第5話 休みの日に動く運命
美華が来てから初めての休みの日、二人で出かけることになった。ただ散歩してるみたいな感じだけど、彼は武器の調達や下調べのためと言っていた。
「親睦を深めるため、って言わなきゃ気付かないものなのか……」
美華が何か喋ったが、センサーで拾えない声なら心の声だろうから、詮索するのは野暮だろう。
「せっかくだからおじさんも来ればよかったのにね」
「さすがにそれは……」
彼が苦笑いする。おじさんから拒否られた理由を、彼は分かっているようだ。
「ホントなんでだろーね」
彼に探りを入れてみたが、何も答えは返ってこなかった。
あ、新型のガトリング。さすがに見本用データしか表にないけど、こんな一般の店でも取り扱いあるんだ。
「……どうしたの?」
美華は多分、周りよりボクを見ている気がする。だけどオルメリと人間とはつながってないから、何を思っての事なのかはっきりとは分からない。
「楽しそうだなって。ハレオって、外出が好きなタイプ?」
「まあ、そうかも」
ちゃんとした外出をしたのはミニライブの時が初めてだけど、今回も楽しい感じがする。
今歩いてウインドウショッピングしているのはかなり新鮮な感じだ。
「武器とかアイドルとかよく見てるけど、好きな感じ?」
「武器はまあ、使って便利なのと使って楽しいのが別だからあんまりかな、趣味として見るのは楽しいけど。アイドルの方は、好きというよりかは趣味の一つって感じ、漫画もラノベもネットも大体好きだからさ」
「そっか。趣味はサブカルを広くって感じなんだね。じゃあ、戦うのは仕事って感じ?」
「まあ、仕事かな……。勝ったら嬉しいし、戦い方を考えるのにのめりこむ事もあるけど、趣味には入ってないかな……」
「へ~。仕事って感じだったら、ちょっと面倒な感じ?」
なんで急にその方面に……。
「……おじさんには言わないでよ」
「大丈夫大丈夫」
彼と会話してると楽しいが、ボクが喋らされている事も薄々感じている。ボクの会話の引き出しが狭すぎるばかりに……。と、ここで1つ、話題を思いついた。
「そういえばさ……」
「何?」
「美華って、パートナーになろうって思ったきっかけって何かあるの? ボクは趣味をやるためにはここが一番よかったって感じだけど」
「僕? そうだな~」
彼がなんでもないように唸る。
「なんだろうね? そういえば、ハレオって服とか色々持ってるの? 普段は制服とそのシャツしか見たこと無いけど」
「えっ。そ、それだけだけど」
「それじゃあもったいないって! ここ服屋さん多いから、着回せるように最低でも5.6種類はコーデを作ろう! 僕も手伝うから」
ちょうど服屋の前だからその話になるのも分かる。力説されてはいるが、いまいち良い感じがしない。
「普段なら他に服要らないんじゃい? あと、お金そんなに使う方がもったいない感じがするし……」
「アイドルやりたいなら普段の装いからしっかりしてないとダメだよ。殆どの子が服の勉強して研究して、頑張ってるんだから!」
ついてきて。と手を引っ張られる。見るならゲームとかホビーとかにしたかったが、新発売が無い週だし諦めるか。
普段入らないような店の奥深く、服がいっぱい入ったカゴを持った美華と共に更衣室にいる。まず渡された服をとりあえず着てみる。
「……ほええー」
「どう。似合ってるんじゃない?」
「凄いよ!」
シャツの上にゆったり系の袖、スカートはカーテンみたいなロングなやつ。あまりにも可愛い。これで街に出掛けるならかなりウキウキしそうだ。
「ネットで見るのと違うもんだね」
「そりゃあ、実際に着てみないと分からない事が多いからね。分かる人が多いとスタイリストさんとか要らなくなっちゃうからね」
「確かに」
ボクも選んでみたくなってきた。
組み合わせとかあんまり知らないけど、とりあえずで適当に着てみるか……。
「なんかちょっと変かも」
「あはは……」
どうやら美華の方がセンスは良い。だからこれ以降は美華に全ての服を決めてもらった。
「最初に僕が選んだの、気に入ってくれた?」
「うん。今はこれが一番良い感じがする」
「そっか。じゃあ次はどうしようか……」
美華は地図を見て悩む。ボクとしてはもう十分かなってところだけど。
「あれ?」
ふと、空に異常があることをセンサーが感知する。
「あれ……」
指さした先に、流れ星のような何かが流れていた。美華もつられて上を見る。
「何だろうね。というか、近づいてきてる⁉」
「あれは、あの時と似てる……」
ボクが憧れた輝き、ロップちゃんのライブを始めてみた時に感じたものと同じ感じがする。
「!!」
拡大して気づく、あれはラグモルフォ。ロップちゃんと、そのパートナーの早瀬一樹が駆るオルメリ。しかも後ろから煙が出てるし、装甲が半分ぐらい無い。
「急に走ったら……、アレが気になるの?」
「うん、なんか大変そうなことになってる! あとロップちゃんに会えるかもしれない!」
「オルメリアイドルの?」
「そう!」
屋上まで上がる。もう拡大せずとも判別できる距離までラグモルフォが来ていた。
スーツの中年男性も1人いて、彼が屋上の一部を今閉鎖したようだ。ボクたちは近くに来て良かったんだろうか。
『オルメリの君! ヘリポートに着陸するから、もうちょい離れててくれ』
急に個人で通信されたので、びっくりする。
「美華、ちょっとこっちに」
「あ、ああ」
美華の腕を引っ張る。見た目に反して力がある腕だ。
「不時着用ジェルネット、発射!」
男性の合図と共に、減速や保護ができるものが打ち出され、機体は胴体着陸。
キャノピーが開き、2人出てくる。本物のロップちゃんと早瀬一樹だ。男性が歓迎している。男性はどうやらこのショッピングモールの偉い人らしい。機体や建物についての話を仲良さげに数秒で済ませ、早瀬一樹は早歩きでどこかへ行こうとする。
「じゃ、俺はこれから色々とおしゃべりの予定があるから、終わるまでロップは好きにしててくれ」
「はい。一樹さん」
言葉と笑顔だけの返事でも愛嬌が感じられる。やっぱり、美少女だよなロップちゃん
「ではお二方、今からお話よろしいですか?」
この2人は僕たちを指すことになる。だって彼女はこっちを見ている。
「ええっ、ボクら!?」
いつかそう遠くない日に会えるかもと期待していた憧れは、唐突に、向こうからやってきた。
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