第9話 勘違いしないでください

コツ、コツ、コツ、と二人分の足音が廊下に響く。


その足音は、1つの扉の前で止まった。


「ここに団長がいる」


足音を立てていた2人組の1人、ルイーぜはもう1人の…裕斗に向けてそう言った。


「う~ん、何だか緊張するなぁ。何か粗相そそうをしたら即斬首!とかにはならないよね?」


「心配せずとも団長はそのような方ではない。…入るぞ」


ルイーぜはコンコン、と扉をノックした。


「ああ、入っていいよ」


扉の奥から男性の声が返ってきた。


「失礼します!」


男の声を聞いたルイーゼはドアを開けた。


同時に、部屋の中からの光が裕斗の目を照らす。

目が慣れるまでの数秒の後、部屋の奥に座る1人の男の姿が裕斗の目に止まった。


男の年は30手前くらい。

優し気な顔立ちで、物腰も柔らかにみえるが、貫禄、というのだろうか、そのようなものを裕斗は感じ取った。


——この人が、団長……


「ルイーゼ、ならびにサカキバラ・ユウト、到着しました!」


「うん。よく来たね」


団長は座っていた席を立つと、ゆっくりとこちらへ歩を進め二人の前に立った。


「まずは2人とも、今回の“ソルジャー”討伐、おめでとう」


「は!ありがとうございます!」


ルイーゼは声を張り上げて礼を言うと、チラッ、と裕斗の方へと目を向けた。


まるでお前も言え、と言っているようだった。


「は、はい。あ、ありがとうございます……」


裕斗はペコリ、と頭を下げ、礼の言葉を述べた。


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。君たちがいなかったら、私たちは何もできないからね。……それで、君が“ランスロット”に乗っていたのかい?」


団長が裕斗方へと目を向ける。


「は、はい!」


「そうか…君が…。ああ、そういえばまだ私の名を言っていなかったね」


団長は右の手を自らの胸にあて、その名を告げた。


「私の名はユリウス。ユリウス・ヴァーグナーだ。今後ともよろしく頼むよ」


「は…はい!ぼ、僕は榊原裕斗と申します!」


「うん、名前はルイーゼ君から聞いているよ。…さて、挨拶はこのくらいにして、そろそろ本題に移ろうか」


団長は裕斗の瞳を見据え、言った。


「単刀直入に言おう、ユウト君。ぜひ、君の力を貸してくれないか」


「え?」


裕斗はユリウスの言っていることが分からなかった。


いや、分からなかったのではない。分かりたくなかったのだ。


なぜなら、彼の言葉通りの意味ならば……


「ま…待ってください!それはつまり…彼をまた——」


「戦わせたいってことですか?魔導騎士と…」


ルイーゼの言葉を継ぎ、裕斗は尋ねた。


「まあ、そういうことになるね」


ユリウスは裕斗の反応を予想していたかのように淡々と答えた。


「僕が魔導騎士に乗れるから、ですか?」


「それもあるけど、それだけじゃない」


「どういう…ことですか?」


裕斗は眉をひそめた。


「実は君が寝ている時に君の体を色々調べてみたんだ。すると、驚くべきことが分かったんだ」


「驚くべきこと?一体何ですかそれは」


裕斗の問いにユリウスは興味深そうに目を細め、言った。


。あれだけ派手に動いたにもかかわらず…ね」


「は?」


裕斗は目を見開いた。


「その様子だと、君本人も気づいていなかったようだね」


「は…はい…」


裕斗にはユリウスの言っていることが信じられなかった。


彼の言葉の通りなら、裕斗はあの時魔力を使っていなかったということになる。


——いや、それはありえない


そもそも魔導騎士は魔導具である以上、魔力がなければ動けないはずだ。いくらあの魔導騎士が高性能低燃費だったとしても、そんなことはありえない。


ならば、残る可能性は……


「仮に、仮にもだ。使なら、君は大きな戦力となるだろう。…まあ、それも君が私たちに協力すればの話だがね」


「…………」


「ユウト……」


沈黙し、頭を下げる裕斗にルイーゼが心配げな眼差しを向ける。


「戦えば…死ぬかもしれないんですよね?」


震える声で裕斗は問うた。


「そうだね…。いかに君が絶大な力を持っていたとしても、絶対に生き残れるという確証は得られない」


そこまで言って、「しかし、」とユリウスは告げる。


「戦わないというのなら、今回のようなことがまた起こった時に君は

死ぬよ。この国もろともね」


その言葉に、裕斗はギッと歯を食いしばった。


確かにそのとおりだ。


結局どちらを選んだところで100%死なない保証はない。


最初から、答えは決まっていたのかも知れない。


「…分かりました。僕は…戦います」


裕斗の言葉にユリウスは笑みを浮かべた。


「それを聞いて安心したよ。ユウト君、協力感謝す——」


「ただし!」


裕斗の声がユリウスの言葉を遮った。


自然と、意識したわけではないが自らの拳を強く握っていた。


答えは決まっていた。けど、だからこそ。


「僕は僕自身が生き残るために戦います!あなたたちのためではなく、自分のために!…だから、そこのところは勘違いしないでください!」


キッ、と強い目つきで裕斗はユリウスをにらみつける。


対してユリウスは、その反応を喜ぶように口元に小さく笑みを浮かべた。


「ああ、分かったよ。それじゃあよろしく頼むよ、ユウト君」


す、と右の手を裕斗に差し出すユリウス。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


裕斗はその右手を握った。


絶対にこの世界を生き延びるのだと、心の中で決意して——。

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