第47話 聲


 最初に”聞えたのは”、いつの事だっただろうか?

 多分物心ついた時には、私はカレらの声が聞こえていた。

 暗い路地裏に入ろうとすれば、誰も居ない空間から「こコは入っチゃ駄目」なんて、少しノイズの混じった声が聞こえて来たり。

 次の日同じような場所を通ろうとすると、「早くオいで、こっチにおいで。僕タちと一緒に行コう?」なんて背筋の凍るような笑い声が聞こえてきたのを覚えている。

 小学に上がる頃だっただろうか? その頃になると、カレらの”良し悪し”が分かるようになっていた。

 そして同時に、黒い霧のようなものがそこら中に見える体質になっていたのだ。

 その霧に近づくたびに、件の声が聞える。

 大体は引き込もうとする「こっちにおいで?」とか「見えているんだろう?」なんて言葉だったが、者によっては「この先は行っちゃ駄目」とか「はやくお家へお帰り」なんて言葉も聞こえてくるんだ。

 はっきり言って訳が分からなかった。

 両親に相談してみても、気味が悪いと距離を置かれる結果となり、結局私は祖父の家に預けられる事となった。

 祖父の家……なんて言っても、そこは普通の『家』なんて呼べるものではなかったが。

 私が預けられた先、それは神社だった。

 元よりお祓いや厄除けなどで有名な神社だったらしく、私はそこへ預けられたのだ。

 最初は厄介払いというか、こんな所に私は捨てられたのだと思っていたが……祖父はとにかく優しかった。

 近くの学校に通わせてくれて、わがままを言えば笑顔でソレに答えてくれた。

 それでもやはり神社の娘というレッテルは思いの他聞こえが悪かったらしく、学校では虐められる事も多かった。

 お祓いなどをメインに取り扱っていたのが影響したのかもしれない。

 子供ならではの嫌悪感を向けられた結果、という事なのだろう。

 とはいえ大袈裟なイジめがあった訳ではない。

 やけに周りから距離を置かれたり、男子から馬鹿にされたりする程度だ。

 だとしても当時の私には辛い経験となり、その時は祖父に強く当たった記憶がありありと残っている。

 それでも祖父は私に笑いかけてくれた。


 「今は辛いかもしれないけど、その力はきっと意味のあるものだよ。私の元へ毎週の様にやってくる人達を見ているだろう? 厄介な物を貰ったから祓ってくれ、怖いから処分してくれって、皆口を揃えてそう言う。まぁたまに、自分は霊能力者だって偉そうな人も来るけどね。でも麗子にはその良し悪しが分かる、本物か偽物かも分かる。つまり助けを求めている彼らにより寄り添う事が出来るんじゃないかな。それは私にだって無い才能なんだ、大事にしなさい。でも今が辛いなら、おじいちゃんに何でも相談するといい。いくらでも泣きたければ泣きなさい、私は麗子を嫌いになったりしないからね」


 泣き叫ぶ私を宥める為に、祖父はそんな言葉をよく言っていた。

 祖父だけが、いつも私を受け入れてくれた。

 その存在がどれだけ私の支えになっているのかも知らず、私はただただ泣き叫んだり怒鳴ったりしていたのは今でも記憶に残っている。

 そんな状態のまま中学卒業の時期が近づいてくると、祖父は一段と柔らかい笑顔で私に告げたのだ。


 「高校は少し遠い場所にでも行ってみるかい? そうすれば家の事だって噂されたりすることはないだろう。それに新しい友達だって出来るかもしれないよ? 麗子が一人暮らしするのはちょっと不安だけど、それでも高校生活は楽しんだ方がいいだろう? もしもその気があるのなら、お金の事は気にせず行ってみなさい」


