Episode15:死へ向かう民衆
刀に付着した大量の血を薙ぎ払い、クロムは立ち止まった先頭集団へと足を運んだ。ぺポやその仲間たちがクロムへ手を振る中、助けられたイリアルの民たちは目の前で起きた非現実的な光景から目を離せないでいた。
「そっちに負傷者はいないか?」
「キミのお陰で誰もおらんでー」
赤い血にまみれたクロムが先頭集団に合流する。その時、イリアルの民たちは、自分たちと背丈もあまり変わらないこの男が、数十倍もサイズの違う
「さあ。皆さん、目的地へ向かいましょう」
クロムが民衆に呼び掛ける。だが、誰一人として前に進み出そうとする者はいなかった。皆が行き先とは逆を振り返り、大蛇の死体を眺めた。
「皆さん、その死体は仲間を呼び寄せる可能性もあります。早く先に進みま――――」
クロムが喋る途中、民衆の中で人影に隠れ顔も見えない誰かが、震えた声でクロムに問い掛けた。
「俺たちは………助かるんじゃないんですか………?」
クロムは堂々とした表情で答えを返した。
「助かります。俺たちが助けます」
「あなたの言葉を聞く限り、あの化け物はあの一体だけじゃないんですよね?」
クロムは嘘偽りなく、その民衆の言葉を肯定した。
「じゃあ……助かるってことは、あの化け物は今から向かう目的地へは侵攻しては来ないん……ですよね?」
次の質問にもクロムは迷いなく民衆の男の言葉に答えた。
「いいえ。奴らは己の食料の為に我々の元へ侵攻を繰り返します」
民衆が一気に騒めく。一人、また一人とクロムへ言葉を投げつける。
『それの何処が安全地帯なんだよ!』『私たち助からないんだ……』『こんなの死んだも同然じゃないか』『死にたくない!死にたくない!』『お前は何者なんだ?』『あんな動き人間ができる動きじゃない!!』『お前も化け物なんじゃないのか……?』『私たち……あいつらの食料なんだ………』
『これじゃあ、あの施設に居た方が幸せだったんじゃないのかな……』
クロムは民衆の投げた何気ない数々の一言を受け入れようとした。だが、最後の一言だけは反論せずにはいられなかった。
「ルピナリアが俺たちに向けた差別を肯定することだけは絶対に間違っている」
民衆がクロムの言葉で静まり返り、視線が一気に集中する。
「確かに今、貴方たちの目の前には未知の景色が広がっていて、そこに恐怖するのは仕方がない。それでも、俺たちはルピナリアの者たちの行為を許してはならない。許してしまえば、俺たちイリアルはもう死んだも同然だ………」
皆は次にクロムが行った行為に衝撃を受けた。全身を血に染め、ここにいる民衆など一思いに殺せるはずの猛者が深々と頭を下げたのだ。皆は複雑な感情に襲われた。
「今、俺たちはこの化け物が住まう地獄の土地でしか生活できない。それほどまでにイリアルは弱っている。だが、俺たちは敗けたわけじゃない。まだ死んだわけでもない。だから、今はただ生きることを諦めないで欲しい――――」
その時、民衆を掻き分けてクロムの前に立った青年が居た。依然、頭を下げ続けるクロムへ青年は言葉を掛けた。
「頭を……上げてください……」
頭を上げずとも、前に立つ人が最初に疑念を投げてきた青年だと声を聴いたクロムは分かっていた。クロムは視界にその青年を入れる。青年は強く拳を握り、覚悟を決めた表情を浮かべ口を開く。
「他の皆さんはどうか分かりません………。でも、俺は貴方の言葉を聞いて、貴方を信用したくなりました……!」
青年は血で染め上がったクロムの手を躊躇なく手に取った。
「俺たちをお願いします」
すると、青年の言葉に続いて、民衆たちも賛辞や称賛、期待の言葉を口々に発した。それからすぐに、クロムを中心とするイリアルの民たちは移動を始めた。
その時、大男に抱えられた少女は一部始終を横目で見てボソッと呟いた。
「…………はあ………。とんだ茶番だな………………――――――――」
その後、少女は気を失い、長い期間、目を覚まさなかった。
・・・・・・
少女が目を覚ました頃には移動も終わり、クロムの言う安全地帯へと誰一人欠けることなく到着したそうだ。
少女はベットから体を起こして周りを見渡す。その小さな部屋には少女以外は誰も居らず、窓の外の明るさを見る限り早朝のようだった。少女がベットから出ようとした時、小さな部屋の扉が『ドーーーーーン』と破壊的な音で開いた。少女の口から言葉が零れる。
「うわああ………バカ女だ」
「なんや起きとるやん――――て、おい!!おい!!バカ女ってなんや!?」
窓から射し込む朝焼けの光が
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