第2話 モカミとの模擬戦

 目の前の相手とぶつかる寸前に変形し、両腕で相手と組み合う。

『二人とも、今のアタシにパートナーがいないからって油断しすぎじゃない?』

 対峙する狼型オルメリから声が聞こえる。

『そんなこと無いよ! いつだってちゃんとしてる』

『そうだったかね~。というか、後ろに誰乗っけてるのさ』

 ちょっと苛立ってるのか伝わる。いつもより鋭い感じだ。でも、ちょっと恐がってる?

「ふふっ。だってさ。ちゃんと自分から説明するんだぞ」

「からかわないでよ」

 あんまり大っぴらにしたくなかったんだけど、しょうがない。

『こっちも…、ボクだよ。モカミ』

 言うと同時に明らかな動揺が伝わる。でも少し安心してる?

『はあっ!? でも確かにアンタだ…』

 オルメリは全て、無線みたいな感じでうっすら繋がっているらしく、それで共感とか雰囲気の把握とかが擬似的に出来るようになっている。モカミにも意識的に繋がってもらい、細かく説明しなくても理解してもらえた。

「私事もこれぐらいでいいだろ、続けるぞ」

 おじさんの巧みな捌きにされるがまま、膠着状態からひと蹴り入れ、変形し距離をとる。

「さすがにビックリしてたな。さておき、ハレオ、次はどうする」

「どうするって、このまま相手の後ろにつくよ。任せて」

 おじさんなら余裕でつけるだろうけど、ボクだってそこから勉強してるところを見せてやるんだ。

 レーダーもカメラも研ぎ澄ませ、相手の動きに集中する。今回は一対一だからそうしても許される。

「あれ、何?」

 アイドル体の胸の奥に伝わってくる。苛立ちや悲しさ、さっきも感じた鋭さや安堵。なんでこんな情報が。

『くっ』

 前をとられたモカミは変形し減速、すれ違いざまに爪を立ててきたが、かわして180度旋回、スラスターで急制動、威嚇射撃を放つ。内なるボクのボディのアラート画面をすかさず切る。

「おじさんごめん」

「スーツがあるから何て事無い。それより、次はどうする。もうぶつかるぞ」

『貰うよ!』

 右腕が振りかぶられる。その爪はかわした、次いで来た尻尾もかわした。次に来るのはカメラ外のミサイル!

『やるじゃない。前なら避けられなかったでしょ』

『やるときはやるってね』

 ミサイルに弾を撃ち込み、至近距離で爆破、爆風を背に受け、モカミを人工アステロイドに押さえつける。

『勝負あり。らしいわね』

 もうひとあがき来るかと思ったが、そうならず勝利判定が出た。ほぼボクの力でモカミに優勢になったのって初めてじゃないか?

「よしっ」

 内なるボクでガッツポーズを決める。嬉しい。が、すぐに他の感情が流れてくる。これはボクのじゃない。黙っているモカミの中にある、さっきも感じたごちゃ混ぜの感情。


ーー譜面が浮かんできた。すでに頭の中で何かアプリケーションらしきものが出来ている。なんで、それより。

「歌わなきゃ」

「ハレオ、急にどうした!」

『そろそろどいて貰っても…、ってどうしたの!?』

 コックピットのハッチを開け、オルメリ体ボクの背中に乗り、沸き上がるメロディーを流れる音イントロに変える。

『…見える。モカミの心の奥底が、紡ぐべき歌が!』

 歌いながら理解する。アメリカへ帰っていったモカミの元パートナーが、モカミへの好意から親切にしてくれていた事。違う生命体であることに悩みながらも、モカミはおじさんが好きで、それに悩み、元パートナーは応援してくれていた事。今日の模擬戦でおじさんの後ろにいたボクを娘か彼女かと思って焦った事。

 それらを勝手に受け取った上で、ボクなりの思いを、おじさんへの行動は正面切って起こすべきだと、進んだ上で、いつものように笑っているモカミでいてくれたら嬉しいと、伝える。

 歌詞ではストレートに言えてないかもだけど、繋がりが強くなってる今、ニュアンスはしっかりと伝わっていると分かる。

 歌い終わり、今更ながらモカミからどいた。

『……アンタ、言うじゃない』

 お互いに帰投する。モカミに先を行かせる。

『余計なお世話かもしれないけど、ボクなりに何がしなくちゃってなって、そしたらなんか歌いたくなって……』

『まあ、変だったけどいいんじゃない。アンタの思いはちゃんとしてた。アタシもアンタの事覗いちゃったけど、思ったより子供じゃないんだね。図々しさはは思ったよりあったけど』

『言わないでよ。ボクから何も言えなくなるから』

 言い合いながら、彼女の中で留めていたわだかまりが解けているのを感じた。

「さて、俺からも言いたいことは色々あるが、これから書くであろう反省文を読んでから言うことにする」

 基地に戻りパイロットスーツを頭だけ脱いだおじさん。ボクへの話は早々に言い終わり、モカミの方を向く。

「モカミ……」

『ちょっと待って。先にアタシから言うことがあるから』

 雰囲気変わったな。ちょっと横にはけるか。

『あのさ、今まで言わないようにしてたんだけど、やっぱりアタシは進助が好き。だから、あなたにも私の事を好きになってもらえるよう頑張る』

「これまたすごい異種族の交友、という感じでもないよな。好きって、そっちなんだろ」

『うん。そう。好きよ』

「まあ、俺としては万年独り身なのもアレだし、こういうのも巡り合わせってな」

 やっぱり、おじさんもまんざらではない感じだ。昔は普通に一緒にパートナーしてたから何て事無いのかな。

「まあなんだ、モカミ。これから色々あるだろうけど、それは時間をかけて、ちゃんと考えて話し合わないか。2年ぶりにパートナーに復帰するんだ、お前と」

 モカミの嬉しさが伝わってくる。おじさんは少し恥ずかしそうだ。というか、アレ……?

「というわけですまんが、この模擬戦をもってハレオ、お前とはパートナーを解消することになる」

「え”っ。何それ、ボク聞いてないよ」

 おじさんはモカミと苦笑いしているが、こっちはひきつるしかない。二人は良い雰囲気かもしれないけど、ボクのこれからのオルメリ生と人生、どうなるのさ。

「嘘でしょ~!!」

 ただ叫ぶ。それしかなかった。

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