我が名はダイザーッ‼

@FuJicRa

我が名はダイザーッ‼

我が名はダイザー。

誉れ高き魔王軍四天王、その中でも筆頭を務める大魔族である。


引き締まった肉体美に白磁の肌に細面、理知的で凛々しいマスクに、背には美しい漆黒の堕天の翼。

そんな我の紅玉の如き赤い瞳に魅了された子女は数知れず。


戦闘面においても、人間どもとの戦争では、勇者とその仲間ども5人と戦い勝利したこともある。

卑怯にも数の暴力で打ち掛かってくるアイツ等はホントえげつない。

中でも、勇者のヤツの聖剣と我の獄魔剣で打ち合ってる最中に死体の山に隠れながら我の麗しい尻に火炎弾を叩き込んできたあの女魔法使いは特に酷かった。 いや、本当に非道かった。

アイツなんなん?

お陰で我は途中から、火傷で痛む赤く腫らせた尻を丸出しのまま戦う羽目になってしまった。

まぁ途中、「ああ!美尻!ああ、舞う美尻…ッ!」等と呟きながら我の麗しい曲線を描く優美な尻に魅了され連携を乱した男僧侶と女魔法使いの動きが鈍ったのは正直「ざまぁ」だったが。

嗚呼、我が尻のなんと罪なことよ…。

うん、そんなアイツ等に勝利したというところで我の戦闘能力は言うまでもなく世界でも上位のものだ。

…まぁ、最終的には負けてしまったのだが。


そう、負けたのだ。

我ら魔王軍は、勇者を擁する人間どもの軍勢に敗北したのである。

我が忠誠を誓った、偉大なる魔王様も…。


我等と勇者どもの最終決戦は、魔王城で行われた。

城下の美しい街並みも、白亜の穢れ無き城壁も、美しい花々が咲き誇る庭園、その中央に座し清廉な水を湛えていた噴水も、

決して華美になり過ぎず且つ荘厳さを誇る城内も、皆勇者を筆頭とする人間どもに蹂躙されてしまった。

幸いなのは魔王城で勇者どもを迎え撃つことが決まった段階で非戦闘員の避難が完了していたことか。

いや、我等が敗北を喫した以上、彼等のその後の生活は辛いものになってしまう可能性を考えると、幸いとは言えないか…。


城内の謁見の間で我等は勇者どもを迎え撃った。

戦闘は熾烈極まるものとなった。

途中、双方の仲間が倒れていく中、なんとか倒れずに戦い続けていた我は、勇者に脇を抜かれて魔王様への接近を許してしまった。

その時、我は咄嗟に今まさに魔王様の胸が忌々しき聖剣によって貫かれんとしている瞬間、

聖剣と魔王様の間に転移魔法で割って入った。

結果、我は聖剣に貫かれ、死神の息吹を感じることとなったのだが…。

そして我は最期の力を振り絞り、勇者からこの忌々しい聖剣を取り上げる為、聖剣にこの身を貫かれたまま再度転移魔法を行使した。

今の我はこれ以上何も出来ず、また盾となる余力も無いお荷物だ。

それならせめて死ぬ前に敵の戦力を少しでも削っておきたい。

勇者から聖剣を奪い取れるなら、戦力もガタ落ちさせられる最期の奉公になろうと思ってのことだった。

聖剣とは魔を滅する力の塊であり…言ってみれば魔族の天敵たるものだ。

それを手放せば勇者も唯の強い戦士でしかない。

行使した転移魔法は座標指定をしている様な余裕は無かった為、ランダムな転移となってしまったが、

転移した先は幸いにも魔王城のある王都ディアボロスからそう離れていない廃棄された都市だった。

その都市の中央広場と思しき場所で、今にも勇者の許へ飛んで帰らんとする聖剣の刃を掴み、己の身体に刺し込み続けた。


「決して…ッ!決して行かせはせぬぞ…ォッ! 貴様に…貴様にぃ!我が崇敬する偉大なる魔王様のお身体を傷付けさせるものか…ッ!!」


と、尽きた魔力の代わりに己が生命力を賭けて聖剣を押し留めていると、魔王城の方角から


ドオォンッ!!


