第33話 ライトメタル

「失礼します」


裕斗とルイーゼ、ヴァネッサは工房の戸を開いた。


「おう!ユウトたちか!」


アルバートは机の上で何かしらの部品を弄っていたが、裕斗たちに気づくと手を振った。裕斗も小さく手を振ってアルバートに近づく。


「あれ?ハンナさんはどうしたんですか?」


裕斗は本来ここにいるはずのエルフの少女を探すが、まるで気配を感じなかった。


「ああ、あいつか。あいつなら疲れたからって自室で寝てるぜ。まったく、脆弱なこった」


舌打ちするアルバートに裕斗は苦笑いしつつ、裕斗は本題に移った。


「どうですか?魔導騎士の解析のほうは」


「おう、それなら粗方終わったぜ」


アルバートはバラバラにされた魔導騎士の一部らしき、小さな部品を見た。


「まず解析結果からいって、なぜ魔導騎士には適性のあるものしか乗れないのかが分かった」


「ッ!原因は何ですか」


裕斗は身を乗り出して聞く。


魔導騎士には適性のある者しか乗れないため、魔導騎士を量産できたとしても、その問題を解決しなければ意味はない。


「原因は一言でいうと、魔導騎士を作ったやつが付けた安全装置だな」


「安全装置?」


裕斗は眉をひそめた。アルバートの言い方ではまるで適性のあるものでないといけない理由があるようではないか。


「ああ。お前さんは知らないだろうが、適正者は他の奴に比べて魔力が多いんだ」


だが、とアルバートは続ける。


「魔導騎士を操るには、そんな奴らでも魔力を節約せにゃならんほど魔力消費が激しいんだ。それなのに、適性者よりも魔力量が劣る奴らが乗ったらどうなると思う?」


裕斗はそこでハッ、と気づく。


「魔力を限界以上搾り取られて……死ぬ?」


アルバートは頷く。


「察しがいいな。その通りだ」


「そんな……」


それでは意味がないではないか。いくら魔導騎士を量産したとて、乗るものがいないならば、ただのでかい置物なのだから。


うなだれる裕斗に、ルイーゼはポン、と彼の肩に手を置いた。


「そう悲観するな。元よりそうなのではないかいう予想はしていたのだ」


ルイーゼの言葉に、裕斗は「え?」と目を丸くした。


そんな裕斗に、彼女は眼帯越しに自らの右眼をトントン、と叩く。


「私の魔眼は見た対象の魔力を見る。当然、対象者の魔力量も見てとれる。だから魔力の赤い者、つまり適性者の魔力量が多いことは前々から分かっていたのだ」


アルバートはコクン、と頷く。


「ああ。だからいつかこんなことがあろうかと用意していたのさ。少ない魔力を補うための魔導具を」


アルバートは近くにある部品を見せた。


「こいつは魔力タンク。こいつに魔導騎士を十分に動かせる分の魔力をためることで問題なく動かすことができるんだ」


「へえー。そんなものが」


「だが、難点もある。一つ目は破壊されると周りを巻き込んで爆発してしまうこと。二つ目はタンクに魔導騎士を動かせるだけの魔力量を貯めなければならないことだ」


「動かせるだけの魔力量?そんなものどうすれば……」


「そこでお前さ」


アルバートは裕斗を指さした。


「え?」


「お前の無尽蔵の魔力を使えば、量産した新規の魔導騎士に使う魔力タンクを使用可能にできる。……まあ、そのためにはお前さんの魔力を多量に吸収するから、大変だと思うけどな」


「ええ……」


裕斗は初めてここに来た時、魔力を吸収する腕輪をはめられたのを思い出した。

同じようなことをまたやられると思うと、背筋がゾッとするというか……しんどい。


「ま、まあ何はともあれ、これで誰でも魔導騎士に乗れるんですよね」


「まあな。中身のつくりもバラしたおかげで大体分かったし、後はどんな魔導騎士にするかなんだよな」


「どんな魔導騎士?“ソルジャー”を量産すればいいんじゃないの?」


ヴァネッサは首をかしげる。


彼女の疑問には裕斗も同感だった。彼の言い方ではまるで、ただの量産機を作りたいわけじゃないように聞こえたからだ。


「俺も最初はそう思ったんだが、団長直々に今までにない新しい魔導騎士を作るように依頼されたんだ」


「フゥム……」


あの人も無茶ぶりを言うものだ。いや、アルバートたちを信頼しているからこそなのか?


「アルバートさん的にはどんな魔導騎士を作りたいんですか?」


アルバートは「そうだな~」と考え込む。


「俺的にはセントウキに使われてた技術を使いたいと思ってるんだが、どうしたもんか」


「セントウキの技術、ですか……」


裕斗はしばし考え込んだ後、頭の中に一つのアイデアが浮かんだ。


「すみません、ちょっと紙と筆を借りてもいいですか?」


裕斗は机に置いてある紙と筆を指さす。


「?別にいいが」


「ありがとうございます」


裕斗はペコリ、と頭を下げた後、筆を手に取った。


筆を動かすたびに段々とできていくものをヴァネッサは後ろからのぞいた。。


「なにこれ?魔導騎士?」


「うん」


裕斗は描かれた魔導騎士の絵をヴァネッサ達に見せる。


その魔導騎士は基本的には“ソルジャー”と同じ量産機然とした姿形だったが、その背中には戦闘機と同じ大きな翼が付いていた。


「翼を付けることで空の機動力を獲得、翼自体の構造は戦闘機と同じものを採用すればいいし、敵機に対しても大きなアドバンテージを取れるからいいと思うんだ」


それを聞きながらアルバートは「う~ん」と腕を組んだ。そんな彼に疑問を覚える裕斗に、ルイーゼは話しかけて来た。


「ユウト、それは難しいと思うぞ」


「え!?」


まさかの反対意見に裕斗は目を見開いて彼女を見た。


「前にお前が言ったではないか。通常のライダーの魔力量ではあまり飛行することはできないと」


「で、でもそれは魔力タンクで解決できるんじゃ……」


「いや、無理だ」


アルバートは首を横に振った。


「魔力タンクに入れられる最大魔力量は通常のライダーとそう変わらない。だからお前みたいにビュンビュン飛ぶことは難しいな」


「そんなあ……」


裕斗はしょぼんとする。


「……いや、ちょっと待て」


と、そこでアルバートは何かを思い出したように言った。


「魔導騎士の飛行に多量の魔力が必要なのは機体の重量が大きいのが原因だ。なら通常の機体よりも小さく、装甲も薄くした上で、使う素材も軽いものを使えばおそらくは……」


「そんな素材、あるんですか?」


アルバートは「ああ」と頷く。


そうして一息おいて、彼はその名を口にした。


「素材の名はライトメタル。その鉄を使って作った魔導騎士なら、お前さんの希望通りのものにできるかもしれん」

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