Episode18:家族の知らない姿
それから私は部屋に居たメンバーの自己紹介を聞いた。
最初に紹介するのは私に終始抱き着いていたバカ女こと「ローズ・アルトレア」だ。自らの名にふさわしい長く綺麗な赤毛が特徴的で、両太ももに巻かれたバックルにはナイフが収納されており、全体的に動きやすさを重視した服装だった。
次は私をこの街にまで運んでくれた大男の「ラルフ・シードルフ」だ。彼の身長は見たところ2メートルを超えており、とても大きなフードを被り、生地が厚い重々しい服装を着用していた。彼曰く、極度の寒がりなのだそうだ。そんな彼が扱う武器はこれまた重々しい盾であった。
3人目はあの大蛇に喰われそうになっていた一人で、私が目覚めるまで看病を続けてくれていた小柄な女の「アーシャ・ロドルフ」だ。トレードマークは背に背負った大きなカバンと両手に持った古びたアタッシュケースであった。中には武器の一切はなく、全てが医療の為の道具だそうだ。
4人目は今日会うのが初でウルフヘアの女「ナターシャ・ロドルフ」だ。察しの通りアーシャとナターシャは姉妹である。だが、姉のアーシャとは対照的に落ち着いていて人見知りの性格をしてあり、身長も姉より20センチほど高そうであった。そんな彼女の性格には似合わぬ物騒な大鎌が横には堂々と立て掛けられていた。
そして最後は、私の中でクロムの次に異質な男の「ぺポリオ・ペルート」。皆からは「ぺポ」という愛称で呼ばれているこの男、特に武器らしい武器を携帯しておらず、唯一所持するのは腰のバックに収納された頑丈なロープだけだった。自己紹介の場ではあの施設があった雪原から砂漠に転移したことについては一切触れることは無かったが、あの出来事は絶対にぺポが中心に引き起こされた現象だと私は予想している。だが、わざわざ説明しない辺り何か複雑な事情でもあるのだと思い、私はその話題については触れなかった。
現状、以上5名に加えクロムがこの部屋に居た全員だった。他のメンバーも多数存在しているが、今は外に出払っているそうだ。その他のメンバーに関しては後ほど紹介すると言われた。
それから私はクロムにこれからの予定について尋ねた。
「これから私はどうすればいい?貴方が私に殺し方を教えてくれるのか?」
「後々はそうなるだろうな。だが今はマリア、お前の基礎を作らないと話にならない」
「じゃあ、その基礎作りをここに居る人たちが?」
「いや、もっといい変態に心当たりがある」
そうクロムが言うと、周りの全員が察したように全員溜息を吐く。マリアは不審そうな顔を浮かべながらも、クロムの言葉を受け入れるしかなかった。
そうして話が終わり、ローズに再度手を引かれて外に出ようとした時、クロムはマリアに言葉を渡した。
「ここの全員が家族を失って寄せ集まった。言わば俺たちは家族だ。お前も含めてな」
マリアはそんなクロムの言葉に大きく頷き、喜びと感謝を伝えた。そして、出口の扉を開こうとした時、マリアの意志とは別の何かが強くその扉を開いた。咄嗟にマリアは一歩下がり、扉を開けた元気のいい笑顔の青年を見た。
「おはようございます!クロムさん!皆さん!」
その姿にどこかマリアは既視感があった。あの砂漠のクロムの演説の際に民衆から一人飛び出した青年だったのだ。でも、どうしてこんな場所に居るのかがマリアには一向に見当がつかない。だが、そんな疑問も全てクロムが説明してくれた。
「彼はお前が目覚める10日前。この都市に到着してからすぐに俺への弟子入りを申し出てきた。名はパラン・パートーソン、お前と共に修行に出向いてもらうバディーだ」
「初めまして!パランです!よろしくね!」
強引に手を掴まれ、マリアは挨拶を受ける。マリアもそれに淡々と返事をする。
「私はマリア・フロイト――――よろしく」
その交流を後ろから見ていたローズはニヤニヤとしながらパッとマリアの背を押した。
「ちょうどええやん!パランくん!バディーの交流深めるついでにマリアを病室まで送ってってよ~」