 その言葉に、私は二つ返事で返した。

 これでやっと家の噂から解放される、もう気味悪がられたり神社の娘だと馬鹿にされる事もない。

 これからは辛い思いをしなくて済むんだ。

 そんな風に思ったし、初めての一人暮らしというものに憧れがあったのも確かだ。

 何も無い田舎を出て、都会……とはちょっと言えないだろうが、それでも地元に比べれば色んなものがある新しい街。

 期待は膨らみ、楽しい事ばかりを思い浮かべていた。

 でも現実は、良い事ばかりではなかった。

 まったく知らない土地、知らない人たち。

 そんな中で一人生活していくのだと気づいた時、とてつもなく心細くなった。

 そして何より一番忘れてはいけない事を失念していた。

 ”カレら”だ。

 今まで住んでいた神社の中に、カレらは姿を見せなかった。

 現れるのは決まって外。

 通学路や学校、出かけた先に黒い霧が蠢いているのだ。

 だから家の中には現れない、なんて間違った認識が生まれていた。

 よくよく思い出せば祖父の家に預けられる前、私の生まれ育った家の中にはカレらが居た事を思い出せただろうに。

 浮かれていたのだ、目先の事ばかり見ていた私にバチがあたったのだ。

 今までどれくらい祖父や、あの神社に守られていたのかなんて考えもしなかった。

 それを改めて実感したのは、これから私が住むアパートの一室に黒い霧が立ち込めているのを目にした時だった。

 結果私は以前住んでいた場所よりずっと酷い場所に、一孤立する事になった。

 そして問題はそれだけに収まらなかった。

 私の地元は、はっきりってド田舎だ。

 当然町の人口も少ない。

 つまり、毎年の死者の数自体が少ないのだ。

 それに比べて、今の環境はどうだろう?

 別に首都圏という訳じゃない、でも昔よりずっと人の数が多い。

 朝晩や、土日となれば駅前は人でごった返すし、夜遅くになっても遊び歩いている人の姿は絶えない。

 つまりだ、何が言いたいのかというと。

 人数に比例して、死者の数も地元よりずっと多いという事になる。

 それを証明するかのように、”カレら”はそこら中に居た。

 閉店した店の中、脇道の奥、自分のアパートの玄関先にさえ。

 そこら中に黒い霧が見え、そこから声が聞こえる。

 ——モウ少し貯えがあれば……

 ——アの男に騙されナければこんな……

 そんな恨み辛みを、そこら中で泣き叫んでいた。

 はっきり言って地獄だ、田舎じゃこんな数のカレらを見た事がない。

 逃げる為に、楽になる為に引っ越してきたというのに、環境は前よりも酷くなっていたのだ。

 とはいえ地元を離れた影響で、神社関連のイジメは当然無くなった。

 新しい学校で少ないが友達も出来たし、カレらの事を話しさえしなければ、普通の女の子として過ごすことが出来た。

 だというのに……

 ——あぁ……モウ、いいヤ。

 疲れ果てた声を上げ、毎朝電車に向かって飛び込んでいく黒い影。

 毎日決まった時間にビルの屋上から降ってくる黒い霧。

 そんなものを見続け、その言葉を耳にして、私の精神はガリガリと削られていった。

 こんなはずではなかった。

 もっと楽しい毎日が送れるはずだった。

 そう思えば思う程、私に優しく微笑んでくれた祖父の事が恋しくなった。

 全てを知ってもあの人だけは見捨てなかったのだ。

 いくら酷い言葉で罵っても、彼は困ったように笑いながら私を慰めてくれた。

 全く、自分本位で身勝手な話だ。

 過去を思い出すたび自分が嫌いになる。

 もはやどうしたらいいのか分からなかった私に、ある日突然家族から連絡が届いた。


 『おじいちゃんが倒れた』


 何を言っているのか分からなかった。

 頭では理解できなくても、体が動いてくれたのは幸いだった。

 すぐさま電車へ駆け込み、祖父の居る神社へと向かった。

 そこで目にしたのは……随分とやせ細り、苦しそうに咳き込みながらも笑う祖父の姿だった。

 最悪の事態……という訳ではなかったらしい。

 苦しそうにするものの、横になっていればそれほど問題ないと本人も言っていた。

 とはいえ余りにも以前と違う姿に、当然安心など出来る筈はないが。

 

 「ちょっとよろしいですかね、親族の方たちはこちらへ」

 

