第11話 - 告白、口づけ

がらんどうの部屋に薬と水、練炭を置く。

窓を閉め切って、隙間をテープで埋める。


窓際に並んで座る。

日差しが、二人を温める。



「ユイ、最後にお姉さんとのことを聞かせて」

彼女は躊躇っている。

「辛いと思うけど、ちゃんと知ってから終わらせたいんだ」

「…分かった」

ぽつぽつと、話しはじめた。


「姉さんは、私が、殺してしまった。

中校生の時、二人で留守番、していた。

突然、知らない女の人が、家に。

大きなナイフ。なにか、叫んでいた。

目の前が暗くなって。姉さんが私を、庇った。


…そして、姉さんの、背中に。

女は、また叫んで、出ていった。

私は、泣いていた。

救急車、呼ばずに。助かったかも、しれないのに。


母さんは、いつも言う。

あなたが殺した。あなたは人を不幸にする。あなたみたいな人間は何も喋らないで。


ずっと、部屋に居た。何年も、誰とも話さなかった。

昔、姉さんとしていた恋愛話、思い出していた。

いつか、誰かと付き合うために。こんな人がいい、とか。こんなデートがしたい、とか。

それで、出会いを探した。

私なんかでも、抱いてくれる人。

そしたら死んで、姉さんに、言うの。

男の人、こんな感じ、だったよって。姉さんだったら、もっと素敵な人が、見つかるよって。

姉さんに、伝えたくて。


マコトさん、メール丁寧。見た目も、素敵。でも何だか、悲しそう。

1回だけのつもりなのに、何回も、会いたくなった。

姉さんのこと、忘れて。

私は、ずるい。

やっぱり、私は、ひどい人間だ」



言葉が消え、時間が流れる。

「ユイ、話してくれてありがとう。…悔いは、ない?」

「分からない。あなたを巻き込むこと、まだ悩んでいる」


彼女は続ける。

「私は、いいの。死ぬべき、人間だから。周りも、不幸にするから」


伊藤は意を決して言う。

「ユイ、少し勇気を出してほしい」

「何の、勇気?」

「僕を信じて、待つ勇気」

「死ぬの、やめる?」

「一つだけ、確かめてからにしたい」

「…うん、待つ」

「少し一人にさせてしまうけど、大丈夫?」

「うん」

「明日には戻るから」

「分かった」


伊藤はユイに口づけをした。

初めての行為だった。


身体を重ねながらも、二人とも口が近づくと見えない壁があるように避けていた。

契約が終わり、恋人になってしまうから。

それはお互いにとって未知の世界で、壊れやすい関係だから。


彼は、一線を超えた。

相手の気持ちを無視して行動するのは初めてだった。

したいから、する。

「ごめん」

伊藤は言う。

ユイは首を振り、伊藤の頬に手を添えて口づけをする。

夕暮れが二人の口元を照らし、影絵のように写す。

影と影が離れて、また一体となる。


何度目かの口づけの後、彼はユイに言った。

「行ってくるね」

「うん、行ってらっしゃい」

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