第8話 知らない天井

「んん…うん…?」


裕斗はうめき声を漏らしながら目を開けると、知らない天井が目に入った。


「ここは…」


「本部…それの医務室の中だ」


「!」


突如聞こえた声のほうを見ると、金髪の少女…ルイーゼが座っていた。


「あ…えっと…ルイーゼさん。だったよね?」


「ああ。それと、ルイーゼで構わない」


「は、はい…」


「…………」


「…………」


しばらくの間、また無言が続いた。


「あの」


その沈黙を壊したのは、またしても裕斗だった。


「なんだ?」


「何かあった?僕が気を失ってる間に……」


「特にない。何か一つ挙げるとすると、貴様を機体ごと国内へと運んで降ろし、この場所へと運んだことだな」


「そう…か」


何もなくて良かったと、裕斗はホッと胸をなで下ろした。


「…その、すまなかった」


「え?」


ルイーゼがなぜ謝ったのか分からず、裕斗は疑問の声を上げた。


「あの時私は、貴様を無理やり戦わせようとした。恥ずべき行為だ。本来なら我々が対処しなければならないのに、適性があるからと……本当に、すまなかった!」


ルイーゼは床に頭をぶつける勢いで深々と頭を下げた。


いきなりの行動に、裕斗は慌てふためく。


「い、いや!君のせいじゃないよ!僕も最初から戦っていれば、まだ被害は抑えられていたかもしれないんだし!」


「し、しかし……」


ルイーゼは納得がいかないような目で裕斗を見た。


これは、思った以上に頭が固いな……と思いながらハァ、とため息をつく。


「じゃあもう、どっちもどっちってことにしよう」


「どっちも……どっち?」


「うん。あの時はどっちも非があった。どちらかに責任を負わせたところで過去が変わるわけでもないんだし、それならどっちも反省して、次は間違えないようにすればいいんだよ」


裕斗の言葉に、ルイーゼはきょとんとした目になった。


「次は間違えないように、注意する……プッ!」


が、ルイーゼは吹き出すというまさかの反応を見せた。


「ちょっ!なんで笑うの!?」


――まるで僕が変なこと言ったみたいじゃないか!


「い、いや…先ほどまで罵られ責められることを覚悟していたのでな、予想外でつい。……とはいえ、そう言われると少し気持ちが楽になった。感謝する」


ルイーゼはそう言うと、フッと笑みを浮かべた。


初めて見せた彼女の笑顔。


年相応とは言えない少し大人びたその笑みは、彼女の今までの苦労が見え、裕斗は心を痛めると同時に、不思議と可憐だとも思えた。


「ああ、それはそうと、まだ自己紹介をしていなかったな」


ルイーゼは思い出したように言うと、立ちあがり、裕斗に向けて右手を差し出した。


「もう知っていると思うが、私の名前はルイーゼという。姓はない。気軽にルイーゼと呼んでくれ」


「は、はい。えーと、僕の名前は榊原裕斗さかきばらゆうとって言います。そ、その……ユウトって呼んでください」


裕斗も自らの名前を言うと、彼女の手を握った。


とても兵士とは思えないその華奢きゃしゃな手の柔らかさを感じ、裕斗はドギマギとした。


とそこで、コンコン近くにあるドアをノックする音が聞こえた。


「む?どうぞ」


ノックに気づいたルイーゼは手を放し、部屋へ入るよう促した。


「はい!失礼します!」


ガチャッとドアを開けて入ってきたのは、ルイーゼと同じ黒い制服を着た眼鏡の少女……シーラだった。


「シーラさん……。どうしたんですか?」


「えーと。それが……がルイーゼさんとそちらの方にお話があると……」


シーラはチラッと裕斗の方を見て言った。


「な!?団長がですか!?」


ルイーぜは驚いたかのように目を見開いた。


当然、裕斗にはなぜ彼女が驚いたのか分からなかった。

団長、というからにはお偉い人ということは予想がつくが…。


「分かりました、すぐに向かいます。ユウト、起きてすぐに悪いが同行願えるか?」


「あ、うん…」


裕斗はまだ眠っていたいという気持ちを押し殺しつつベットから起き上がり、先を行くルイーぜの後をついていった。

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