 隣に座っていた医師が、そんな台詞と共に祖父の部屋から私達を連れ出した。

 そして……。


 「原因がわからないんです。病気というわけでも、怪我というわけでもない。ただただ胸が苦しいと訴え、実際このような状態になっている。状況的に入院して様子を見た方が良いと思ったんですが、本人がどうしてもここに残りたがって……」


 その言葉を聞いて唖然とする親族の中、私だけは原因に心当たりがあった。

 多分、”アイツら”のせいだ。

 疑問にそう結論付けてから、すぐさま私だけ祖父の元へと戻った。

 何が原因に思い当たる事は無い? 最近変わった事は何かあった?

 捲し立てる様に、祖父にそう問いかけた。

 今思えば、寝込んでいる人間に何をしているんだと言いたくなるところだが、その時の私には余裕なんてものは無かったのである。

 しばらく一人で喋り続けた後、ゆっくりと祖父は口を開いて枯れたような声でぽつりぽつりとつぶやき始めた。


 「少し前に、お祓いを頼まれたんだよ。他の神社の神主さんだった、随分困り果てた様子で顔色も良くなかった。自分の手には負えない物だからと、一つの壺を託されんだ」


 「壺?」


 「あぁ……真っ黒で、赤子ほどの大きさの物だった。ここまで必要かと疑問に思う程にお札が貼られていてね、その口はきっちりと蓋が閉まっていた。気味が悪いとは思ったが、最初は別にコレと言って何もなかったんだよ? いつも通りお祓いを済ませてから、蔵にしまったんだ」


