第36話 してくれるのは嬉しいよ?

 と思ったが、手を洗い終えた俺は奏のいるキッチンへと向かう。


「かなで~」


 危なくないことを確認して、俺は奏の後ろから抱き着く。


「ちょ、零二くん!?」


 抱きつかれた奏は盛り付けをしながら顔を振り向かせる。


「ハンバーグ、美味しそうだな」


「うん、頑張ったからね」


「ポテトと野菜まで盛ってあるのか」


「健康は大事だからね」


「確かにそうだな」


 ただ肉一品じゃなくて、ちゃんと健康にまで気を遣っている。

 ポテトは健康とは言い難いが、ブロッコリーや、キャベツは健康だろう。

 だがしかし、


「その横にあるのは、なに?」


「あ、これ~?料理してる時耐え切れなくて食べちゃった」


 盛り付けている皿の横に置いてあるのは、チョコパイの空き箱。


「全部食べたのか?」


「ホントは一個だけにしようとしたんだけど、食べ出したら止まらなくて~」


「ご飯前なのにそんな食べて大丈夫なのか?」


「へーきへ~き!ご飯3杯は食べるよ~!」


「それは食べ過ぎだ」


 奏の胃袋どうなってるんだ?お菓子とご飯は別腹の領域をゆうに越している。

 一人で一箱開けるは異常だ。それもご飯前に。


「で~?零二くんは何をしに来たの~?」


 ニマニマとした奏は聞いてくる。


「ちょっと、料理の様子を見にな」


 エプロン姿の奏に抱きつきに来たとは到底言えない。なんか欲求不満みたいに思われそうだし。

 まぁ、奏に限ってそんな事はないだろう。


「お料理は完璧だよ~、盛り付けまでバッチし!」


「うん。超美味しそう」


「頑張って作ったんだからおいしく食べて貰わなきゃ困るからね~」


「そりゃ~美味しく食べるよ」


 奏の手料理、それも味の保証付き。美味しく食べない方が無理がある。


「でもね?お料理してる時に後ろからぎゅーしてくるのはダメだよ?」


 人差し指で鼻を突いてくる奏。


「ごめん、一応危なくないか確認したんだけど」


「危なくないかもだけど、料理してる人には声も掛けずに近づいちゃダメだよ~?」


「すまん」


「これからは気を付けてね~」


「気を付けます」


 良かれと思ってやったことが裏目に出て怒られてしまった。

 これからはもっと自制しなければ。本能のまま動かないようにしよう。


「でもぎゅーしてくれるのはすごくうれしいんだよ?」


「そ、そうか」


「うん!キッチンに居ないときはいつでもしていーからね!」


「ならそうするよ」


「それに、今もう盛り付けも終わったし、今からなら好きなだけしていーよ?」


 と、奏はこちらに振り向いて、俺の腰を掴み胸に顔をうずくめてきた。

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