Episode11:交わる信念
あの実験を見終わってすぐに、私は元居た牢獄の中へと再びぶち込まれた。双子の弟が存在したということを知って、その少年が私と同じ道を辿って行くのを目撃した。だが、その事実ばかりに目を向けすぎて、私はもっと客観的なものを見逃していることに、この冷たいコンクリートでできた床で頭を冷やして気が付いた。
あの少年は私と双子なのに、明らかに幼かったのだ。それは当人でなくても気づいてしまう程のものだった。少年の体格や表情から見て、過酷な生活を送っていたようには見えない。それ故に、栄養不足から来る成長の停止ではないだろう。となると、あの少年に異常があると考えるのではなく、私に異常があると考えるのが妥当だろう。そうして仮説を立てるとするならば――――
「投与された薬に成長を促す何かが含まれていた?」
長年投与されていたからこそ、少年と私の体の成長に差が生まれたと考えると、ある程度の辻褄が合う。そうして、私の今の年齢を考えると――――
「あれ…………?私って今何歳だ?」
あの家族ごっこが何年続いたのか、私はいつから、あの家族ごっこの虜になっていたのか分からなかった。だが、予測や仮定を頭で巡らせている内に、私と少年の成長の差の原因など、どうでもよくなった。その代わりに、私の中に湧き上がってきたものがあった。私を助けようとしたように、私も弟を助け出したいという信念。そう、あの時の――――
「おじさんみたいに……………」
時が積み重なるに比例して、少女の中の信念は大きく膨れ上がった。だが、時が経っても、少女が弟を助けられる機会は微塵も現れないでいた。あの日、もう一つの大きな信念を持った者たちと出会うまでは。
窓は無く、コンクリートで作られた狭い廊下。端から端へ充満する薬品の匂いに、血肉の匂いが混じり、更なる異臭へ変化する。次々に無数の死体が生み出されるが、悲鳴の一つも聞こえはしなかった。その場所に存在した足音の一つは人間離れをした速度で廊下を駆け抜け、それを追うように多くの力強い足音が後ろにはあった。そして、前を行く者の足が、ある部屋の前で止まった。その者は扉に付けられた無数の鉄の南京錠を、腰に携えた刀を一振りすることで破壊する。開かれた扉の奥は暗がりが広がっていたが、微かに入った光により、中央に人がいることが確認できた。その部屋に居た者の瞳は赤い色をしていた。だが、その瞳に生命感は無かった。
「キミ、動けるか?」
刀を持った者の声に反応するように、暗がりから鎖が地を擦る不快な音がする。少しずつ、暗がりに居た者が光の元へ近づいてくる。髪は自身の背丈よりも長く伸びており、体形は細々としていた。すると、その者の口が小さく開く。
「ああ…………たうへあ……いと。あーあー…………。たすれかりと…………あーーーーー…………おろーとを………」
「待て、今その鎖を断つ」
刀は重々しい鎖を一刀両断し、
並みの人間の精神であれば、既に壊れていたはずだった。だが、この者は耐え抜いていた。感情も痛みも人間らしさも捨て去り、ただ一つの信念を胸の中に秘めた少女が――――――――
「弟を………助けないと…………!!!」
躍動し始めようとしていた。
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