第12話 ブラックブヒーの生姜焼き
アリスが奥で着替えている間、俺はジニーさんと二人で話をした。
「実際のところ、アリスは仕事で危ないことはなかったんですか?」
「大丈夫よ。純潔を守ってるわ」
めっちゃ安心した。気が気じゃなかった。
「仕事は楽しそうにやってました?」
「そうね。一番幼かったし、みんなに可愛がられていたわ」
「なら安心ですね」
「たまに酔って暴れるお客さんがいるときはね、なんて言うのかしら、当て身? アリスちゃんがお客さんを気絶させたりしていたから、みんな感謝していたわよ」
「ははは、強さは世界トップクラスですからね」
ジニーさんがメニューを手に取った。色っぽく料理を確認していく。
「良いお店に拾ってもらえて、アリスちゃんが羨ましいなあ」
「……ジニーさんって、アリスと同じところの出ですよね」
「あ、やっぱり分かる?」
「そりゃ、これでも元勇者ですから」
アリスと同じところの出――、つまり魔族の暗殺者育成施設の出身ってことだ。
ジニーさんの間合いの取り方とか目配せのクセとかを見て、なんとなく察した。
「さすがね。まあ、私はアリスちゃんと違って落ちこぼれだけどね。アリスちゃんを拾ってくれたのが勇者のお兄さんなら、私はカジノの支配人をしている貴族に拾ってもらったってわけ」
「じゃあ、貴族令嬢じゃないですか」
「そうなのよ。大事にしてもらえてたんだけどねー。どうしても空気感が合わなくて、カジノで働かせてって言っちゃった」
「後悔してるんですか?」
「してないけど。私、あと何年バニー服を着られると思う?」
ジニーさんが真剣に聞いてきた。
なるほどな……。バニー服はかなり際どい衣装だもんな。年齢によっては着るのが厳しくなってくるだろう。
今のジニーさんの年齢は俺と同じくらいだと推測する。三〇歳まで着られるとすると――。
「一〇年は余裕でいけると思いますよ」
「だよねー。頑張ってもそんなものよね……。そのあとの人生、どうしようかしら」
「ジニーさんなら引く手あまたじゃないですか?」
「あら、仕事の?」
「結婚の、ですよ」
ジニーさんが艶っぽく誘うような視線をくれた。
俺はまっすぐにジニーさんの瞳を見た。あれ、俺たちもしかして相性がいいんだろうか。これはいける気がするぞ。
「あ、あの、レオ……」
アリスの声が後ろから聞こえきた。ハッとなって俺とジニーさんは視線を大げさにそらした。
「ひさしぶりに着てみたら、なんだか恥ずかしくて……」
振り返ってみたら、アリスが壁から顔だけを出して恥ずかしがっていた。バニーの耳が超キュートだ。美人のアリスに似合っている。
「アリス、絶対に可愛いから大丈夫だぞ」
「そうよ、アリスちゃん。人気ナンバーワンだったでしょ?」
「人気ナンバーワンはジニーさんでしょ。よくご指名はいってたし」
ご指名できるのか。……ん? それってやっぱりいかがわしいお店では?
