第10話 - 心中相談
「マコトさん、脱がせて」
「うん」
「じゃあ、交代、ね」
「ユイ」
「私のこと、好き?」
「…」
「あなたは真面目に、言葉を選ぶ。でも、嫌いでなければ好きと、言って」
「…好きだ」
「私も、好き。ね、もっと、触って」
「ユイも、して」
「うん、一緒に」
「好きだよ」
「私も」
「気持ちいい?」
「うん…意地悪」
「ごめん」
「ふふ」
「…」
「もっと頭、撫でて」
「こうかな」
「うん、すごく、幸せ」
「僕も、幸せだ」
「あなたの全部、欲しい」
「全部あげるよ」
「私も、私の全部、あなたに、あげる」
「ユイ」
「やっぱり、あなたは、素敵」
「…ありがとう」
「ね、あなたと、混ざっている」
ホテルを出て、夜の街を歩きながら心中について相談した。
伊藤は普段、死を人一倍恐れている。
体を鍛えることも自炊をするのも煙草を嫌うのも、病気などの意図しない死を避けたいという気持ちが根底にあった。
でも、人は死ぬ。
どうしようもなく、パタパタと死んでいく。
皆、自分はいつまでも死なないと思っている。
周りを見れば純然たる事象として死はそこにあるのに、自分の人生には含まれていないと思っている。
考えても仕方のないことは考えない、という生き方は健全だ。
しかし、それを呪文のように繰り返しても伊藤には終わりを見てしまう。
見えてしまえば、「楽しく生きる」はできなくなる。
社会的には成功しているが、実際には魂を自傷し続ける不毛な生き方しかしていない。
伊藤は周囲の人間に対して、なるべく快を与えたいと思って生きてきた。
ばらばらの人生だから、すれ違うときくらい良い一時になれば、程度の気持ちだ。
ユイ、は不思議だ。
初めて幸せになって欲しいと思った。
彼女の人生に踏み込んででも、幸せになって欲しい。
彼女が死を望むなら共に死にたい。
それしか無いならば。
元の家はユイの母親が来る可能性があると意見が一致したので、新しい住まいに向かう。
地元の不動産屋で借りた物件で、家賃は現金で前払い済み、元の住まいは契約したままで転居届は出していない。
次の日、町医者を回って強めの睡眠薬を処方してもらう。
練炭を買って、帰宅した。
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