 お祓いを頼まれたり、供養を依頼された品。

 ソレが済んで持ち主に返すか、その後お焚き上げするといった物は敷地内の蔵に一時的に保管される。

 それは普段から祖父が行なっていた事で、ここまでは別段おかしい所はないんだが……。


 「ここ最近になって蔵の中から物音が聞えるようになってね、動物でも入り込んだのかと思って確認しに行ったら……壺の蓋が開いていたんだ」


 「それって……」


 「あぁ、想像以上に良くない物だったんだろうね……とは言っても私には見えないし聞えないから。もう一度お祓いして、駄目だったらお焚き上げしてしまうしかないだろうね」


 そういって祖父は昔みたいに私の頭を撫でた。

 心配するなと笑う顔がいつもより弱々しく見えた気がして、どうにも落ち着かない。


 「あのさ、おじいちゃん。私が見てみようか?」


 意を決してそう声を掛けた。

 本当ならそんなもの見たくないし、聞きたくもない。

 それでも、このまま放っておくほうが怖いと思えたんだ。

 しかし祖父は笑いながら首を横に振った。


 「無理はしなくていい、お前だって怖いだろう?」


 確かに怖い、それでも……ぐっと拳を握り言葉を続けようとしたが、祖父は笑いながら再び首を振った。


 「大丈夫だから、もうアパートに戻りなさい。明日も学校だろう?」


 結局協力の申し出は断られ、他の親族と揃って玄関を出た。

 もう歳なんだから無理せず引退すればいいのにと、勝手な事を呟く人達の声に内心腹を立てながら、距離を置いて歩いていく。

 その時だった。

 ズッ……ズリッ……と何かを引きずるような音が聞こえた気がした。

 反射的に顔を上げるが、親族たちに気づいた者は居ないらしく、そのまま外へ向かって歩いていく。

 なんだろう? 音の出所を探すが特にコレと言って何もない。

 というかもはや、その音も聞えなくなっている。

 何となく気になり、一人だけ神社の脇の方へと歩き出した。

 多分こっちから聞こえた気がする、その程度の感覚だったがどうやら間違ってはいないらしい。

 再び先程と同じ引きずる音が聞えてくる。

 庭師の人でも呼んだのか、それとも誰か居るのかと思っていたが……特にそういう人影は見当たらない。

 代わりに目の前にあるのは、先ほど祖父と話していた蔵だけだった。

 もしかしたら祖父が言っていた物音というのは、これだったのかもしれない。

 だとしたら、私は”何が”立てる音を聞いていたんだろう。

 一抹の不安を不安を覚えながら、蔵の扉に手を伸ばす。


 「少し見るくらいなら……大丈夫だよね?」


 もしも何か分かれば、祖父の助けになるかもしれない。

 もしかしたらそんなに悪いモノじゃなくて、何かを訴えてるだけかもしれない。

 そんな希望的観測をしてから、石造りの扉を少しだけ開いた。

 覗き込むようにして顔を近づけると、そこには。


 「うぅっ!?」


 その瞬間、思わず吐きそうになって口を押えた。

 不快感に耐えられなくなり、その場で座り込んでしまう。

 吐き気と眩暈で震える体にどうにか力を入れ、後ずさるように距離を置いた。

 扉の向こうは、今まで見た事の無いくらいの闇に覆われていた。

 普段なら二階から差し込む窓の明かりや、それこそ今開いた扉からの光で、蔵の中を大まかに見回せる程度の光源が保てるはずだった。

 それなのに、私の目の前。

 一歩踏み出せば、その先にあるのは完全に闇そのもの。

 蔵の奥なんて当然の様に見えないし、目の前に黒い煙が立ち込めているのかというほど視界が悪い。

 なんだこれ、今までにはこんな事無かったのに。

 カレらが集まっただけでは、ここまで酷い事にはなるまい。

 そして何より……何者かの声が、奇妙な音が、この耳に届くのだ。

 ——タスけて、助ケテ。

 ——喰われタクない。

 ——痛イ! イタイ!

 ——体の中に、何カガ居る!

 そんな悲痛な叫びが、そこら中から聞こえてくる。

 そしてカレらの声を妨げる様に、蔵の中全体から虫の足音や羽音が聞こえてくるのだ。

 ノイズの様に、ガサガサ……ガサガサと。

 まるで害虫の巣に放り込まれた気分だった。

 四方八方からゴキブリが迫ってくる様な。

 体中に張り付いた蜂が羽音を立てているような、そんな不快な感覚。

 中には大きな物まで居るのか、何かを這いずる音まで聞こえてくる始末だ。

 さっきから聞えていた音は、恐らくコレだったのだろう。

 ココには居られない、ココに居ては駄目だ。

 そう思って飛び出した私は、気づいたら電車の中で頭を抱えて震えていた。

 どこをどうやって帰ってきたのかなんて、まるで記憶にない。

 だとしても、とにかく遠くに逃げたかった。

 そして同時に、あんな場所に祖父を置いて来てしまった事を酷く後悔した。

 今も祖父はあの場所に居る。

 とてもじゃないが、あれは楽観視していい代物じゃない。

 考えれば考える程、心が潰れそうになった。

 でも私に出来る事があるとは思えない、あんなもの人がどうにか出来る訳がない。

 後悔の念を抱きながら、その日は睡眠も取らずに私は翌朝学校へ向かった。

 多分習慣になっていただけなのだろう、勝手に足が学校へ向かい、そして普段通りに生活を送る。

 何をしたらいいのか、どうすれば祖父を助けられるのか。

 そんな事ばかりを考えて、授業も全く頭に入ってこない。

 疑問に答えてくれる人は当然現れず、何もできないまま気づけば数日という時間があっという間に流れてしまったのだ。

 結局あれはなんだったのか、このまま放置してしまっていいものなのだろうか?