と、大きな爆発音が聴こえた。

咄嗟に目を向けると、視界に映ったのは炎上し、爆発する魔王城の崩れ落ちる光景だった。

我はその光景に我らの敗北を悟り、何より魔王様が討たれたことを感じ取り発狂した。

発狂した我はなけなしの魔力と生命力を暴走させ、自壊した。

そう、自壊してしまったのだ。

僅かに残った理性で考えたのは、我が主たる魔王様が居ない世に等未練は無いが、これからの世にいずれ生まれ出てる新たな魔王の下で生きることになるであろう同胞たちの未来だった。

この身を貫く聖剣が再び人間どもの手に渡れば、此度の様な凄惨な蹂躙劇を引き起こすかも知れない。

またも領土拡大を狙う人間どもに襲われるのは避けねばならない。

聖剣とは魔を滅する力の塊であり、勇者を選定する神器なのだ。

いっそこのまま、もう二度と誰の手にも渡らぬ様、このまま我の死と共にこの地に沈むといい。

そう思いながら、我の身体は徐々に粒子へと還り、消滅した。

















そう、我の身体は消滅したのだ。

細身ながらも鍛えられ引き締まった肉体美に白磁の肌、細面には理知的で凛々しいマスクに見る者を魅了する憂いを帯びた紅玉の瞳。 そして背には美しき鴉の濡れ羽が如き漆黒の堕天の翼と、その下には勇者の一味をも虜にする優美な尻。

そんな我の身体は消滅した。


ならば…何故我の意識はまだある?

気付いた時には、手足も動かせぬし目も見えぬ。声も出せぬ。

不思議と腹は減らぬし、喉が渇くこともない。

出来ることといえば、回復した魔力を練ること位だった。

しかも体内と体表限定。

放出することは出来ない様だ。

暫く時が経つと、周囲の様子を変成させた魔力で探ることが出来る様になった。

そこから更に時が経つと、空気の振動から音も聴こえる様になり、なんやかやあって擬似的な視界を獲得する事にも成功した。

うぅむ…我の視点は随分と地面に近い。

ぶっちゃけ地面に横たわっている様な視点だ。

更に言えば犬が伏せをしている様な視点に近いか…?

しかし、擬似的な視界であるからかほぼ全方位の視界を獲ることが出来た。

そう、ほぼだ。

どう頑張っても真上だけは見えんのだ。


その状況でかなりの時を過ごすと、なにやら我の周りが騒がしくなってきた。

人間どもがやってきたのだ。

人間どもは我の方を見て何やらざわついている。



「おい! まさかアレって…!?」


「は!? 嘘だろ!? なんでこんなとこに!?」


「ほ、本物…? 偽物じゃないのか!?」


「うそ…!?」



くそ…っ! 我が命運もこれまでか!?

この様な状況で大勢の人間に迫られるとはっ!

おい、うるさいぞ人間ども!!

我は動けぬのだ、殺すなら殺せ!!

攻撃魔法も行使することが出来ず、野生の畜生どもに糞尿を掛けられようと追い払うことすら出来ない。

そんな我だ。 今度こそ死を覚悟した。

しかし、いくら経っても人間どもは攻撃してこない。

不審がっていると、人間どもの団体の中から中年の男がふらふらと歩み出てきた。



「ま、間違いない…。 ああ、ここに居たんだね…」



中年の男はそう呟き涙した。

そしてこちらに近寄りながら語りかけてくる。



「ああ…やっと逢えたよ、相棒…」



な!?なんだと!? 我は人間どもの仲間になった覚え等無いぞ!!!

我の仲間は魔王軍の同胞のみ!!

ふざけるな草臥れた中年人間め!!貴様なぞ知らぬわぁああああっ!!!!!!

…ん?

いや、あれ? ちょっと待て?

貴様の顔、どこかで見憶えが…ぬあっ!?


そして、男は我の前に跪き―――――



「迎えに来たよ、相棒。 相棒…聖剣エルスティン」



そう呟いて男は我に抱きついて来た。

いや、正確に言えば…我の頭上で何かを抱き締めている。


はぁ!? 聖剣だと!?!?

あの憎きクソ鉄塊が何処に!?

…と、とぼけてみたが答えは自ずと出た。

状況が雄弁に物語っている。

この手足も視覚も、生理機能さえも無い身体。

地べたを這うが如き低い視点。

 

「さぁ、また一緒に行こうエルスティン。はっ!」


ふむ、今一度改めて自己紹介をしよう。


「あれ? よっ!ふんぬぬぬくぬぅうゔゔぁあああああっっ!!! ハァハァ…な、なんで?エルスティン…ふんっ!!」


そう…


「ぜ、全然抜けない…なんでなんだ!?エルスティン!!」



我が名はダイザー!!

誉れも高き元魔王軍四天王が筆頭!大魔族にして!

今は憎き聖剣めを封ずる、魔王軍聖剣番人、台座ダイザーなり!!

何人たりとも台座我が身から聖剣を抜くこと能わず!!

未来永劫、この聖剣は我から離れることはないと知れ!!!




憎き勇者よ! 貴様の聖剣相棒、我の穴に刺さったまんま出たくないってさ!!

ざまぁ!!!!!!

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