Episode12:全身前進

 体中は傷だらけのはずなのに痛みは一切ない。ずっとドアを見つめて、次の人体実験の時を待つ。最近は明らかに薬の投与の数も増し、少しずつ精神は疲弊した。少女の精神を安定させるのは、皮肉にも、孤独な静けさに包まれた牢獄の中だった。


 だから、牢獄から聞こえる外からの微かな音に関しては、人一倍知っていた。その日、訪れた多くの。人がいっぱい死ぬ音だった。


 そして今、首の枷から伸びた鎖は、目の前に居るによって断ち切られた。状況は一つも分からない。だが、少女は弟を助けるには、この機会しかないと思った。


「はやく゛はやく゛い゛か゛なきゃ…………」


 今にも走り出したいはずなのに、地に立つことすらできない。それほどまでに疲弊した少女には、体全体を使って這いつくばって前へ進むことしか許されなかった。それを見ていた男は少女の前に立ちはだかり、声を掛ける。


「止まれ。お前の体は動けるものじゃない」


「どけ……わ゛た゛しが………おとう゛とお゛たすけ゛る゛!!!!!!」


 少女の瞳は大きく開き、信念に駆られた獣の目をしていた。


 その時、多くの足音が男の背後からこちらに近づいて来た。数としては4人、それぞれが武器を携えて男のもとへ集まった。その中のロングヘアの女と短髪の男が息を切らしながら叫んだ。


「ちょっと!!キミ走るの早すぎるって!!私たちのこともちょっとは考えてよ!バ~カ~!!」


「そうですよ!あんな速さに俺たち付いていけないっすよ!」


「すまない。何せ時間がないからな――――」


 悠長に男たちが喋っているうちに、少女は地を這いながら弟の居る場所を目指していた。だが、その進行はガタイが大きな大男によって阻止される。そして、その大男はおっとりとした野太い声で言葉を投げた。


「ダメだよ。キミの体はボロボロなんだからー安静にしていないとー」


「そうです!そうです!今すぐ休まないと危険!!」


 大男の後ろから、大きな荷物を背負ったキャシャな女も頭だけを覗かせて言ってきた。そんな抑止など関係ないかのように少女は力ずくで道を突破しようとする。だが、所詮は瀕死の子供。大男に体を掴まれると、なすすべなく持ち上げられてしまった。


「離せ……離せ…!離せよ!!!私は弟を助けに行かないと!」


「めっちゃ威勢のいい女の子やね。で、その弟くんはどこにるん?」


「離せ!!離せ!!」


「いや、だからどこに……?」


「早く!!早く!!離せ!!!」


「分かったから弟くんはどこに――――――――」


「私が……私が助けに行かなきゃ――――――――」


「だーーーーー!!私の質問無視すんなーーーー!!」


 先ほどまで叫んでいた少女はロングヘアの女に頬っぺたをビヨビヨと伸ばされ、口を上手いこと使って言葉を発することができなくなっていた。すると突然、大きく体を振って暴れていた少女の体がピタッと止まった。


『え………?』


 瞬間、緊張感が走るとともに、少女以外のこの場のメンバーの大半が思った。『この女の子死んじゃったんじゃね??』と。


「……いくら無視されたからって………人を殺すなんて――――」


「え………?」


「私は危険って言いましたよ………」


「僕も言いましたよー」


「え…え………?私、ヤッてもうたん……?この子、殺してもうたんか………?」


 ロングヘアの女は後ずさりしながら、頭を抱えていた。そして、膝から崩れ落ち、少女に目線を合わせられないでいた。


「あーーーーごめーーーーん!!こんなことなるなんて思ってなかってん――――」


「お前ら茶番はそれくらいにしろ。時間ないって俺、言ったよな?」


 男は女の頭をはたき、少女のもとへと足を運んだ。男は少女を観察すると、涙目の女に向けて言った。


「こんな体の状態で動いていたんだ。ただの気絶だ。さあ、早く集合地点に向かうぞ、お前ら」


 その言葉が耳に入った瞬間、女は数秒前が嘘かのように表情をケロッと変え、男の後をスキップしながら追って行った。


「なーーーんやよかったわーーーー。こんな形で人をあやめるなんて絶対いややもーーーん。でも、いいん?この子の弟を探さんでも?」


「大丈夫だ。この子が俺がの最後の一人だ」


「相変わらず、キミのはすごいねーー」


「こんなの使い方次第でどうにでもなる」


「それはキミだけやでー。正直いつもドン引きやもーん」


 少女を抱え、その者たちは歩む。多くのルピナリアの民たちの血液が流れる廊下を躊躇もなく踏みしめながら――――








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EnDoll・Roll エンドール・ロール 語辺 カタリ @20002525

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