 もしかしたらまた悪い事が起きるかも、どうにか処分できないものか。

 そんな事をグルグルと繰り返し考えている時だった。


 「ねぇねぇ知ってる? 旧校舎のあるっていう部室の事」


 ふと、ひそひそと話すクラスメイトの声が耳に届いた。

 普段だったら気にしないだろう、気づいてもあえて聞き流すであろう内容。

 だというのに、この日ばかりはやけに私の耳に残った。


 「なんでも、そこの部員全員が霊能力持ってるらしくてね? なんかそこら中の心霊スポットを除霊して回ってるらしいよ?」


 その話に、何となく興味を引かれた。

 普通に考えればただの噂話、よくある学校の七不思議みたいなものだ。

 噂に尾びれがついて、背びれがついて、好き勝手泳ぎ回っているだろう。

 旧校舎にある「オカルト研究部」という名の非公式の部活動。

 どこから噂が流れたのか定かではないし、聞けば聞くほど胡散臭い噂話が飛び出してくる。

 だというのに、少しだけ興味を持ってしまったのだ。

 多分この日の私はおかしかったのだろう、そうに違いない。

 本当に存在するのなら、どんな人達が居るんだろう。

 実際どういう活動をしているのか。

 もしも噂話が事実で、その人達が”本物”だったら? あの壺をどうにかすることも出来るのではないだろうか。

 そこまで考えて、乾いた笑いが漏れた。

 何を考えているんだろう、どうせいつも通り”偽物”に違いないのに。

 期待するだけ無駄だと結論を出して、私は教室を後にした。

 眩しいとさえ思える夕日に目を細めながら、いつもの廊下を歩いていく。

 結局何も結論が出ずに、ため息を溢したその時だった。


 「鶴弥さん、今帰り? どうしたの暗い顔して」


 担任の椿先生だった。

 いつも明るくて、誰にでも優しい先生。

 誰から見ても輝いても見える彼女は、きっと悩み事とか少ないんだろうな……。

 なんて嫉妬紛いな事を考えながら、口を開いた。


 「あ、はい。別に……何でもないです」


 「あっ、ちょっと待って!」


 素っ気なく小さな声で答え、その場を去ろうとした私を彼女は呼び止める。


 「あのさ、本当に大丈夫? 何かあった? 迷惑かもしれないけど、話くらいは聞くよ?」


 良い人だとは思うが、今は出来れば放っておいて欲しい。

 彼女に何を言った所で、私の問題は解決しないんだから。

 とはいえ向こうも引き下がるつもりはないらしく、真剣な眼差しで私を真っすぐ見ている。

 であれば、適当に何か言って話題を反らしてさっさと帰ろう。

 ただそれだけだったのだ。

 本当に何となく、その場でふと思い出しただけ。

 だからそこまで深く考える事もなく、私は椿先生にこう尋ねた。


 「あ、それじゃぁ一つ……この学校にオカルト研究部っていう部活、ありますか?」


 それを聞いた先生の変わり様は、本当に別人のようだった。

 マシンガンのように様々な言葉を一人でペラペラと喋り出し、いつの間にか私がその部活を見学に行く事になっていた。

 しばらく唖然としながら話を聞いていたが、彼女の飄々とした態度のまま綺麗なウインクを残し「じゃあ明日の放課後にね!」なんて言ってから上機嫌な様子で姿を消してしまったのだ。

 な、なんだったんだ……今の。

 勢いに呑まれたまま話を受けてしまったが、そもそも何故私はそんな部活に興味をもってしまったんだろう。

 お爺ちゃんの家にあった昔の妖怪漫画じゃあるまいし、何故心霊スポットを巡って除霊する必要がある?

 もしも顧問の先生が左手だけ黒い手袋とかしてたら納得できるが、普通に考えてそんなフィクションあり得ない。

 そもそもそんな事をしても何のメリットもないのだ、現代人ならそんな意味の分からないボランティア絶対にやらないだろう。

 しかもそれは、部活の噂が本当だったらの話。

 常識的に考えれば、他の高校にだってありそうな『怖い話が好き、肝試しが好き』といった連中の集まりじゃないだろうか?

 ただただ肝試しに行って騒ぎたいだけの集いだった場合、私はどうしたらいい?

 考えれば考える程そっちの可能性の方が高くて、気づいたらその場で蹲ったまま呻き声をあげていた。


 「あぁぁぁ……これは、やっちゃったかも」


 明日学校休みたい……もしくは先生が明日になったら今日相談した内容忘れててくれないかな。

 翌朝、そんな私の希望はあっさり裏切られ、下準備どころか外堀をきっちり埋めた状態でオカルト研究まで強制連行されてしまったのであった。


 

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