Episode21:人間進化論
シュリファ先生との殺し合いから2週間が経ち、本格的な修行が始まろうとしていた。それまで何をしていたかというと、私は怪我の治療、パランは体力作り、そして二人揃ってシュリファ先生からの座学を受けていた。
「この周辺に生息する生物兵器の被爆によって進化した生物たちをボクたちは『
「例えばどんなのがいるんですか?」
「そうですね~ ボクが出会ったのであれば…熊と鷹の混合獣ですね!」
「それはなかなかエグそうな奴ですね……」
「はい!それはそれは手強かったですよ!怪力の熊に翼が生え、陸と空を高速で移動するわけですからね。でも、ボクはこうして生きている。今から教えるのはボクたち人間の進化についてです!」
「人間の進化?」
「はい!人間は脳を10%以下でしか使えていないという話は聞いたことがありますか?」
その話を聞いて私はピンと来た。随分前におじさんからその話をされたことがあったのだ。でもあれは一種の説であるとおじさんは言っていた。
「あの話は事実です。ボクたちが何かを握ったり、投げたりする時、脳は無意識に身体を守ろうと力をセーブします。でも、貴方たちは見ましたよね。ボクやクロムくんの人間離れした動きを。あれが人間の進化、『
「脳にそんなことが!?」
パランが興奮気味に声を上げる。だが、私には一つの疑問があった。
「セーフティを無視しても肉体は壊れないんですか?」
「それはもう慣れですね!突然セーフティを無視して100%を使うものなら筋繊維は途端に崩壊するでしょうね」
「でも慣れれば被疫獣も混合獣にも対抗できるんですよね!!すごいじゃないですか!脳覚醒って!」
ウキウキしているパランを前にシュリファ先生は苦い表情を浮かべていた。
「浮かれているところ申し訳ないのですけど……脳覚醒が可能なのは限られた人間だけなんです…。誰でも可能なわけではありませんし、確実的に脳覚醒させる方法もありません。現に都市の方に居るローズちゃんたちもキミたち同様に修行をしに来ましたけれど、今、脳の覚醒ができているのはボクとクロムくん、キュリスくんくらいですし……」
キュリスという男を私はよく知らなかった。彼は、私たちが強制収容施設からラミラレスへと移った始めの数日間は都市に居たそうなのだが、それからは被疫獣を討伐するために郊外に身を置きながら生活しているようだ。まれに都市へと帰って来ることもあったそうなのだが、私がリハビリなどで病院から出ない日も続き、顔を合わせる機会すらもなかった。
パランによればキュリスはテンションの高い陽気な中年の男だそうだ。パランがクロムの元へと弟子入りを志願した際に誰よりも聞く耳を持ってくれたのがそのキュリスという男だったそうだ。
「そっか……誰でもできるわけじゃないのか………」
パランは分かりやすくテンションを下げながら、ボソッと呟いた。だが、パランを励ますためか、シュリファ先生は声に抑揚をつけて、また喋り出した。
「脳を覚醒させることは誰でもできることではないです!ですが、人間の進化にはもう一つ種類があるんです!」
「もう一つあるんですか!?」
「はい!その進化は書物によれば
二人ともその言葉を聞いても、ピンとはこなかった。そんな二人の顔を笑みを浮かべながら覗き込むシュリファ先生は嬉しそうに説明を続けた。
「簡単に言うならば超能力のようなものですね!人間の脳には今だに解明されていないブラックボックスとなっている部分が誰にでも一つあるそうです。その部分は通常、完全に機能が止まっています。ですが、その部分が強いキッカケによって動き出した時、人は脳覚醒とは全く別の未知の力を手に入れることができるのです!」
「シュリファ先生はその神現も使えるんですか…?」
「いいえ!ボクが修得したのは脳覚醒だけで、神現は全くもってダメですね〜 もし詳しいことを聞くのであればボクではなく、都市に居るぺポリオくんか、ローズちゃんに聞いてみてください〜」
私が前々から気になっていたペポの雪原からの大人数一斉移動にはやはり理論があったようだ。それにしても意外なのはあの
「ということなので、貴方たちには明日から自分自身を深く知り、脳覚醒を促す修行に取り組んでもらいます!気張らず頑張って行きましょう〜」
・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、私たちはローズから貰った刀を携えて教会周辺にある巨大な森へと足を運んだ。その森は被疫獣が住む都市郊外とは思えぬ程の異様な静けさが広がっていた。
「さあ、今日から本格的な授業を始めますよ!」
「はい!お願いします!先生!」
「それよりシュリファ先生…… 一つ聞いてもいいですか……?」
「はい!なんでしょうか〜」
「シュリファ先生はともかく、私たちは一応、戦闘ど素人です… そんな私たちがこんな郊外の森に出ていいんですか…?」
「そうですね〜!それを言うなら本来はあの教会も危険極まりない場所の一つです!ですが、このあたり周辺には被疫獣は来ません!」
「どうしてそう言い切れるんですか…?」
「それはボクがこの周辺で被疫獣をブッ殺しまくってるからです〜!」
「え……?」
「ブ!?ブッ殺し!?」
「はい!ブッ殺しまくってます!ブッ殺した被疫獣の死骸や血痕は時間が経てば土に消えて見えなくなります!ですが奴らには動物の勘…?みたいなものでこの場所で被疫獣が多く死んでいることを察知して避けるんですよ!だから最近は遠出しないと奴らをブッ殺せないんですよね〜!」
「先生はどのくらい殺したんですか?」
「確かな記憶ではありませんが……1672匹ほどですかね〜!」
そのハッキリとした数字はシュリファ先生の隣に置かれた、刃物で構成された巨大で歪な十字架を赤黒く輝かせる――――
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