第29話 (他人の)お手紙を(勝手に)読もう!
暑中お見舞い申し上げます。
拝啓 美希様。
猛暑の日が続いておりますが、ご家族の皆様もお変わりありませんか。
おっと、これは失礼。
ご家族とは言っても両親は実家におりますし、貴女は独り暮らしでしたね。
今年で三十路になろうという者が……いえ、もう過ぎていましたか?
まあそんな事はどうでもいいんですけども、早く結婚して曾孫の顔を見せなさい。
というお小言は置いておきまして。
そちらは元気でやっていますか? 私達家族は、お陰様で元気に過ごしております。
まるで風のない猛暑の日は、軒先に吊るした風鈴も音を立てず、家の周囲から耐えられない程の熱気が満ち溢れている事もありますが、これも後しばらくの辛抱だと息子夫婦に言い聞かせながら、私はエアコンの下で静かな日々を過ごしております。
さて、近況報告も済んだところで本題に入りましょう。
以前からお話を伺っておりました、「落とせそうな男性」についてはどうなったのでしょうか?
今年のお正月の華やかな席、親族が共に揃った派手やかに賑わったいた時宣言した言葉は忘れもしません。
「いい感じの男が同じ職場にいるから、そいつ落として来年には連れてくるわ!」
と、言っていましたね?
それで、その後は如何なものでしょう?
落とせましたか? 独り身ではなくなりましたか?
その後連絡がない事から察するに、未だ燻っているのでしょう。
貴女はいつも「胸が無いからモテないんだ」なんてぼやいてましたが、女性の魅力は胸だけではありませんよ?
そこに気づいて、貴方はそろそろバストアップトレーニングとやらを止めるべきです。
そんな時間があるなら、男の一人でも引っ掛ける時間に使いなさい。
とはいえ、こんなお小言を真面目に聞く孫だとは思っていません。
なので、我が家に伝わる「守り神」が宿ると言われる仮面を送ります。
厄災から守り、幸せを運ぶと言われ、代々大切に扱われていた仮面です。
決して雑に扱ったり、無くしたりしない様に。
これを持っていれば、貴女の男運も少しは改善することでしょう。
貴女の場合、運気がどうという話ではないかもしれませんが、とにかく大切に保管し、幸せを掴みなさい。
そして早く曾孫の顔を見せなさい。
なので、これを暑中お見舞いの品とさせて頂きます。
祖母より。
追伸、もしも仮面を壊したり無くしたりした場合は、帰ってくる家が無くなるものと思いなさい。
まさかあり得ないとは思いますが、箱の開け方が分からず他人様のお手を煩わせたり、結局開けられないまま他所に渡ってしまい、この手紙を他の誰かが読んでいたとするなら……お手数だとは存じますが、どうかこちらまでご連絡をお願い致します。
孫にはきつく言い聞かせ、仮面が不要だと言う場合には引き取りに参ります。
もちろんご迷惑をお掛けした分、少なくはありますがいくらかはご用意致しますので、どうぞよろしくお願い致します。
電話番号————
「以上、椿先生のおばあ様からのお手紙でした」
「想像以上に面白い内容でびっくりですね、ミッ〇ー先生の今後の印象が変わりそうな一枚です」
「お前ら……本当に止めてやれよ」
知ってはいけない秘密を知ってしまい、項垂れる事しかできなった。
叶うならその意中の男性とやらを、持ち前の美脚でどうにかしてくれと願うばかりであった。
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