第5話 館の魔物

「待てっ!!」

 男が少女に気がついて追いかける。

 少女は振り返らずに真っ直ぐ僕の元に走って来る。

――そうだ。

 そのまま連れて来るんだ。

 少女が例の部屋の前に到着した。

「待てよっ」

 男も走ってやって来る。

「っ?!……お前…何故笑っている」

 少女が不気味な笑みを浮かべる。

 …笑っているのはこちら側の少女か。

 少女は慌てた様子で部屋の中に入り、鍵を閉めた。

「おいっ!開けろっ!」

 ガンガンと扉を叩く。

 腐りかけの扉はびくともしない。

 その硬さは新品の扉のよう。

『鍵でその下へ』

 僕は少女に指示を出す。

 もう少しだ。

――ガチャ。

 開いた。

 僕には久しぶりの薄い光が上から注ぐ。

「だ、誰……?」

 少女は呟く。知らないだろうからね。

「こんにちは。助けてあげる」

「たす…ける?あいつから?」

「そうだね」

 少女は自身の背後の扉をチラリと確認し、僕のいる部屋へと降りてくる。

「ここは…?」

「なんにも無い部屋だよ。僕は随分長い間ここに閉じ込められてたんだ」

「そうなんだ………。それで、この後は?」

「ふふっ、そこの扉を開けてくれれば良いよ」

 少女は頷いて鍵を開けた。

 それは僕の解放を…意味する。

 明るい光が差し込む。ついに、開いた。

「は、早くっ…逃げないと」

 少女が急いで廊下に出た。

「見つけたぞ……よくも時間をかけさせたな」

「ひっ」

 その瞬間、先回りしていた男に通路を塞がれてしまった。もう少女には逃げる場所が無い。

「い、いや」

「はぁ…良いよ」

 僕は微笑んで言った。

「あの男は僕の獲……いや、僕が相手するから。君はこの鍵を持って館から離れて」

 鍵だけ渡して、先に行くようにと。

「でも…」

「良いって。僕は用もあるし」

「うん…」

 少女は男の横を走って通り抜ける。

「待てよっっ」

「あっ、ダメだよ」

「なっ?!」

 男は少女の方に振り向こうとして、驚いた表情を見せた。当たり前か。身体が動かせないんだから。

 僕は少女が走り去るのを眺め、男に近づいていく。

「く、来るなっ!」

 男の叫びは虚しく、もはや聞こえてすらいない。

「もう行ったかな」

 居なくなった事を確認して、僕は男に目線を移す。

「っっ!」

 声も出せないか。

「それじゃ、僕も」

 不敵に笑って、舌なめずりをして。

「いただきます」

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