第30話 拉致られた狐の仮面


 「さて、面白可笑しな手紙でもうだいぶ満足ですが、これどうしますか?」


 そういって狐のお面を指さす黒家。

 だがその顔は未だにニヤけている。


 「どうってそりゃ、椿のヤツに返してやったほうが良いだろ」


 えらく攻撃的な思考をしてそうな婆さんから送られてきているのだ。

 このまま預かりっぱなしにしたら、後で色々と酷い目に合いそうだしな……。

 なんて、至って普通の事を言ったつもりだったんだが、女子高生二人からやけに冷たい目を向けられてしまった。


 「何言ってるんですか先生、手紙にも書いてあったじゃないですか。他の人が開けちゃった場合は連絡してくれって。もし何かあったとしても押し付けた本人の責任です」


 「へー、草加先生は椿先生の事『椿』って呼ぶんですね。ふーん」


 二人とも本当に椿に何か恨みでもあるのか?

 黒家はお礼貰う気満々みたいだが、早瀬は何か違う所に食いついて来てるし。


 「とにかく、これは返すからな? 他人様のお家事情だ、俺たちが下手に首突っ込むべきじゃない」


 そう言って手紙諸共奪い取ると、二人はブーブーと文句を垂れる。

 ちょっと普段より教師っぽくね? 俺。

 などと自画自賛していた所で、黒家が「はい先生っ!」なんて言いながら手を上げた。


 「先ほど言った通り、良く分からない物を他人に押し付けたミッ〇ー先生にも問題があると思います! そして我々は処分しろと頼まれていますが、中身を見た限りその必要はない。ならその仮面が何なのか調べるくらいの権利はあると思います! せっかくのオカルトグッズです! せっかくならちょっと調べてから返しましょう!」


 始まったよ……オカルト大好きっ子が。

 とはいえ確かに気味悪いからとおかしな物を押し付けられて、問題ないと分かってそのままあっさり返してしまったのでは……うん、椿しか得しないな。

 それはそれで癪に障るというか。

 いやしかし、いくら何でもコレはなぁ、内容が内容だし。


 「はいはーい、私も賛成でーす」


 ひらひらと手を振りながら、早瀬も黒家に賛同した。

 これは、まあ、うん。


 「……今週いっぱいだぞ。来週には返すからな」


 ここオカ研だしね? そういうグッズが持ち込まれたからには、ね?

 2対1だったし、俺だけ意見を押し通すのも違うかなって。

 決して黒家に影響されて、ちょっとでも困らせてやろうとか思ったわけじゃないんだぞ?

 本当だよ?


 なんて自分に言い聞かせながら、改めて狐の面に視線を落とす。

 多少傷んでいたり、見るからに古そうな品ではあるが丁寧に手入れされていたのだろう。

 白い仮面に金の模様、色鮮やかに描かれた狐の顔はどこか威厳すら感じる程立派な物だった。


 「お前さんも、ツイてねぇなぁ……」


 主にこんな所に運び込まれてしまって。

 同情にも近い声を上げながら、俺は狐の額を優しく撫でてやったのだった。

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