第25話 兄と妹

 もちろん、このまま平和的に和解することはなく、集められた本来の目的……朝礼が再開される。


「大体の予想はついているとは思うが、オレにつくか妹につくか、てめえら個人が決めろ。どっちにつこうが恨んだりはしねえよ、人徳もまた、船長としての実力だ。

 どちらにつくかで居住区も変わってくる……、同居人や隣室が別の勢力の土竜ってのは嫌だろ? だから分けるためだ――オレとアーミィは、徹底的に交戦するつもりだ」


「兄上に同意じゃ。……女の子はわしについてくるように。

 兄上についていけば、喰われるのも時間の問題じゃからの」


 喜びそうな層もいるが、さておき。


 ジンガーは迷っている……、兄か、妹か……。二人、それぞれの思惑が分からない以上は、片方につくことは避けたかったが、ここで決めろ、と言われている以上は、中立はないのだろう。

 後で変えることもできる、とは思うが……、いちいち居住エリアが変わるのは面倒だ。できればこの一回目で正解を引き当てたい……となれば。


 ちらり、と隣を見るジンガーは……もちろん、フィクシーが快適に過ごせる方を選ぶ。


 となれば、女性である妹の方――アーミィにつくべきだ。


「ジンガー……どっちに、」

「女の子の方だよ」


「……それ、隣室に女の子がたくさんいるから……?」


 勘違いをして不機嫌になっているフィクシーに、違うよ、と否定したが……、完全な納得はしてもらえなかったようだ……。

 ――居住エリアが分けられたと言っても、別に女性ばかりのところに男が一人、混ざったわけでもないだろうに……。


「フィクシーがいない時に部屋から出ないから、大丈夫」


「ん、ならいい」


 と、フィクシーがジンガーの服を掴んで、離してくれなかった。




 アーミィ陣営を選んだジンガーとフィクシーの居住エリアは、飛空艇の左側になった……、これまでは右側だったので、移動を強いられることになる。

 部屋割りはもちろん、ジンガーとフィクシーは同室であることを希望したのだが……、


「男子と女子を一緒にできるわけないでしょ。……妹? だとしてもよ。この子は私たちが責任を持って面倒を見ます。お兄ちゃんは男子側に回ってくださいね」


 と、同じくアーミィ陣営についた年上の女性たちから、フィクシーと同室であることを咎められてしまった。


 フィクシーの意見は完全に無視である……、なにやらごにょごにょと耳打ちをされていたようだが、なにを吹き込んだ? 耳打ち後のフィクシーは、ジンガーと目を合わせてくれなかった。


「フィクシー? 一人で大丈夫か?」


「…………うん、がんばる」


 がんばる、と言っている時点で大丈夫ではなさそうだが、しかし引っ込み思案な彼女が、「がんばる」と言ったのだ……ここは兄として見守るべきだろう。


 部屋が違うので様子を見る機会も減ってしまうだろうけど……、男子と女子で部屋が分けられてしまうと、覗きにいくこともできなくなりそうだ。


「じゃあ、また、な……」


 うん、と頷いたフィクシーの背中を見届け、ジンガーも振り分けられた部屋へ向かう。

 荷物は元々なかった。部屋に備えつけられていたものをレンタルしていたのだ……、部屋が変わっても備え付けの道具は変わらないので、運ぶものはない。

 服くらい……だが、それも作業着があるので手ぶらである。


 困った時は、頼ればこの飛空艇のどこかに解決できる道具がある。


 なければ作るだけだ……それが土竜族が持つ先天性の技術である。


「お邪魔しま……って、まだいないのか」


 目的の部屋に入ったが、同室予定の相手はいなかった。

 完全に部屋を移動するのは今夜からなので、今はまだ元の部屋で同室の相手とお別れのパーティでもしているのかもしれない……。

 二度と会えないわけでもないのだが……、確かに、陣営が違うと会いにくくなるのはあるだろう。男子と女子ではなく、選んだ陣営が違えば、敵対関係となるのだから。


 兄・クランプか。


 妹・アーミィか。


「あ、そうだ――忘れない内にメンテナンスをしておこう」


 ジンガーが製作したプレゼンツがある……、地中の土を集め、鉄球の硬度に固めた球を撃ち出すことができる大砲である。

 こうして上空へ飛んでしまうと、エネルギーとなる土がないので、効果を発揮できない特化型プレゼンツだ――、しかし地上に戻れば使えるプレゼンツだ。

 今は倉庫に置いているが、いつか使える時がくるだろうし、頭の中のアイデアが湧いてきているので、まだ未完成品である……メンテナンスを怠るわけにはいかない。


 それに。


 フィクシーがいない今、なにかをいじっていないと気が済まない。


 彼女が心配で女子の部屋にいって捕まるのはごめんだった……、問答無用で船の外に投げ捨てられることはないだろうけど……避けたい汚名である。




 倉庫に入ると埃が舞っていた……、掃除をしていないようだ。

 他の土竜族がプレゼンツを置いていっているのだ、勝手に触って壊してしまうことは避けたい……なので掃除もまともにできない状態だった。


 ただ、こういう環境こそ、慣れている……落ち着く作業場である。


「……あった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る