第5話 友と公園


子供の頃は早く大人になりたかったけど、

大人になると子供に戻りたくなる。


まあでも、大人が子供に戻る時があってもいいよな。

特に、旧友に会った時なんてさ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺、来栖浩人は、6年ぶりに地元へ戻ってきた。

今日会う予定の幼馴染の山田武也は、地元でコンビニの店長をしている。

夜勤明けだといい、奴はやつれた顔で現れた。


缶チューハイで乾杯し、人気の無い公園のブランコに腰掛け、

たわいもない話をする。


「久しぶりだな」


そう言う武也の横顔からは、年相応の老いを感じる。

人間が生きている限り、変化は避けられないことだが、ふと寂しくなる時がある。


……逆に、変わらないものってあるのか?

少し考え、俺はあることを思い出した。


「なあ。よくこの公園でフラッシュマンごっこ、してたよな」


そう話を振ると、武也は顔を輝かせた。


「してたしてた! ええっと、小学生の時だから……もう、何年前だ?」


色々と懐かしいと思った瞬間、ごっこ遊びをしたい。そんな衝動に駆られる。


「なあ。久しぶりにやろうぜ!」


いい提案だと思ったのに、武也は浮かない表情だ。


「おいおい。オレ、夜勤明けだぞ?」

「大丈夫だって! まだまだ、俺たち動けるよ!」

「……じゃあ、お前が怪人ラジャーンな」


なんだって?

「それは、嫌だ」俺は思わず、反射的に返答する。

「じゃあ、やらん」

こいつ。大人になって変に交渉上手になりやがって。

しょうがない。ここは、俺が大人になろう。

グッとヒーロー役をやりたい欲を抑え込む。


「……分かった! お前がフラッシュマンでいいから!」


酒の影響なのか、ノスタルジックな自分の感情に酔っているのか分からないが、俺はヒーローごっこがやりたくて仕方なかった。そう、仕方がなかったのだ。


「……くらえ! フラッシュマンパンチ!」


武也が、勢いよくブランコから立ち上がり、こちらに走ってくる。

しかし、ダサい。とにかくダサい。

ごっこ遊びなのに『年齢』という現実を突きつけられたような気がして、メンタル攻撃を受ける。


「ふっ、そんなへなちょこパンチ、痛くも痒くもないわぁぁぁぁ!」


俺は、全力で咆哮し、自分の中の抗えない『老い』を無視し、反撃のポーズをとる。


「おじちゃんたち、何してるの?」


驚き、声の方を見ると、小学生低学年くらいの少年がこちらを不思議そうに見ていた。


「フラッシュマン、ごっこ」

反射的に返答する。


「何それ?」


「昔のヒーローで……って、今の子は知らんよな」


ポーズのまま固まる俺の代わりに、武也が答える。


「ヒーロー? ヒーローって、1人じゃないの?」


さらに思いがけない質問。俺は慌てる。


「僕が好きなクラッシュマン以外にもヒーローっているの?」

「いるよ。この世には、たくさんヒーローがいるんだ」


武也がまた助けてくれた。


「おじちゃんも、ヒーローなの?」

「おうとも! みんなを守る、フラッシュマンだ!」得意げに笑う武也。

「そうなの……?」


武也の言葉を受けた少年は、期待の眼差しでこちらを見ている。


「すごい! ねえねえ、なにか技出して!」

少年の言葉に気を良くしたのか、

「よーし! じゃあいくぞ! 怪人!」

気合が入った様子で俺の顔を見る。


「また俺が怪人かよ⁉︎ ……ったく、しょうがねえなぁ」

夜勤明けで疲れていると言っていたのはなんだったのか。

呆れながらも、技を受けるポーズをとる。


「くらえええ、フラッシュスターパーーーンチ!」

武也が、渾身のダサいグーパンチを繰り出す。

いやしかし、ヒーローを信じている少年に、カッコ悪いところは見せられない!


「グエー! や、やられたぁぁぁぁぁ」


俺は、自分史上最高にみっともなく倒れ込む。


そんな俺たち渾身の、『ごっこ遊び』を見た子供はというと。



「……弱そう」



そう吐き捨てて、無情にも走り去っていった。

少しの沈黙の後、大声で笑い出す。


「なんだよお前、あのへなちょこパンチ!」

「お前こそ、なんだよグエーって! 潰れたカエルか!」


この瞬間、本当の意味で昔に戻れた気がした。

遊びに全力だった子供時代。

純粋に、ヒーローになりたかったあの頃。

ごっこ遊びは、俺の大切な記憶であり、思い出だ。

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