disc⑤『drum and bass VS drumstep』2nd
青から黄色に変わったスポットライトが、ケットシーに注がれる。圧倒的なDJテクニックを目の当たりにして、高揚感を抑えられないのか、毛並みは未だに逆立ったままだ。
観客達の熱気と興奮を引き継いだまま、DJ
「僕は、クモリさんに憧れてDJを始めた! 『light mirror stop water』は——僕の音楽の原点……それを超える為に、この曲をぶつけるね!」
ケットシーはDJ盾の上に乗っかると、スイッチに肉球を押し付けて、持ち曲を再生させた。開幕から、一拍と三拍裏のキック音と間を縫うスネア音のリズム。そこにギュギュとスクラッチを入れ、ステージ周りに、カチカチの氷塊を発生させていく。
「みんな、いくよ! 『氷山のイッカク』だーッ!」
ワァアアアと歓声が上がる。ケットシーは、四肢全てを使ってノブやスイッチを操作していく。そんな小柄な獣人が引っ提げる勝負曲は、ドラムンベースのジャンルの一つであるドラムステップだ。
曲のBPM180に合わせて、ケットシーの尻尾がメトロノームの様に左右に揺れる。会場を凍えさせるイントロのワブルベースは、辺りにオーロラを発生させていく。新たな音楽の可能性に、観客達の興奮は高まるが、熱狂と共に吐く息は真っ白に染められる。
「ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
ケットシーは右腕を振りながら、歓声を引っ張り上げる。観客達は持っている武器や装備を突き上げ、ハイッハイッハイッと声を上げる。疾走感のあるテンポから放たれる『氷山のイッカク』は、上がっていく会場の熱をパキパキに冷ましながら、Aメロに突入した。
「へーえ、これが、
薄暗さの中で真横からクモリは、脚光を浴びるケットシーの楽曲に耳を傾ける。ダンッダンッ、ダダンッのドラムンベースリズムパターンはそのままに、ベースを凍り付かせる、エフェクトとフィルター。触れたら霜焼けてしまいそうな、新しい音楽表現に鳥肌が止まらない。
ケットシーは、ハイッハイッハイッの歓声を引っ張りながら、主に
ドゥンッ、ドゥンッとケットシーは、殴る様にリズムに合わせて両腕を振る。オーロラと氷塊に包まれる闘技場は、観客達の魔力が水蒸気と化して、真っ白な気体を周辺に生み出していく。曲は寒くて震えそうなハードな世界なのに、何故か体温が上昇していく不思議な感覚は異常な中毒性があった。
「…………!」
サビに突入する瞬間、付き人である大男が、巨大なDJ盾に乗っかるケットシーごと持ち上げた。そして、迫り来る重低音キックを4、8、16とループさせると満を辞して、サビ前のブレイクをパァンと炸裂させた。
「いくよ——ッ! Somebody screamーッ!」
三倍アイスクリームと聞き間違えそうなケットシーの掛け声と、炸裂する楽曲のサンプリングボイスと同時に、会場の氷塊が全てパリンと割れ、一帯にダイヤモンドダストを生み出す。FOOOOO——ッと観客席が歓声を上げると、真っ白い息として吐き出される魔力が、キラキラと眩い光景を作り出していく。
美しい氷晶が散らばる中、ケットシー渾身のドラムステップは、柔らかくも硬い『雪』をダイレクトに表現していく。ドラムンベースをリスペクトしたリズムに、直向きなシンセサイザーがエモーショナルなストーリーを綴る。
「ヘイッ、ヘイッ、ヘイッ、ヘイッ!」
付き人に
アウトロに向かっていく楽曲は、ドラムンベースのキックとスネアに対抗する様に、ワブルベースがデューン、ブポポポと主張した。そして語りかけるような、シンセサイザーと共にデュデュデュンッとキレの良いリズムで曲は終了する。
「はぁ……、はぁ……」
自分のやれるパフォーマンスを精一杯やり切ったケットシーは息を切らしながら、フルボリュームの歓声を浴びる。その熱気で、会場の雪景色が溶けていく様子を影から見ながら、クモリは感動の拍手を送った。
「すげぇ、鳥肌、たちっぱなしだ」
わぁああと観客の大声が止まらない中、裏に身を潜めていたアカリが壇上に上がる。これが
「ヤヤーッ、やっべーオイィ! インストゥルメンタルのぶつかり合いって、とんでもねぇよ。なぁ、雑魚共——ッ!」
イェアアァと、観客達から熱い返事が返ってくる。第一試合の結果を確認しようと、アカリはステージにあるクリスタルを確認した。そこには、観客達から集めた魔力が数値化されている。
「オイィ⁉︎ まさかまさかの、同点だぜ!」
アカリはびっくり仰天のオーバーリアクションで、ステージを盛り上げる。勝負曲のイコライザーとエフェクト技術、DJとしてのパフォーマンス力、どちらも引けを取らなかった結果に、うおぉおと、観客達の期待も高まった。
「マジか、流石だな、
「すごい……ッあのクモリさんと、こんなに良い勝負ができるなんて!」
引き分けに驚きながらもワクワクするクモリとケットシーの手前で、ライブMCを務めるアカリが甲高い声を出して、場を更に盛り上げていく。ここで勝負が付かなかったとなると、『楽曲MIXテクニック』を競う第二試合で、全てが決まるだろう。
「勝敗は、次のDJバトルに持ち越しだ——ッ!」
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