オルメリエンカウンターズ
@gennomiya
第1話 これがボクのスタートライン
あの輝きは、いつも心にある。
青い髪をなびかせ、空を駆ける
そして今、ついに、輝きのスタートラインに立つことができる。
『なんてポエミーな言い方……』
苦労して稼いだお金でついに欲しかったものを買い、それが目の前にあるのだから情緒のバロメーターが多少バグっててもおかしいところはないだろう。
『使い方はインストールした。配達員さんは行った。じゃあ、始めちゃいますか!』
目下に
背中から箱までつながっているコードを通じて、ボクの意識が流れていく。
ーー物理接続による初回リンク完了、クレイドルプラントは手動で開きます。どうぞ、新しい人生をお楽しみくださいーー
肌の感覚が、金属の匂いが、保護液の触感が、急に増えた情報が襲いかかってくる。液体が引き下がり風で乾燥させられる。
「……あったかい」
感覚だけでなく、心の奥底からも暖かいものが込み上げてくる。あったかいんだ!
「初めまして、新しいボク」
内側から箱を開け、立ち上がり、予め持ってきていた
「わあお…」
完璧最高に可愛いボクの新しい体だ。さすが
「伊達に最先端じゃないってことだ」
胸に手を当て、嬉しさを味わう。柔らかい。顔を鏡に近づけて見る。可愛い。デザイナーさんと何度も意見を交わした甲斐がある。
「髪も単純なオレンジじゃないし、明るくて活発そうな顔だし、あんまり幼く見られなさそうな感じだし、もう最高!」
ワクワクもドキドキも最高潮の今、何をしてみようか? まだ目覚めたばっかりなんだから、動作確認がてらちょっと踊ってみようか。
自分の喉から声を出し、歌ってみる。歌に合わせて踊ってみる。憧れのロップちゃんの歌に踊りだ。
「思った通りに動く。思った以上に可愛い!」
鏡に写る顔がずっとにやけている。
可愛さなら誰にも負けてないよな~。完全にボクの主観だけど。
「…………」
ずっと鏡に写った自分を見つめている集中力はなく、ふと鏡の端っこに反射しているデカい金属体が目にはいった。
「それにしても、元々のボクってこんなに威圧感あったんだな~」
振り替えると、今の背丈の何倍もの大きさのライオン型メカがこちらを見下ろしていた。自分の本体なのにちょっと恐い。
「こうして見ると、こんなのに初手から仲良くできた地球の人は凄いな」
他の星から飛来してきた巨大メカって大体、侵略とかしてきそうだもんな。古いアニメでしか見たこと無いけど。
「まあ、そんな事今は関係ない。やっとロップちゃんみたいなアイドルを目指せるんだ」
右手を握る。潜在意識は
「さて、演習までそんなに時間無いけどどうしようか」
やりたいことを思い返してみたけど、路上ライブより、動画投稿より先に、いつもパートナーとしてお世話になってるおじさんが今のボクにどう驚くかを見てみたく思った。
「どんな感じだろうな。やっぱ驚くよな。もしかして倒れたりして……。ちょっとごめんよボク」
妄想しながら、自分の前足を駆け登り、背中のコックピットから、搭乗口をつたっておじさんの部屋に向かおうとする。
「ハレオ、準備は出来てるか?」
あれ、おじさん!? どうして。
「早く来て正解だったな。ハレオ、今から実機での模擬戦だぞ。セットアップは自分で出来てるか?」
『そこまで幼くないよ!』
アレ、今日の模擬戦実機だっけ。本当だ、二日前に変わってるじゃん。少しでも確認しておけば良かった。というかそれどころじゃない。たまたま
「そんなに時間も無いから、このまま行くぞ」
パイロットスーツを着てるからか、身軽なおじさんがあっという間にコクピットまで登ってくる。
「……武装はこんなもんか。調整と確認は良いな。慣れたもんだ」
『一々言わなくても分かるよ』
普段通り返したつもりだけど、喋り方変わってたりしないよね!?
「そうか? まあ、行くぞ」
『うん』
鏡を避けてカタパルトまで歩き、ライオンから戦闘機へと形を変える。
ボクの中のボクがヒュンとなった。おじさんは何とも言わないけど、もしかして今まで我慢してたのかな。
「それでは、模擬戦を始めます」
オペレーターの人がカウントダウンを始め、ゼロと同時に引っ張られる。中のボクにとってはきつい。ちゃんと座ってたらましなのかもしれないけど、というかもう宙域に出たんだから座るか。
「ふう。相手は、モカミか」
予定通りに、別のカタパルトから狼型のオルメリが出てきていた。
「……うっかりしすぎてないか?」
あっ
「模擬戦が終わったら反省文とか色々やることになるだろうな。届け出は予めしておかないと後々面倒になるって何回か言ったハズなんだけどな」
優しく諭される。耳が痛い。
「まあ今は置いておくか。模擬だが、今回はちゃんとした戦いだ。油断するなよハレオ」
「了解!」
力が入り、おじさんの指示と同時に加速する。
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