第10話 新しい寝床

「ああ、今後君が生活する場はルイーゼ君の所を利用するといい」


「あ…」


ユリウスに言われて思い出す。


そうだった。すっかり忘れていた。


身一つで異世界に飛ばされたのだからどこかに住処がなければならない。なければ野宿生活だ。


だが住む場所をあちらが用意してくれるならありがたい。


しかし……


「わ、私のですか!?」


ユリウスの提案にルイーゼはすっとんきょうな声を上げた。


無理もない。見た感じ彼女は15歳かそこら。

そんな年端もいかない少女に出会って1日も経過してない男と一緒に住めなど良い気持ちはしないだろう。


「何か問題でも?私は今後の連携のためにも同じ部屋で生活した方が良いと思うんだけどねえ」


「!い…いえ!なんでもございません……」


ユリウスの質問にルイーゼはおびえるように返した。


すごい震えようだがユリウス団長は怒ると怖いタイプなのだろうか?と裕斗は勘ぐった。


「じゃあ今日はこれくらいにして帰りたまえ。しっかり休んでまた明日ここに来てくれるかな?」


「しょ、承知致しました。ユウト、行くぞ!」


裕斗はユリウスに軽く頭を下げてルイーゼと一緒に「失礼しました」と言い、部屋から出ていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ルイーゼは本部を出ると近くの小さな建物の中に入り、1つの扉の前で足を止めた。


「着いたぞ。ここが私たちの住む場所だ」


「え?ここって…部屋?」


「そうだ。我々はここの一部屋を借りて生活をしている」


「へー」


寮みたいなものかと、一人で納得する。


「では、入れ」


ガチャ、とルイーゼがドアを開け、中の様子が明らかとなった。


中は質素2つの机とイス、ベッドくらいしか置いていない。


「ここって…二人部屋?」


「元々二人一部屋だからな。お前が来るまで私一人でここに住んでいた。…そんなことよりも早く寝ろ。そこがお前のベッドだ」


ピッ、とルイーゼは二つの内一つのベッドを指さした。


「えっと…僕まだ体も洗ってないんだけど…」


「心配するな。お前が気を失っている間に洗っておいた」


「え?君が?」


「違う!何を言っているんだお前は!」


ルイーゼは顔を真っ赤にした。


「ごめんごめん。冗談だよ」


「まったく…バカなことを言ってないで早く寝ろ」


「はいはい」


裕斗は言われた通りベッドの中に入った。


「…明かりを消すぞ」


同じくベッドに入ったルイーゼはは天井の光っている石に向けて手をかざすとフッ、と明かりが消え、部屋が暗くなった。


「ふう…」


裕斗は小さく息を吐き、


――ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!


心の中でその3つの単語を反芻はんすうしていた。


――何で!?何で女の子と一緒に寝ることになってるの!?彼女どころか異性の友達と話したことのなかった僕が!?え!?これ…夢!?


平穏とは言いがたい状態のなか、安らかに眠れるはずもなく、結局裕斗は一睡もできなかった。

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