第九話 煙
俺は、神様っていうものは信じてない……
無神論者とかそういった話ではない。
信用や信頼といった意味で、信じていないんだ。
神は、あくまでも崇められる存在……言ってしまえば
誰かに奇跡を起こすとか、信仰者を同行とか
人が願えばしてくれるような存在じゃない。
人間が勝手に崇めて、生贄やら合掌やらする。
人間が勝手にかわいがり、餌をやるようなものだ。
次第に神様はなついて、何かしらアクションを起こすことがある。
だから、気まぐれな奴なんだ。
俺は、
怪異に巻き込まれる存在。
ここに連れてこられた理由は、その怪異の解決なんだ。
きっと。
この空間の主は、神様だ。
妖怪や鬼なんかじゃない。
神の箱庭なのだろう。
神社に祭り、鬼や妖怪がい着くようには思えない。
境内は、下の肺集落とは違って、奇麗なまま。
そんな神域に、踏み入れる邪気は、少ない。
夏目明日夏という少女は、探索者ではなく……別の存在。
少女を触媒にしている神。
神は、おそらく山の神……と言っても、よく聞くような猪ノ神
ではないのだろう。
山岳信仰として、崇められた名もなき神様が、山の神となっている。
そんな存在だろう。
日本は、八百万の神……すべての物に、神が宿る。
そんな考えがあったらしい。
自然崇拝のこの国……自然信仰をとっていたこの集落にとって……
――「ネモト君、射的ヤロ」――
少女の声がした。
ふと我に返ると、金魚を袋に入れた少女が佇む。
笑顔の彼女は、射的の屋台を指さしている。
「あぁ、いいよ」
そういって、しゃがんでいた自分を立ち上がらせる。
あぁ、そうだよな。
彼女の体が成長している。
最初の姿からは、想像できないほど大きく成長していた。
身長は伸びている。
155センチメートルとか、それくらいだろうか?
それに髪が伸びて、ピンでとめられている。
顔つきも、少女から大人っぽくなっている。
ぱっと見の印象は、高校生くらいの女の子といった感じだ。
「君は一体、何者なんだ。」
俺は、そう問いかける。
いや、問いかけてしまった。
射的の屋台へと向かう少女が振り返る。
「私?」
笑顔の彼女が再び目を曇らせる。
――夏目明日夏――
夏目明日夏
佐々木智子 夏目孝信
佐々木花子 佐々木史郎 竹内依子 夏目雄大
入尾町 佐々木集落
――根本ユウヤ――
俺は遠回りをしていた。
最初から、そう聞いておけばよかったのに。
「君は一体、何者なんだ。」
それは、彼女が普通の人間だった際、混乱することを避けるためであったり。
異形の存在だった時、やつらにこちらの考えを避けるために、
避けてきた言葉だった。
それが口から零れた。
瞬間に、再びヴィジョンが見える。
そして理解した。
いや、確信したが正しいんだろうか。
先ほどと変わらない彼女が、泣いている。
「私はっ、あっ、」
嗚咽交じりに何かを話す。
気づくと神社の祭りは、終わっていた。
電機は消えて、折りたたまれたテントが残っている。
しかし、相変わらずラジオからは、音楽が鳴り続けていた。
今度は、フォークソング……80年代らしいのかな?
月明かりに照らされ、小さい鳥居が大きく見えた。
鳥居に飲み込まれそうに、少女は佇んで泣いている。
「夏目さん……行こうか……」
俺はあくまで傍観者……そうでありたい。
ただ、ここでまた役目を背負ってしまう。
彼女の背中をさすって、鳥居をくぐる。
長い階段を一段一段と、泣きじゃくる彼女が転ばないように、降りていく。
この子は、きっとここの集落から出てきた血筋なのだろう。
ヴィジョンで見えた、佐々木という姓は福井県では比較的よく聞く。
そして、思い出した。
俺の祖父は、此処……入尾出身だ。
入尾町、丹生郡入尾佐々木集落。
その集落のほとんどは、佐々木さんしかいなかった。
きっと、
だから君は、ここにきてしまった。
そして俺も、ここにきてしまったんだ。
「夏目さん……」
「うん……」
「君がここに来るまで、何してたの?」
彼女は、少し考えた。
おそらく……きっと
上手く思い出せあいまいになる。
彼女はきっと、この空間で長い。
何日とか何か月じゃない……仮に、彼女が80年代の人間であれば、三十年……いや四十年近くの時間を、ここで過ごしている。
現世で生きた時間よりも、長い時間で祭りを楽しんでいる。
「車に乗って……お父さんとお母さんがいて……浅草に――」
彼女がそういったとき、大きな音が鳴った。
それば、爆発のような轟音。
似たような音をあまり聞かないが、強いて言ってしまえば、交通事故にあった瞬間のような音がした。
スリップ・衝突・そして炎上。
向こう側に見える、山からうっすらと夜明けが顔を覗かしている。
薄暗い神社の帰り道、轟音の正体が分かった。
煙が出ている。
遠くから、炎上して出た煙が立っている。
車の事故だろうか?
車……嫌な予感がした。
隣にいる、夏目の様子をうかがう。
何かにおびえるような、表情をして黒煙を見つめていた。
あぁ、嫌な予感がする。
「夏目さん」
「えっ」
彼女は、冷静じゃない。
取り乱して、おびえる彼女に向かって、手を差し出した。
「
「うん」
階段を駆け下りる。
危ない行動で、何度も転びそうになる。
普段からの運動っていうのは、大事だ……
階段を下りるにつれて、彼女の姿がだんだんと変わっていく。
最後の一段を踏み終えたころには、浴衣姿ではなく、普段着と言える服装に変わっていた。
服なんかにはあまり詳しくないが……昭和を感じる。
――潮――
彼女は、我にとって最後の希望だ
一時、死へのセツナのために、此処にいた。
彼女は、迎えを待つ。
我は、最後に…
お互い損はない。
―――――
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