Episode13:死への存在証明
少女の中で燃える信念は、少女に残された微かな力を出し尽くさせた。今、大男の腕の中で眠る少女の頭に雪が降りかかる。その冷たさが少女を目覚めさせ、冷静さを取り戻させる。
「…………どこ?」
微かに開いた目で周りを見渡そうとするも、体は一切言うことを聞かなかった。だが、少女の発した小さな声を大男は聞き逃さなかった。
「あ!起きたみたいだねー」
その声に呼応するように、大きな荷物を背負った小柄な女も声を掛ける。
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!傷の手当は軽く行いましたが、まだ体は危険です!危険です!あまり体を動かさないでください!あ!お体寒くないですか?待っててください!今、毛布を……」
「大丈夫………わ…たし……寒くない……」
「そんなわけないですよ!遠慮せずに!遠慮せずに!」
「だって……何も………もう何も感じないから――――」
「え…?それってどういう……?」
小柄な女が理解に苦しむ表情を浮かべていると、少女たちの前を歩く1人が、少女の元へ歩み寄ってきた。
「おーーー!起きとるやん!
おちょくるような口調で赤毛の女は少女の頬っぺたを指で突いた。それも、指一本も動かせないとなると、制止することができない。少女は小さく開く口を動かして、対話に持ち込むことにした。
「…………すいません………。あの時は一つのことで頭がいっぱいで…………私…冷静じゃなかった」
「なんやキミ、ホンマさっきと違って小動物みたいやなー!」
女はニコニコとしながら、後ろを向きながらスキップで前へ進む。それを横目に少女は問い掛ける。
「あなた達の瞳は……私や、おじさんと同じ赤い色をしてる。あなた達は、私たち…………同族たちを助けに来てくれたんでしょ…………?」
少女は直接的にイリアルがルピナリアから虐げられている事実を知らなかった。だが、日々の人体実験で相対する人々と、自分やおじさんとの違いは、やはり瞳の色以外なかった。そこからはただの妄想でしかなかったが、少女は無意識のうちに事実に近い答えに辿り着いていた。
「まあー細かい話は後やでー……ぺポ!この子が最後や。あとは頼んだで!」
話していた女が『ぺポ』と呼ぶ方向には男が鎮座していた。だが、その男の前には異様とも呼べる光景が広がっていた。男は両手にロープの両端を握り、大きな円を作り、その中に多くの人々がじっと座っていた。すると、ぺポと呼ばれる人物は溜息をついた。
「はぁああ……。来たよバカ女が……」
「あ゛?な゛んや゛と??」
「俺は今、集中してんだよ。そんな時に話し掛けてきた奴にバカって言って何が悪いんだよ」
「集中してんなら、言葉返してくんなよ?だからお前は――――ぐへ!」
ぺポと言い合っていた女は、またあの男に頭を思いっきり
「また打ったな?私のことをーーー!!!てか、何で私だけ!?」
「さっきから時間がないって言っているよな。なんで打たれたかくらい自分で考えろ」
「ハハハハハッハア!ざまあないね、バカ女!」
「おいぺポ、これで準備できてないとか言ったら、お前も一発いくぞ」
「俺が準備できてない訳ないだろ」
ぺポは誇らしげな顔をして、もう一度ロープを強く握り直す。それを聞いた他称:バカ女はぺポに殴りかかろうとするところを、小柄な女に全力で抑えられていた。
「テメー!準備できてるなら話し掛けたっていいだろ!?!?」
「落ち着いて!落ち着いて!」
それからもう一発、バカ女は拳を食らい、すぐさま少女たち含める全員が円の中に入った。雪が降りしきる世界の中心で、大きな円の中に人が密集する。中に居るあの施設から助けられたであろうイリアルの民は皆、不安そうな顔を浮かべていた。それは少女も同様であった。だが、その空気を断ち切るようにぺポの低く澄んだ声が響く。
「行きます………!!」
その瞬間、皆は驚愕する。先ほどまで雪が降りしきっていた円の外の風景が、一瞬にして消え去り、霧の深い砂漠へと移り変わる。気温は先の場所と比べ熱帯的で、風に混じる砂が円内の人々を度々襲った。雪の次は砂かと、皆が顔を守ろうと体を縮め込む。時間が経ち風が止み、皆が訳も分からず四方八方を見渡し立ち尽くす中、少女を助けた刀の男が声を発した。
「皆さん、俺たちに着いて来てください。先に運ばれた方たちが居る安全地帯へ移動します。霧が濃いため、はぐれないように注意してください」
未知の出来事の連続になかなか円の中の人々は動けないでいた。だが、疑念の声に包まれていた空間も、次第にざわめきを見せ始め、円の中の一人が動きだしたことをきっかけに、少女を含む多くの人々の移動が始まった。
一方、大移動が始まるのを目の前に1人、鼻から大量の出血をし、体の自由がきかない者が居た。
「ペポくん!!大丈夫ですか!?」
大移動と逆行するように、大きな荷物を背負った小柄な女が走ってくる。その女に目線を合わせるだけでも今のペポには精一杯であった。
「大………丈夫………です!」
「嘘はダメです!ダメです!軽く治療してから、私が肩を貸します!」
「はは………!ありがとう………ございます!」
「何言ってるんですか。無理をさせたのは私達です。ペポくんが居なかったらこの作戦は成功どころか、実行することすらできなかったんですよ!お礼を言うのは私達の方です…!」
「じゃあ、一つお願いいい……ですか…?」
「何ですか?私にできることなら何でも言ってください!」
目を輝かせながら女はぺポを見た。
「あのバカ女に能力の使い過ぎで動けなかくなったこと……………隠しててくれませんか?」
女は溜息をついて、『やれやれ』と呆れた表情を浮かべながらも、ぺポの目を見て答えた。
「はい!分かりましたよ!バカ男くん!」
「ええ……え~~……。バカ男はやめてくださいよ~!」
二人の笑い声が霧の濃い広大な砂漠の中に響く。だが、それは同時に、この広大な砂漠で群れからはぐれた者たちの存在証明だった。地が揺れ、気づかぬうちに二人の足元は浮遊感に襲われる。二人と地面を同時に丸飲みにするかのように、彼らの居る地面の真下から天へ昇る勢いで、大きな大蛇の口が現れる。その大きさは、二人を中心に直径10メートルほどの大きさであった。彼らが気づいた頃には、周りの砂漠の風景が大蛇の牙に囲われる。状況に気が付いても二人に為す術はなかった。声を上げる間もなく、二人に死が近づく。
だが、その瞬間にも既に砂の海を駆け、群れと逆行する一人の影があった――――
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