第3話 講義にて②

 講義は進み時計は10時丁度を指していた。あと30分で講義は終わるが正孝の姿はまだ見えない。今日はもう来ないだろう。

 この講義は哲学の講義だ。講義をぼんやり聴き、ノートを取る。

 『The greatest human sin is moody.(人間の最大の罪は、不機嫌である。)ゲーテ』

 汐梨ちゃんはノートを書きながら「不機嫌が最大の罪だったら、人間全員大罪人だよね。」と呟いた。

 「ゲーテが言ってるだけでしょ。なんで不機嫌が大罪なんだろう。」

 「周囲が気を遣うからじゃないの。」

 「汐梨ちゃんいつも不機嫌そうだもんね。」

 「私は目つき悪いだけで不機嫌じゃない。」

 「自分で言うんだ・・・」

 「講義ちゃんと聴きなよ。」

 話を逸らされた気がする。 

 再び講義に耳を傾け、時間が過ぎてゆく。


 講義が終わり、出席カードと課題の提出をしに教壇に向かう。どちらとも提出が済み席に戻るといつの間にか正孝の姿があった。

 「もう講義は終わってるよ。」

 「課題と出席を提出しにね。」

 「代金忘れてないだろうな。次空きコマだろう。」

 「忘れてなかったか・・・」

 「汐梨ちゃんも今日これで終わりだよね。学食行こうよ。」

 「別にいいけど、正孝君先日の課題の代金まだ頂いてないわよ。」

 「忘れてなかったか・・・」

 「デジャブだね。少しは自分で課題やりなよ。」

 「時間無いから無理。」

 「何に時間使ってるの?」

 正孝は少し考える素振りを見せて、答えた。

 「バイトだな。正直大学は卒業出来ればいいし。」

 「なんで大学通ってるのよ。」

 「逆に汐梨はなんで大学通ってるの?」

 「質問に質問に返さないでよ。そんなの勉強したいからに決まってるでしょう。」

 「素晴らし理由だね。でもその理由で大学に通ってる人ってそんなにいないと思うよ。健はなんで通ってるの。」

 改めてそう問われるとなんでだろう。なんとなく就職に有利だからかな。家に余裕があるから?周りが進学するから?義務教育の延長線上にあるからかな。結局なんとなくなんだろうか。

 「まあ、なんとなく楽しそうだからかな。」

 「そうだろ。俺の感覚からすると課題はなんとなく楽しくないの。」

 「いや、関係ないよ。それは。」

 「はあ、そろそろ食堂行かない。混雑するよ。」

 ため息をつきながら呆れて食堂に促される。

 


 

 

 

 


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