第6話 夢との出会い
アプローチに驚く間もなく、ロップちゃんが喋りかけてきた。
「そりゃそうじゃないですか。あなた達は個人的に気になっている二人でもあるんですから」
いたずらっぽく笑うその顔に、なんだか見透かされた感じがしてしまう。隠し事とかは特にないはずなんだけど。
まだ動画5本と路上ライブ1回しかロクな活動ができてないボクを知ってくれてるのはちょっと感激する。
「ずっと屋上にいるのもなんですし、カフェにでも行きましょうか。ハレオさんは飲食できるタイプでしたっけ」
「はい、できます」
「じゃあ行きましょう。奢ります!」
彼女が振り向くと同時に服装がアイドル衣装から地味目の物に変わる、プロジェクションドレスだ。実物は初めて見た。
「はい!」「ありがとうございます」
そうして、スキップしているロップさんについて行き、一緒にコーヒーをすすることになった。
1度しか飲んでいないコーヒーに渦を描くロップちゃん。彼女の目線がボクと合わさる。
「出会って早速の話題としてはあんまりですけど、ハレオさん。オルメリアイドルって何人いるか、知ってます?」
「はい。ボクを頭数に入れていいなら5人、ですよね」
ボク、ロップちゃん、トワイライトルーンの紫月さんと
「滅茶苦茶少ないね。まだ未開拓だ」
ケーキが運ばれてきた。ボクはマスカットとメロンのフルーツタルト、美華はショートケーキ、ロップちゃんはフランボワーズとピスタチオのおしゃれなケーキだ。
「そうなんです。滅茶苦茶少ないからこそ、私はアイドル的な活動をしているオルメリがいないか、日夜詳しく調査してたりするんですよ、ネットで」
「あー。ネットなら手広く見れますもんね」
「そうです。でも全然私の後に続いてくれる子が出てこなくって……」
「あはは……」
和やかに会話できているが、既にボクは疲れてきたぞ。なんかかなり喋った気がする。
ふと、美華が一言しか喋っていないことに気付いた。
「そういえば美華にも興味がある感じでしたけど、優秀だからですか?」
「んー。それもなくはないですけど、今の一番の理由としては、彼が元アイドルだから、というのがありますね」
「……えっ!」
ロップちゃんのジト目の先、思わず美華の方へ向く。なんだか気まずそうだ。
彼には悪いが、ちょっと面倒だったはずの会話にギアが入る。
「隠すことないのに~」
左肘で小突いてみる。
「隠してるつもりじゃ、なかったんだけどね……」
そう言われると信じてしまいそうになるが、ロップちゃんの目が更にじとっとしたので、嘘かもしれないと気付く。
「そっか。でも身近にアイドルがいるなんて、色々と参考にできるじゃん。美華が嫌なら無理には聞かないけど」
「そうだね……、君が頑張るっていうなら、僕も無下にはできないかな」
何か引っ掛かる言い方だ。理由を聞きたいけど、言ってくれなさそうだな。
「そっか」
「……」
なんだか空気が重い。思ったよりセンシティブな話題だったのかな。
「あんまり暗い話するのもなんですし、ケーキ、せっかく頼んだんですし食べちゃいましょう」
「そうですね」
ボクは既に半分食べちゃってるので、少しうなずくだけにした。
「うん! おいしいですね」
「「おいしいですね」」
続けて、美華は食べ物の感想をすらすら言うが、ボクは止まってしまう。やっぱり食レポとかやってたんだろうな~。
「どうしたんですか? あー、ありがとうございます。早速使いますね」
ロップちゃんが誰かと通信している。
「すみませんね。ちょっとカズキさんから連絡をもらって……」
「いえいえ、お構いなく」「お構いなく」
「それでですね、ハレオさん。ここのイベントスペースをカズキさんが1時間貸し切ってくれたそうなので、私はこれからゲリラライブを行います」
なんでボクを名指しで……?
「時間は12時ジャストからで、少し経ったらあなたにも出てもらおうと思っています」
「えっ、なんっ!」
って、12時ってもう10分もない。
「さあ、もう食べ終わったみたいですし、ついてきてください。美華さん、すみませんが、借りますね」
「僕に許可を取らなくてもいいですよ」
途中からずっと半分ずつ残っていたケーキとコーヒーを、彼は今から食べるみたいだ。
「では」
そうして、あれよという間にロップちゃんのゲリラライブが始まり、真っ昼間にもかかわらず大勢の人が集まってきた。
ロップちゃんがMCをこなしながら、リンクした機材を一人で動かしている。さすがはオルメリアイドルの元祖といったところか。慣れすぎている。
「ってなに冷静にロップちゃんの分析してるんだボク!」
ロップちゃんの言う通りならば、舞台裏でスタンバってるボクはこの後、そう遠くないうちに表に引っ張り出され、大勢の衆人の目を引かせることになる。しかも隣には大ベテラン。
ロップちゃんの歌とダンスなら全部ダウンロードしてあるから問題なくこなせはするが、ぽっと出がロップちゃんの隣にいきなり出てきて反感を食らわないだろうか。
「引くなら今、なんだけどなぁ」
でも、憧れのロップちゃんと、間近で見るより凄い事ができる機会はもう2度とないかもしれないのに、それを逃すなんて馬鹿なことだとは思わないのか! ボクは何のために2年もフロントアライアンスで頑張ってきたと思ってるんだ! このためだろう!
「ここでちょっと休憩しまーす。それでですね、今日はなんと! オルメリアイドルの新人さんがゲストとして一緒にライブしてくれることになりました! やっと増えた私の同士なので、皆さん温かく迎えてくださいね!」
オルメリアイドル。の部分が強調されていた。観客がどよめき、そして歓声が上がる。
ロップちゃんが裏に戻ってくる。息が上がることはないはずだが、彼女の顔はいつもより赤かった。
「ハレオさん、準備はできましたか?」
ーー覚悟は決めた。もう進むだけだ。
「はい!」
ロップちゃんから借りたプロジェクションドレスに、オレンジを基調としたアイドル衣装を投影させ、今、舞台に立つ!
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