第3話 新しい世界の始まり

 ミントの誘いで、ぼくは階段を降りたり登ったりする練習を重ねた。


 ……って言ってもさ、ぼくは、みんなが言う通り、臆病なのさ。何日もかかって、やっと1段降りれたんだ。ふぅ。これをまた登らなきゃならないんだなぁ、と憂鬱になってたら、通りかかったおとうさんが、

「おっ! チョコも1段降りれるようになったのか、偉いぞ〜」

って、撫でてくれた。

 ぼくは撫でられるのが大好きだ。階段を降りたら、また撫でてもらえるのかな。そう思うと、階段を登ったり降りたりを頑張るようになった。

 

 もう、この頃には、ミントは下まで降りられるようになっていて、夜、下で見てきたことをぼくに話して聞かせてくれた。ぼくはそれを聞きながら、ワクワクしていた。ちょっぴり怖いけど、そんな世界に行けるんだ。この階段を降りるだけで。


 ぼくは、更に、1段、もう1段と降りていった。3段降りたところで、ぼくはびっくりした。下に何があるのかが見えたからだ。おとうさんが何だか長いクネクネしたものをカチャカチャカチャ運んでいたり、おかあさんも白いものを持って、向こうの方で何かやっているのが見えた。下に降りたら、二人とずっと一緒にいられるじゃないか!


 そして、もっともっとびっくりしたのは、ミントが言ってた、物凄く大きなヤツがホントにいたことだった。それも1つじゃない。ずらっと向こうの方までだ。たくさんたくさん。全部凄い声で鳴いている。そうか、いつも二階で聞こえていた「モー!」「モー!」という音は、こいつらの鳴き声だったんだな。

 もっと近くで、どれくらい大きいのか見てみたいなあ、と思ったけど、食べられちゃったりしないよね? そう思うと、ちょっとこいつらが怖いやつにも見えてきた。まあ、「正体」はわかんないけどね。


 上から3段目の場所も悪くなかった。おとうさんも、おかあさんも、通りすがりにいつも声をかけてくれたり撫でてくれたりする。平和だし、安全だし、ここでも十分な気もし始めてたんだよね、正直。


 だけど、ぼくはね、おとうさんとおかあさんを驚かせたかったんだ。

「おおっ!! 降りてきたのか、チョコ! 凄いな、お前! 偉いぞ!」

そう言って、いっぱい撫でてくれることを想像しただけで嬉しかったから。


 よし! 行くぞ、ぼく!!


 タッタッタッタッタッタッ……


 うわあ。すごい! こんな風になってたんだ。上から見ててもでっかいな、と思ってたヤツらは、下から見上げると、もっともっとでっかい。変な顔。ギョロギョロした目でぼくを見てる。怖いヤツなのかな? 違うのかな? 急に「カーッ」って言わないかな?


「チョコ、こっち見ろよ」

ミントが呼んだ。

「おおおお。凄い!!」

ごはんとギュウニュウとカリカリがたくさん!! 二階の3つ分くらいある。

 ぼくは、大喜びで、それを食べに行った。


「あらら。チョコまで降りてきたの? これ、下の子のだよ? チョコは上で食べなさい」

おかあさんに見つかって叱られちゃった。こんなにたくさんあるんだからさ、ちょっとくらい分けてくれてもいいのにね。

「大きい兄ちゃん姉ちゃんたちの分と、兄ちゃんたちのママとボスの分なんだってさ」

ミントが笑いながら言う。なんだ知ってたのかよ。じゃあ先に教えといてよ。


 

 こっちは何だろう? 隣の部屋に行ってみる。

「わ!」

足が急に冷たいのにさわった。

「それ、『ミズ』だぜ」

ミントが笑う。ミントは、ぼくより、ずっと先に降りてるから、いっぱい兄ちゃんたちに教えてもらったみたいだ。それにしても、水を踏むのは冷たくてヤダなあ。ぼくは後ろ足をピピッと振って水を払った。


「ほら、どきなさい、あんたたち。お湯使うからね。熱いの出るよ! 火傷するよ!」

おかあさんがそう言ったけど、ぼくにはさっぱりわからない。ミントがピョンと四角いかごの上に飛び乗った。よし、ぼくも。と、思ったら、バシャッと、なんか飛んできた。

 アチチチチ!!

 ぼくは慌てて、ミントの横に飛び乗ったけど、足が凄く痛かったから、またピョンって飛んじゃったんだよね。そしたら、

 ズドン!!

 今度は白くて深い穴に落ちちゃった。


「ちょっと、今、なんか変な音したけど?」

おかあさんが言う。

「これこれ」

おとうさんが笑って、二人して、白い穴の中のぼくを覗き込んだ。

「お前、これ、一番でっかいバケツだぞ? 中に水でも入ってたら危なかったぞ」

おとうさんが、笑いながら、白い「バケツ」を倒してくれて、ぼくは助かった。

「ちょっとだけお湯が跳ねちゃったのかも。ごめんね、チョコ」

おかあさんが、ぼくを撫でてくれる。いいよ。撫でてもらえるんなら。

「だけど、お湯使ってるときは、そばに来ちゃダメ。わかった?」

よくわかんないけど、とりあえず返事はしておいた。

「ニャー」



 おかあさんが二階にごはんやギュウニュウを持ってあがっている。やった! ぼくとミントのだ!

 ぼくたちは、喜んでピョンピョン後をついて行った。


 たくさんたくさんドキドキしたし、ワクワクもしたから、とってもお腹がすいていた。今日のギュウニュウはすっごく美味しいね、ミント。ミントはギュウニュウが大好き。ぼくの話なんかきいてないよね。ふふっ。



 今日はお月様とお話する暇もないみたいだ。ふぅ。疲れたぁ。おやすみなさい。

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