第7話 - 二人暮らし

1時間後、シャワーを浴びた後にユイは乾燥が終わった服を着た。


二人で街なかへ出て、携帯を選ぶ。

プレゼントさせてと言って伊藤が代金を支払った。


次に駅ビルに行き、彼女が服を選ぶ間に歯ブラシや食器、食材を買い込む。

冬の澄んだ青空の下、二人は荷物を抱えて家に帰った。



部屋を一つ空けて、彼女の部屋にした。

ユイは携帯電話の設定をしている。

台所に立ち、夕飯を作りはじめた。


彼女の苦手な食材はシイタケとトマト。

無口な彼女から聞き出せたことが嬉しい。

冷蔵庫に余っていたトマトは口に入れてしまう。


ケチャップは大丈夫と言っていたので、オムライスを作った。

オニオンスープとアボカドサラダも並べて、声をかけた。



食後、彼女が携帯のLINEを見せてきた。

自分も携帯を開き、友だちになる。

よろしくお願いします、と頭を下げるスタンプが届いた。

伊藤もスタンプを送り返す。

二人は顔を合わせて微笑んだ。



夜、彼女にベッドをゆずってソファで寝ようとすると、首を振られた。

「一緒が、いい」

小さい声で彼女は言う。

ベッドに並ぶ。心臓が高鳴る。

彼女が手を伸ばしてくる。

優しく握る。


それだけで幸せなのに。もしかしたら、これこそが幸せなのに身体まで求めてしまう。


それでも。抗って彼女に言う。

「しなくても、嫌いになったりしないから」

彼女が身を寄せていくる。

「しちゃ駄目?」

「そんなことは」


相手から求められた場合、額面通りに受け取るべきなのか。

正解が分からないので、相手を見る。

ユイは恥じらいながら待っている。


自分は、身体の関係を重く見すぎているのかもしれない。

彼女を抱いた。

これは意思の弱さなのか、正しい判断なのか。

寝息を立てる彼女を眺め、答えのないことを自問する。

いや、答えのないことだから考えることが大切なのかもしれない。



翌朝、合鍵を彼女に渡して会社に行く。

「行ってらっしゃい」

か細く、でも優しい声で見送ってくれた。

こんな幸せがあったのかと思う。


昼頃、「冷蔵庫にあるものは自由に食べていいよ。」とLINEする。

ありがとうのスタンプが返ってきた後、「夕飯作ってもいい?」と送られてきた。

驚いた後、嬉しい気持ちが広がる。

「もちろん、ありがとう。」と返した。


夕方、早めに仕事を終えて「もうすぐ帰るよ。」と連絡。

「分かった。気をつけてね。」と返信あり。急いで帰宅した。



玄関を開けると、カレーの匂いがした。

「ただいま」

「おかえりなさい」

エプロンをした彼女が小さな声で出迎えてくれた。

カレーがよそわれ、スープやサラダが食卓に並ぶ。


「ありがとう」

彼女がはにかむ。

「いただきます」

二人で手を合わせて食べ始める。

「カレー、美味しいよ」

彼女は嬉しそうに頷く。


食器を洗い、付き合いたての恋人のような一日が過ぎた。

次の日も、その次の日も。

ずっと続くと思っていた。

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