第3話 追う者
「………」
無造作に倒れたままの家具類。
音の原因である巨大な収納棚。
そこはたくさんの物がしまわれた、物置のような場所だった。割れた皿の破片は、無惨にも一つの人形の額に突き刺さっている。
己の探しものが無事である事を祈りつつ、その部屋の物色を始めた。倒れた棚の下、放置された机やクローゼット。使われていない小物入れまで、手がかりになりそうな物を端から確認していく。
数分探し続けさすがに居ないと判断し、部屋を出て行こうと考えていた時にそれを見つけた。
「鍵…だ」
101と表記された新品の鍵。
明らかにこの館のものとは思えない。
しかし先程、一階の101は開かない部屋だった。
(鍵のかかった部屋にいるはずは無い…よな)
何かの間違いで入っていたら。
男は念の為にその鍵を拝借すると、その部屋から出た。そのまま三階の探索を続けるようだ。
三階には今の物置と残り二部屋にトイレ。
他の階と比べると随分扉が少ない。
こちら側にはトイレだけであるため、男は反対側の二部屋に向かう。同じくボロボロで歩きにくい廊下は、2階と違い窓ガラスが割れていないため多少まともに歩く事ができた。
腐った床を踏み抜かないようにして、二部屋のうちの手前側の扉まで来た。
ドアノブに手をかけて、そっと回す。
――開かない。鍵穴がついている以上、探すならまずは鍵を見つけなければいけないようだ。
もう一つの部屋も確認したが、こちらも同様に開きはしなかった。
「この階は来てない……いや、内側から鍵をかけているかも知れないか」
男はそう予想して鍵を探す事に。
最も怪しいのは物置だが、あの部屋ばかり探しても見つかりそうにない。
そう考えた男は、持っている鍵を使うために一階に降りることにした。階段を使い下まで移動する。腐ってギシギシと音を立てる階段を、なんの躊躇いもなく。
「101……こっちだったか」
先程食堂があったのは左。
持っている鍵がこちらで使えるのか。
若干の怪しさが残るもその鍵を鍵穴に差し込む。
穴の中まで錆び付いているようで、奥まで上手く入らない。しばらくガチャガチャしていると、何とか鍵が入り、扉は開いた。
錆び付いた扉を強く押し中に入ると、他の部屋とは違い真っ暗な部屋。この部屋だけ窓がない。
男は懐中電灯でよく照らして中を調べる。
置いある家具自体は他の部屋と大差ない。
違うのは入口に置かれた明るい色の…壺。
しかしその明るさも、描かれた模様の気味悪さで雰囲気は最悪だ。まるでこの部屋の使用者を見張っているように感じる。
せめて鍵が無いかだけでも確認したいと男はその部屋を物色し始める。探し始めてすぐに男は気になるものを一つ発見した。
それは、用意された机の引き出しに、布でくるめられた一冊の手帳だった。
男はそれを手に取ると、躊躇いもなくそれを開く。
中は誰かの日記のようだ。
『○月×日
今日は例の取引の為にこの館を訪れた。
町の住民からは薄気味悪いと噂されていたが、中は随分綺麗なものだ。庭も手入れが行き届いていて、部屋の掃除もしっかりと成されている。
一つ不思議なのは、部屋に置かれた明るい色の壺。
異様な不気味さを感じる。まるで見られているような…。
いや、そんな事はどうでもいいか。
今は取引を成功させる事だけ考えていよう』
『○月×日
予想以上に取引に手間取っている。
館の主は取引をなかなか認めてくれない。
それどころか数十分に一度席を空けるため、話し合いがスムーズに進まない。
わざとやっているのか…?
いずれにせよ取引を終えるまでは戻れない。
そういえば、少し気になることがあった。この館に来た時から、主以外と全く出会わない。まさか、この巨大な館に一人で住んでいると言うのか…』
『○月×日
まずいことになった。
やはりこの館は来てはいけなかった。
"廃洋館の魔物"
そう書かれた本を見つけた。それはこの館の真理に基づくものだ。"館は人を欲している"、"主に人を集めさせている"。
通りでこの館には人がいないわけだ。
早くここから逃げなければ…
今日の夜には出ていこう』
『…しくじった。
まさか見つかるとは思わなかった。
俺は今、部屋に捕らえられている。もう時期館の化け物に喰われてしまうのだろう。
最後に俺に出来ることは、次に来た奴に逃げるよう伝えることだけ……
この日記を見つからないよう机の中に入れておく
これを読んでいる奴がいたら…今すぐ逃げてくれ』
日記はそこで途切れている。
相当古い物のようで、全て読めたのが奇跡。
「…人を喰う?」
男はその内容の有り得ない内容に頭を悩ませる。到底事実とは思えない。
が、ここまで隠しておいて嘘とも思えない。
「この館、綺麗でも無いしな」
そもそもいつの話なのかも分からない。
日記には綺麗な部屋と書かれている。
今のこの館にはそんな様子は微塵も感じない。館の主もさすがに死んでいるか。
そもそも、男の目的は探し者(もの)。
どの道、見つけるまでは出られない。
日記を元の場所に戻そうとして、男はさらに奥に光る何かを見つけた。手を突っ込んで取り出す。
それは目的の鍵だった。
表記は主の部屋。
「主の部屋……?そんな場所あったか…」
この館のほとんどはボロボロのため、扉の前に書かれていた表記や看板は読めなくなっているものが多い。
しらみ潰しに調べるしか無い。
(待てよ…主の部屋が客室と同じ大きさって事は考えにくい。って事は三階か?)
三階は、他の階層と同じ長さの割に、部屋は左右合わせても三部屋+トイレ。
一部屋が大きいという予想は当たっている。
男はもう一度三階に行くため、鍵を拝借してその部屋を出た。
その暗い部屋は何事も無かったかのように静まり返り、壺は扉を見つめて笑っていた。
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