「アリスちゃんが凄いスピードで綺麗になっていったから、半年くらい前には私の人気なんて追い抜かれちゃったでしょ。ほらほら、いらっしゃいませのとき、どうするんだっけ?」
「う……。するの……?」
「お兄さん、喜ぶよ?」
「レオ……、絶対に笑わないでね……」
アリスが恥ずかしそうに胸元を隠しながら出てきた。
おおお……、普段から露出過多だと思っていたけど、バニー服の方が色気が百倍強かった。
あと、アリスのスタイルの良さが際立っている。胸の谷間と美脚が強調されまくっていて、視線の置き場に困ってしまう。
背中も見せてもらったら、完全に露出していた。アリス、めちゃくちゃ背中が綺麗だった。あと、可愛いらしいうさぎのしっぽがついたお尻がぷりっとしていて最高だった。
アリスが困り顔で正面を向く。
さあ、バニーさんの挨拶を見せてもらおうか。
「うううー……」
アリスが手を頭の上に持っていって、手の平でうさみみを作った。そして、可愛らしく上目遣いになる。
「い、いらっしゃいませぴょん。今宵は私たちと一緒に楽しい時間を過ごしましょうぴょん」
「……え? 今のがいらっしゃいませの挨拶」
「……。……。……うん」
アリスが顔を真っ赤にしていた。耳まで赤い。なんなら首の下とか鎖骨のあたりまで赤くなっている。
「すげーいいじゃないか! 可愛いなんてものじゃないぞ!」
「アリスちゃん、お店だとニコニコしてやってたのになー。好きな人の前だと恥ずかしいのかな」
「……。……。……うん」
「わ、正直。お姉さん、妬けちゃうなー」
「アリス、超可愛いぞ!」
アリスがまばたきしながら恥ずかしそうに視線を動かした。
「今日はその格好で接客するか」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「私、賛成ーっ」
「そんな、ジニーさんっ」
「ジニーさんの許可も得られたし」
「待って。待ってよ、レオ。この格好だとお肌がまる見えだよ」
「普段はもっとまる見えだろ?」
「うぐ……」
「まあ、いいじゃないか。何事も経験さ。お客さんたち、きっと喜ぶぞ」
「喜ぶからダメなのに……。せめてエプロンはつけさせて」
「ああ、いいぞ」
「アリスちゃん、分かってないなー。エプロンをつけた方がいやらしいのに」
アリスは速攻でエプロンをつけていた。
こうして、当店の隠れ名物、アリスのバニーエプロンの姿が誕生したのだった。
会話を続けながら俺はジニーさんが注文した料理を作った。アリスが世話になった人だし、無料で提供するつもりだ。
「できましたよ。ブラックブヒーの生姜焼きです」
「わあ、美味しそう。これが無感情だったアリスちゃんの胃袋をつかんだお兄さんのお料理なのね」
「ですね。食べると元気が出ますよ」
ジニーさんは夜の仕事の人だ。
ブラックブヒーは魔獣の豚なんだが、食べるとやる気がグーンとアップする効果があるんだよな。これを食べればいつもより仕事がはかどること間違いなしだぜ。
ジニーさんが一口、生姜焼きを食べてみた。
すぐに瞳がキラキラに輝いた。
「わ、美味しい。デリシャスダイナマイトね。肉の旨味としょうがの香りが最高。口の中でぴょんぴょん跳ね踊るようよ」
「ね、レオの料理は凄いでしょ?」
「ええ。人生を大きく変えられる味だわ。毎日食べられるアリスちゃんが羨ましい」
「でしょー。えへへー」
「私、お兄さんのこと狙っちゃおうかな」
「えっ、ジニーさんにはあげないよ?」
「でも、お兄さんはちょっとその気みたいだよ」
「えっ、レオ!」
ギロリとアリスが俺を睨みつけてきた。
ジニーさんが意地悪そうにほほえむ。そして、胸元をそっと広げて谷間を俺に見せつけてきた。
俺は思い切り鼻の下を伸ばして拝んでしまった。
「もうー、レオー。私だってそういうのいっつも見せてあげてるでしょーっ」
アリスはアリス。ジニーさんはジニーさんだ。美人はやっぱり良いもんだ。
その後、ジニーさんは美味しそうに最後まで食べてくれた。
俺とアリスの二人で店の外までお見送りする。他のお客さんが来なかったし、ジニーさんとじっくり会話ができて良かったぜ。
「ジニーさん、またいつでも来てください。ジニーさんならサービスしますんで」
「うん、ありがとう。お兄さんのお料理、すっごく美味しかったよ。アリスちゃんもまたね。毎日バニー服を着るんだよ」
「着ないよ。今日だけ」
じゃあ、とみんなで手を振って別れた。
いやー、良い人だったな。美人だったし。本当にまたこの英雄食堂に来てもらいたいぜ。
通行人がなぜか俺たちを見ている。アリスの美貌に目を奪われたんだろうか。
あ、違う。バニーエプロン姿のアリスを見ているんだ。
アリスがハッとして自分の格好を思い出したようだ。顔を真っ赤にして俺の背中に隠れていた。
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