「いいですよ!」
「私ちょうどやらなあかん仕事あって忙しかってん~助かるわ~!」
そうしてマリアとパランは2人で街の中を歩くこととなった。ローズたちはそれを先の部屋から窓を通して見届けていた。
「おいバカ女。テメー仕事なんて一切ないだろ!部屋で休憩したいだけだろ!」
後ろから座っていたぺポが怒鳴る。それに対しローズは朗らかな表情で反論する。
「まあ、それは理由の3割ってとこやで~。あとの理由は今の彼女には多くの人と関わって刺激を与えることが大切や。彼女が失ったモノを取り戻すためなんやったらな~」
「たまには考えることもあるんだな。バカでも」
「はは!お前殺すぞ~!」
・・・・・・・・・・・・・・・
「よし!それじゃあキミを病院に送り届けようか!!」
「いや…それは後でいい」
マリアの言葉を聞いたパランは首を傾け、不思議そうな顔を浮かべていた。
「いやいや!!今は安静にしなきゃ、現に今もオレの腕掴んで歩いてるよね!?」
「それはそうだけど……もう少し街を見たい。あとあの人たちに聞きそびれたことをアンタに聞いときたい」
パランは眉間の
「これからバディーを組むんだし交友を深める機会に丁度いいか!!激しい運動しなければアーシャさんに怒られることもないだろうし!」
「ならさ、人がいっぱい集まってるところを紹介してよ」
「うん!いいよ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
それから少し歩いて二人はここへ避難してきたイリアルの民衆が集まる広場へと向かった。その道中にマリアはパランへと質問を投げていた。
「この都市は昔、被爆の被害を受けたって聞いたけど、私たちはこの街に滞在しても大丈夫なのか?」
「それは大丈夫みたいだよ!確かに動物は当時の生物兵器の被爆を受けて進化を続けて巨大化したり、狂暴化を続けてるそうだけれど、それは動物の遺伝子がその汚染に対応するためにしてきた適応に過ぎないみたい。でも今は人間にほとんど害がないレベルにまで汚染は落ち着いてるって、クロムさんは言ってた!」
「なるほど……じゃあ――――」
広場が見え始め、周りに人影も多く見え始めてくる。それでもマリアが質問を続けようとした時、パランの方を見るととても不満そうな顔でこちらを睨んでいた。
「どうした?」
「どうした?じゃないよ!!さっきから固い話ばかりで全然仲を深める質問されてないよ!!」
「仲を深める質問って何?」
「仲を深める質問っていうのは……!えっと……!その……………好きな食べ物とか!!」
「好きな食べ物は………おじさんが作ったシチューかな」
「おじさん?それはマリアの家族?」
「そう。血は繋がってないけど、私にとって大切な家族の一人。でも、もう死んでしまった」
「どんな人だったの?」
マリアはそんな質問されることなんて思ってもいなかったの少々言い淀んだ。でも、記憶の中のおじさんを思い返すとすぐに、それは言葉になった。
「すごく落ち着いていて、とても優しくて、私を助けるために自分を犠牲にするような人。その人に助けられたから今の私は存在している。今、私の中で燃える信念はおじさんから貰ったもの。だから私はおじさんのラーカス・フロイトという名から自分の名前を取った」
「ラーカス・フロイトって――――――――」
そうやってパランがマリアへと言葉を掛けようとした時、二人の後ろから杖を突いた老人が腹の底から怒鳴った。
「あの男が………!!ラーカス・フロイトが優しい人だと…!!!!!」
あまりの大声に周りの視線も一斉に老人へと集まる。それからも老人の激高は続いた。
「言葉を間違えるのも大概にしろよ餓鬼が!!あの男は裏切り者だ!!悪魔そのものだぞ!!!」
少女の知らぬラーカス・フロイトの過去が語られようとしていた――――
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