Episode14:竜を狩る鬼

 皆が突然の揺れに動揺し、震源地へと視線を移す。そこには空想上の竜をほうふつとさせる大蛇が顔を出していた。皆の足が止まる中、一人の影はその時すでに大蛇の口元に手を伸ばしていた。誰の視線も大蛇を捕えていなかったあの瞬間から、は少女を見つけた時と同じように耳で察知していた。砂漠の砂地に構うことなく最短距離で大蛇へと距離を詰めた。そして、男の手は男女の手を掴み取り、牙が閉まりきる直前で二人を大蛇の口内から救い出した。まさに神業――――しかし、これは男の身体能力によって成せたものではない。あの浮遊感に襲われた一瞬、二人の思考は一致していた。『手を大きく上に差し出す』そうすれば、


「あーーーーありがとうございます!!!


「ありがとう………!」


 名をクロム・クライフ。その者の実力と実績を知る仲間からの信頼が成せた神業である。


「二人とも早く先頭の集団に追い付け」


「分かった……。あの蛇は頼んだよ………」


 ぺポは小柄の女に体を支えられながら先頭へと足を運んでいく。それを横目にクロムは大蛇の次の行動を予測し、腰に携えた刀を抜刀する。一方、大蛇は自らが確実に捕らえたはずの獲物が消えた違和感から、すぐさま地面へと潜ろうとした。それがクロムの予測の範疇だとも知らずに。


 大蛇は口の左側からクロムに体を駆け登られながら刀を通される。大蛇は痛みの正体を理解できずに、体を振り回した。そうするうちに痛みの正体が地面へ潜ろうとした瞬間に起きたことを大蛇は察知し、脳内の退の二文字がへと変化する。大蛇はぺポが向かった先頭集団に目標を絞り、体全体を使用して飛びこんでいく。その時の情景を表すならば、『荒波を舞う竜』そのものであった。


「はああ。やっぱり所詮はの頭脳だな。読みやすい――――」


 大蛇に突き刺した刀で振り落とされることはなく、依然クロムは大蛇の表面に居た。そして、大蛇が飛びついた瞬間、今度は大蛇の右側を尾から頭へと一直線に刀を通した。大蛇ももう飛びついてしまえば痛みが増えても止まることはできない。表面を走り切ったクロムは大蛇が目標に飛びついた軌道上に身を投げた。


「さあ喰えよ」


 クロムが口に入るとすぐに、大蛇は牙を閉めきり丸呑みする。だが、それは大蛇にとって巨大な刃物を丸呑みするのに等しかった。次々に頭から尾に向かい大蛇は切り刻まれた。


 そして、中央まで辿り着く頃に、は地に落ちた――――。中から顔を出した者のは頭から赤い血を被り、天を仰いだ。その姿がと重なる。

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