第2話 - コウの誘い


次の月曜、後輩の宮村光一が昼食に誘ってきた。

食事は一人でしたいが、誘われるのは好きだ。


「コウ、何か相談でも?」

「いやいや、ただメシ行きたかっただけっす」

「そっか」

「相変わらずジム行っているんすね」

「ああ、ガチガチになろうとは思ってないけど」

「確かに、女の子に引かれるっすね」

「そっちの方は最近どう?」

「全然っす。また合コン一緒に行きましょうよ」

「いいよ。社内で良ければ設定しようか?」

「あざっす」


候補日と男性側の布陣を相談しつつ、別部署の女性同期に声をかける。

新卒の時、幹事をよく引き受けていたので集まりはいい。


「先輩、社内で付き合ったことあります?」

「ないよ」

「でも飲み会では結構狙われてますよね」

「社内恋愛だと、結婚までいかないと後々仕事で支障が出るだろ」

「付き合って良かったら結婚すればいいじゃないですか」

「そうかもしれないけどな」

「まあ、そしたら合コンできなくなっちゃいますね」

「コウも誘えなくなるし」

「じゃあ先輩はそのままで。そうだ、今度は俺のこと引き立ててくださいね」

「いつもそうしているだろ」

「でしたっけ」

伊藤は同席者が同じくらい話せるようにいつも調整しているので、宮村の感想は間違っていない。


「褒めすぎると不自然だろ」

「そこを何とか」

笑って何とかしてみると約束した。


宮村がモテないのは軽薄に見えて自分の話ばかりするからだ。

伊藤は落ち着きがあり聞き上手なので、外見の要素もあるが女性に好まれやすい。

しかし作った人格のため、自分そのものに好意を持たれていると思うことができない。


思ったまま、感じたままに少しでも周りと関われたら出発点に立てるのだが、どんな相手にも悪く思われないよう自動的に制御された言動で振る舞ってしまう。


長く付き合うのであれば何重もの殻を持っている自分よりも、世界と素のまま接することができる宮村との方が幸せになれると思う。

だから宮村の軽さの良さが分かる相手が見つかることを願っているし、それが真っ当だと考えていた。

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