第四話 長い階段の神社は、エレベーター付けてほしいっすマジで。

石畳の階段を一歩一歩上っていく。

さすがに夏場の山場は、暑苦しくてきつい。

汗でシャツがくっついていて気分が悪い……ジャケットを脱いでおけばよかったと後悔していた。


石畳の道のりは長く、かなり山奥へと続いているのだろう。

20分ほど歩いて、ようやく階段の先に鳥居が見えた。

少し色あせた赤色で材質は、ここからじゃわからない。



もうすぐだ。

20を超えたあたりから、少し運動しただけですぐ息切れを起こす。

いや、単に運動をしないせいか……


家に帰ったら、ジムの契約しておこうかな。

このままだと将来が不安である。


鳥居に近づくと、その先には社や灯篭……狛犬?のような像があった。

どれも朽ち果てていて、社に関しては屋根が崩れている。

ぱっと見では、後輩がいる気配はなく。

少しだけ肩を落とし、がっかりした。


「茅野……いないのか」

まだどこか見えない場所に隠れているのかもしれない。

だから大きな声で叫んでみた。


森の木々をすり抜ける夏風が俺の中にある、期待という灯を吹き消した。

誰もいないんだ……

さらにがっかりする。

じゃあ、俺はあと二時間待たないといけないのか。


正直退屈だ。

廃集落に廃神社……それらを数時間かけて見ていられるほど、俺はマニアじゃないんだ。

俺のミスだから、余計に悲しくなる。



△△浅草ってどんなところ?▽▽




俺は、神社にある独特な道を進む。

古い木材でできている柱に手を当てながら鳥居の中をくぐる。《・- ・-・・ ・- -・-・ -・・・ ・- -・--・》

その時心のどこかで、胸騒ぎっていうやつがあった。

だからと言って、ここから引き返そうという気持ちはなかった。


壁に穴が開いていれば手を突っ込む、それが人間ってやつだ。

感覚的にこの先、何かがあることはわかった。


くぐり抜けていく中、空が大きく動いて夜と昼を高速で繰り返す。

時間が進んでいるのだろうか……

いや、逆走しているのかもしれない。


現実に換算すると一瞬の出来事。

それをずっと長く感じた。



ーー異界に呼ばれたーー


俺は昔から誰かに呼ばれる事が多かった。

だからこうなることには、慣れている。

しかし、ひとつだけなれないことと言えば、向こう側に行くときに感じる鳥肌だ。






暗い夜の闇を無数の提燈が照らしている。


いくつかの屋台が並び、いい匂いがした。



ーー祭りの時間ーー


その光景を一言で言えば祭り。

さっきまで廃神社にいたはずが、鳥居をくぐった途端、こんな場所にいた。


どこかに遠くに飛ばされた?

違う、神社や鳥居の造形はそのままだ。


しかし一つだけ違うのは、どこも朽ちていないところだ。

新築では無さそうだが、さっきまで見ていた場所より、何十年も若いという事が見て取れている。

何処も崩れてはいない。


俺は、「あぁ、昔またか」と呟きながら周りをさらに見渡す。


金魚すくいに射的、焼きそばなんかが売っている屋台。

よくある地域の祭りの様な感じだ。


ただ、そこにはいなかった。

そこにいたのは、黒い人形の存在。


影のような人形


幽霊だろうか?もしそうならば、ここは死者の祭りなのだろうか。

深く考えすぎだとは思うけど、昔あの廃集落で大きな事件があって、みんな死んでしまった。

その幽霊がこの祭りに集まっているとか?


「なぁアンタここは一体どこなんだ」

複数の人形の中から一人を選んで話しかける。


しかし彼らには、何も聞こえていないのだろう。

俺の声を無視し、何事もなかったように歩いている。


自ら足を踏み入れて言うのは、なんだか少しここを見て回ったら、脱出しなければならないと思う。

おそらく、彼らと干渉し続けることは、あまりいいことではないんだろう。


屋台の中にいるのも人形だった。

彼らにも話しかけようと思ったが、おそらくさっきと同じになるんだろう。

社の元まで、屋台を見ながら歩く。

射的の景品や金魚すくいの金魚。


何かそういう部分から、情報を得られるのではないかと思った。

射的屋の景品代には、少し古めかしいポスターやおもちゃが、置かれていた。


この祭りは、今より古い時代のものなのだろうか?

そんなことを思っていると、何処からかラジオのチューニングを合わせる音がした。


何処からなのだろうか?

周りを見渡して音の場所を探す。


音の主は、神社の賽銭箱の下にあるラジカセ。

誰かが、今ラジオをつけたのだろう……フォークソングが流れていた。


フォークソングなんて、今の時代そこまで聞くことはない、そんな気がする。

ここは、いつの時代なのだろう。



(鈴々)


鈴の音が鳴った。

周りの音がすべて消えて、鈴の音だけがクリアになって聞こえる。


今度はなんだ。

俺は、後ろを振り向く。

クリアな分、何処から聞こえているのか、はっきりとわかる。


俺が来た場所、つまり鳥居に周りの存在とは違う、何かがいた。

鮮やかな浴衣を身にまとった、赤毛の少女


彼女は、鳥居の中央から俺の眼をのぞき込んでいる。

歳はおそらく、5歳くらい。


——少女っていうよりかは幼女——


幼女……彼女だけがほかの人形とは違っていた。

人間そのままの姿。


少女が祭りの屋台を見て回る、

その姿は、祭りではしゃぐ少女そのもの。


彼女は、普通の人間なのだろうか……

話しかけてみるべきか……いやそれはただの不審者だ。

しかし、この状況では仕方のない気も……


どうにも触れずらい存在だ。

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