第三話 いいかい?

 俺はバイクを取りに再び廃集落へと向かっていた。

道中スマホのメッセージを見直す。

 いわゆるっていうやつだ。


 再び待ち合わせ時刻がいつなのかを考え始める。

詳細な時刻が記載されていない文章で、気になるのは

 X354+45

の座標。


 354+45なら、399

 少しこじつけになるが、3時54分+45分なら、4時39分

 そんな中途半端な時間に、待ち合わせをするだろうか?


 放課後の思い出で、4時39分なら7時間目の授業を受けている生徒の下校時間……それはかなりのこじつけな気もする。

 4時40分ごろなら、放課後友人と何かをしている時間……とか?

 単にそのくらいの時間帯に集合とか?



 それなら、純粋に時間の書き忘れのほうがあり得る話……

 電話をかけたり、メッセージを返そうか?


 まず、後輩の電話番号に電話してみる。

 高校時代に交換したものだが、もしかしたらつながるかもしれない。


(この電話番号は、現在使われておりません)


「まぁ……うん」

 そうだよなって、表情をしているだろう。

 俺は次に、メッセージを送る。

「時間はいつ?」

 送信して、あとは返事が来るのを待つだけだ……


これは、根拠としては薄いが、なんとなく彼女は夕方……それも夕暮れ時に来るのだろう。

 日が落ちるかどうかの時間帯、そう黄昏時。


 後輩は、夕方の時間帯が好きだった。

「夕方は、あっちとこっちの境界線が薄れる時間で、私の中では最もゆったりとした時間。」

そう言っていたような気がした。


 思い出の日……黄昏時……夕方……放課後。


 ー異界と現実が混ざる時黄昏時・たそだれぞ


 黄昏時誰そ彼……だから、ネームレス未確認



 こじつけな考えだが、ありえなくはない。

 ということは、少なからず今から三時間以内に来ると考えよう。


 それまで何をしていようか、ここから最も近いコンビニまでバイクで1時間……わざわざ降りてまでやりたいこともない。


 ならここでの二度寝でも……悪くないが眠気はもう覚めている。

 どうしようか、そう思いながら、廃集落へと戻ってきた。


 そうだ、ここを少し見て回ろう。

 決して廃墟マニアというワケではないが、過去の遺物を見ることは嫌いじゃない。


 俺は、廃集落の入口へと足を進める。

 ところどころ崩れ落ちた朽ち家。


 民家のそばには、古い日用品がおかれている。


 トタンの家でこの日用品……まだ木製が入り混じっててプラスチック製品のごみは真新しい。

 この集落にある建物は、おそらくだが戦後に建てられたのだろう。


 その建築物の歴史を感じながらも何とも、悲しいそして切ない何かを感じた。

 おそらく、70年くらい前までは、ここに人がいたんだろう。

 子供がいて、山道をまたいだ先の畑で畑仕事をする大人たち……



 子供がやがて大人になって、都会へと出ていく。

自然とこの集落の人々は減っていき、ついには廃集落へとなり果ててしまった。


 廃集落の物語が見えた気がした。

 だがこれは、俺の憶測にすぎない。


 後輩は、なぜこんな場所を待ち合わせ場所に選んだのだろうか?


 ここであっているのか、少し不安になる。

 具象的な情報決定的な日時場所ではなく、抽象的な情報 曖昧なヒント となると、自分の出した答えがあっているのか疑ってしまう。


 回答が綺麗に揃ってしまったOXテストや恋人の親への挨拶……

 明確な答えがない状況下で、推測だけで進むのは怖い……


 ごく普通の人間からすれば、なぜこんな山奥の廃墟で待ち合わせなんだ?

 後輩と会うなら、喫茶店とか公園とかそういう場所なのではないか?


 そう思ってしまう。

 ただ、この【普通】という要素に、俺と後輩の関係という【異常】を足すと納得がいく。


 高校時代、お互い異界に触れていた存在だ。

 異界というと、死後だったり、黒曜石のゲートの先のような場所だったり、そんなイメージがあると思う。

 実際そんな感じで、此処ではない何処かを俺たちは異界と称していた。。


 例を挙げれば、古い日本の文化では、人里と山は別の世界っていう考え方がある。

 確か、東北地方の山岳信仰で人は死後、山の麓から修行を積みながら登っていき頂上に着くと、山の神の下で祖霊となり子孫を見守るという価値観がある。


 山岳他界観?確かそんな名前だったはず。


 後輩は、この山異界で高校時代にあった異界騒動悪夢の後日談をしようと言いたいのだろう。


 そして、ここは廃集落……異界から孤立した人々の生きる世界だった場所。

 今は朽ちて山と一体化しつつある、あと数十年数百年たてば、この集落は跡形もなくなるのであろう。


 真夏だというのに、山の陰となって、とても涼しい。

 集落の奥へと足を踏み入れ、いろいろと考えていると山奥へと続く石畳の階段があった。

階段には、木製の鳥居のようなものがいくつも置かれている。

鳥居と鳥居の間に、電線のようなしめ縄が流れていき、山奥に続いている。

まるで、山奥まで……異界のまで続く、トンネルのようにも思える。


 階段の右端には、大きな石がありそこには 【—坂神社】 と書かれている。

 風化していて、読めない部分があるが、この先に神社があるという事実だけは、理解できた。


 過去に、あの悪夢が終わった時、後輩を見た。

 俺が最後に見た後輩の姿……思い出せばその時、彼女は神社によくある神楽鈴のような音を鳴らしていた。


 もしかしたら、この先に……山奥の神社……神々の異界という解釈もとれる。

 行ってみる価値はありそうだ。

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