかっている。

が確かにしたい。


「ここは、冥界の入り口……この先への行先をここで決めるんだ。」

生前の行いで、天国か地獄か……五文践……

「俺は死んだのか?」

「それをこれから決める。」


それよりも、一歩手前の審議だった。

死んだかどうか……

「お前は、この世界に迷い込んだ。

死してここに来たわけでない……であるか?」

レゾンデートルは、まるで手に取るように、俺が思おうとしていることを言い当てた。


不気味。


「その通りだ。」

返事を返し終えると同時に、レゾンデートルは指のような前足を使い。

地面に円を描いた。


「その真偽をこの縁で確かめよう。」

そういって、円の中を見つめる。

体感五分は凝視し続けている。


「誤りではなさそうであり……神を還してくれたのか…」

「あれが、神だというならそうかもな……」

そう答えた時、ふと木箱が気になる。

何となく、木箱を開く……重たいわけではないが、ずっしりとした大きな木箱は正直持ち運びに邪魔だ。

それにバイクに乗らない。

いらないなら置いて帰りたい。


鍵もかかっていない木箱は、容易く開かれる。

重みのある、ふたを開けると中には……


二つの骨と頭蓋骨。

そして、大量の文践があった。


「そういうことか……縁だな」

俺はそんなことをつぶやいただろう。

そう、呟いたんだきっと。



「れぞんでぇとる。 あんたに頼みがある。」

俺はそういった。

レゾンデートルは、俺を見下ろしている。

その表情は、はっきりとわからないがどこか笑っている気がした。


「ほぅ、聞くだけ聞こうではないか」

俺は木箱の中にあった、骨と文践を見せる。

「俺は思う。これは、畑の神が俺に渡した物だ。」

レゾンデートルは、黙って俺の話を聞いている。


「この金で、夏目明日夏あの子と一緒に還してくれないか」

俺は、そういった。

文践は確か、三途の川を渡るための運賃として、使われると聞いたことがあった。


「あの娘は、とうに死んでいる。1883年のあの日から、とうに死んでおるわ」

レゾンデートルは、再び円を描き事故の現場を見せてくる。


「だから、これがあるじゃないか」

俺は木箱から、頭蓋骨と二つの骨を取り出す。

これはきっと、彼女の……夏目明日夏の遺骨だ。


なぜ、畑の神がこんなものを渡したのか、わかった。

これは、俺だけの礼じゃない、40年間神を信仰してくれた、夏目明日夏の分も入っているんだ。


髑髏と二本の骨さえあれば復活できる。

これは、日本ではなじみがないが西洋の考えだ。


海賊旗で、髑髏を掲げる理由が……確かそうだったはず。

これが本当であれば……

「西洋の考えで、髑髏と二本の骨で復活できると聞いた……素材と対価は用意したぞ。 これでも足りないなら、俺の復活分から持っていきな。」


俺がそういうと、レゾンデートルは確かに笑った。

「左様か、見事なり。」

そういうと、地面に書かれた二つの円をかき消すと、六芒星を描いた。


そして、描かれた六芒星の中から、白い光があふれだし俺を包み込んだ。

暖かい。

そう思いながらも、まぶしさで目をつぶる。

キィーンという音がしている。

耳鳴りのような音をかき消すように、畑の神とレゾンデートルの声が聞こえ始める。

「夢の中を彷徨う童よ……」

「幻を歩く人よ」












現へと戻るが良い目を覚ませ


















































































――――現――――


「はっ」

気が付くと、俺はあの廃集落の……石畳の階段に座っていた。

「戻ってきたのか……」

俺はそう呟くと、空を見た。

じめじめと湿気の多い福井とは思えないほど、清々しく晴れている。


「アイツも、元の時代に戻ったのだろうか」

そう、独り言をつぶやいたとき。

「ここにいるよ」

と声がした。

慌てて後ろを振り向くと、そこには夏目明日夏が立っていた。


浴衣姿の幼女ではなく、18歳くらい……彼女が最後に見せた見た目のまま、服装はTシャツとジーンズ。


もし、生きているのなら50代くらいではないか?

「どうしてここに……」

俺はそう呟く……帰っているなら、1980年代事故を起こしたあの日だろう……


奇跡の生還を果たし、密かに生きているハズ。

そんなことを思っていると、夏目はこういった。

「だって、根本君がいったんじゃん」

「え?」




あの子と一緒に還るって」












――根本ユウヤの傍観――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

根本ユウヤの傍観 BOA-ヴォア @demiaoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