ep08.似た者同士


 午後の英語の授業が始まる。

 留年したため、去年と同じ内容の授業になってしまう。


 家にいる時は勉強ばかりしていたため、中間テストでは高得点を取ることができた。

 同級生よりも一年長く勉強できた留年の影響で、今では成績優秀者になれたな。


「鹿原、ここの unusualという単語の意味は分かるか?」


 英語の教師である関野先生が、クラスのお調子者である鹿原に問題を出した。


「アンユージュアル……アンは否定の意味を表しているっぽいので、パンツ穿(は) いてないとかですか?」

「そんなわけないだろっ」


 鹿原のふざけた解答と、関野先生のツッコミで教室に笑いが起こる。

 だが、俺は一切笑えなかった。

 何一つ面白いと思うことができなかった。


 クラスメイトの大半が笑っているのに俺は笑えない。

 これって俺がおかしいのか?


 不安になり周囲を見ると、無表情なクラスメイトが俺以外にも四人いた。

 黒沢と赤間と白坂と金田。

 しくも同じ班になったメンバーだった。


「黒沢、正解は分かるか?」

「普通ではない、とかですか?」

「その通りだ」


 黒沢の言う通り、俺達は普通ではない。

 そんな五人だからこそ、きっと分かり合えることもあるはずだ。



     ▲



 本日最後の授業の体育のため、四組のクラスメイトは体育館に集まっていた。

 クラスメイトの男子達は全体的に仲が良く、まとまりがある。

 まるで群れを成すかのように集団で行動しており、会話が盛り上がっていて楽しそうだ。


 そんな群れを離れて孤立するのが、俺と金田の二人。

 同じ班になった金田の元へ行くと、余り者の新しい集まりができた。


「俺と一緒にいると、茂中パイセンも嫌われるぞ」

「元から評判良くないからお構いなしだ。そんな気は使わなくていい」


 過剰に嫌われている金田は自分と一緒にいるデメリットを危惧してくれる。

 俺を心配して迷惑になるからと考えてくれている時点で、前評判よりかは良い人な気もする。


「パイセンは気にしないかもしれないけど、女性陣は気にするかもしれないぜ」

「どうしてだ?」

「俺が嫌われたのは、女性関係が原因だったからな」


 クラスの人気者から嫌われ者になった金田。

 その凋落ちょうらく振りを気にしていたが、どうやら女性問題でここまで転落してしまったらしい。


 芸能人でも女性関係での問題はメディアに大きく取り上げられて、そのまま復帰しないで芸能界から消える例も多い。

 それに近いことが俺のクラスでも起きていたとはな……


「クラスメイトの板倉いたくらって分かるだろ?」

「ああ、あのお洒落でイケイケでクラスのリーダー的な女子だ」

「そうそう。その板倉に俺は告白された。付き合う気は無かったからセフレならいいけどって返事して、信じられないくらい嫌われた。それで今ではクズだのヤリチンだのボロカスに言われているわけだ」


 まさか金田の方から理由を話してくれるとは……

 大きな失敗談だが、金田にとっては別に隠すほどのことでもないようだ。

 むしろ、自ら話したということは俺に聞いておいて欲しかったのかもしれない。


「自業自得だな」

「……そうだな。全部俺が悪い」


 原因を自覚しており、反省している表情を見せる金田。

 だが、普段はそういう表情を周りに見せないので、その反省の心は伝わっていないのかもしれない。


「深くは語りたくないが、俺も女性関係で留年したし気にしなくていいだろ」

「なっ、まじかよ」

「赤間は大炎上した問題児だし、白坂も高飛車モデルなんて言われていて、黒沢も生徒会長をクビになるほど性格に難があるやつだ。元々みんなの評判は地に落ちてるし、金田が加わったことでこれ以上下がることはない」

「そうかもな。俺との繫がりができたところで五十歩百歩か」


 試合に参加せず話していた俺達の足元にバスケットボールが転がってきた。

 それを金田は拾い、そのままシュートを打って遠くのゴールに決めてみせた。


「参加しないのか?」

「足が痛くて全力で走れねーんだよ」


 金田の足を見ると、太ももの筋肉が凄まじい。

 ボディービルダーのように硬そうだな。

 だが、膝にはテーピングがされていて怪我をしているのが見て分かる。


「そっか。運動神経も良さそうだから活躍できそうだと思ったが」


 俺の言葉が意外だったのか、驚いた表情を見せた金田。


「パイセン、俺が世代別のサッカー日本代表だったこと知らないのか……って、そっちは留年して去年まで学年一個上だったか」


 そういえば橋岡先生がそんなようなことを言ってたな。

 実際にプレイをしているところを見ないと何とも言えないが、金田には日本を代表するサッカーの実力があるということだ。

 それなら運動神経もずば抜けているはず。


「やっぱり、それってけっこう凄いことなのか?」

「当たり前だろ。ウィキペディアとかに俺のページがあるくらいだ」

「そいつは凄いな。有名人じゃないか」


 実力は本物であり、知名度も高いようだ。

 だが、知名度的には白坂の方が上だろうな。

 白坂は俺が知っていたくらいだし。


「これでもちょっと前までは学校でスター扱いされてたんだぞ」

「でも、今はもうサッカーしていないようだな」

「……怪我で療養中なだけだ」


まだやめてはいないようだが、今の金田にはモチベーションが無いように見える。


「あいつらも似たようなことになってんな」


 隣のコートでは女子達がバスケをしているが、隅に黒沢と白坂と赤間が集まって群れを成している。

 特に会話はしていないみたいだが、仲間感は出ている。


 今まではバラバラに端っこにいた生徒が、まとまって端っこに集まりだした。

 まるで俺達はほこりみたいだなと思ったが、むなしくなるので口にはしなかった。

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