第2話 侵略者と下にいたデカいヤツ

 ぼくとミントが暮らしている所は、「ギュウシャ」って言うらしい。おとうさんとおかあさんが、いつもそう呼んでいるからね。ぼくらは、いつも、そこの二階で暮らしてたんだよ。大きい兄ちゃんたちは下で暮らしてるらしい。


 おかあさんは、ぼくたちのごはん(ネコカンっていうんだって)と「ギュウニュウ」(おっぱいのことらしい)とお菓子(おかあさんはカリカリって言ってた)と水を二階に持ってきてくれるけど、下にもごはんもギュウニュウもカリカリもあるらしい。それも、ぼくらの食べるぶんより、いーっぱいね。なんで? って思ってたんだ。



 その日は、おかあさんが、なかなかギュウシャに来なかったんだよね。それでぼくらは、ちょっとだけ残ってたギュウニュウとカリカリを食べながら待ってた。そしたら、急におっきい黒い猫が、それを横取りしたんだよ。すごい勢いでカーッって言うから、ぼくは、こわくていつもの寝床に走っていって隠れた。でも、ミントは反対向きに逃げちゃったんだ。


「ミント!!」


僕が叫んだときには、もう遅かった。ミントは物凄い勢いで階段を降りて走っていってしまった。


 黒い大きい猫は、ゆっくりとカリカリとギュウニュウの残りを片付けると、どこかへ行ってしまった。

 

 僕は、階段の上から、ミントを呼んだ。

「ニャーニャーニャー」

すると、すごく向こうの方からミントの声がする。

「ニャーニャーニャー」

僕にはハッキリ聞こえてるんだけど、ミントの声は、おとうさんには聞こえてないみたいだ。いろんな大きい音が混ざり合っているもんね。

 助けに行きたいけれど、階段は一回もっとちっちゃい時に落ちて死にそうになったから、降りるのは怖い。どうしたらいいんだろう……。


 僕は、もう精一杯の声で鳴いた。

「ニャーニャーニャー!!」


 おとうさんが気がついてくれた!


「あれ? ミントどこ行ったよ? チョコ」

「ニャーニャーニャー」

「ニャーじゃわからんが……あっ!」

向こうの方で鳴いているミントに気付いてくれた。

「間違えて降りちゃったのか、お前」

そう言って、おとうさんがミントの方に近づいて行ったんだけど、ミントったら逃げちゃってさ。大きい黒いやつに追いかけられたから、まだドキドキしてたのかもしれないね。ミントは、あんまり自分からニンゲンには近づかないようにもしてるしね。


 そうしているところへ、おかあさんが来た。

「いいとこ来た。ミントが間違って降りてきちゃったみたいで。でも、俺だと怖がってか、寄ってこないんだよ。捕まらない」

「あらら。わかった。捕まえるわ」

ミントは、おかあさんになら触られても大丈夫なんだよね。おかあさんに抱っこされて、無事、二階に戻ってきた。


「ミント、大丈夫?」

「うん。ちょっとびっくりしたけど」

ミントは意外と落ち着いていた。こういうの、クールっていうんだっけ? ねえ、おかあさん。

「下にはさ、いろんな見たこともないものがいっぱいあった」

「見たことないものって?」

「なんかでっかいやつがいた」

「でっかいやつ? さっきの黒いやつみたいな?」

「馬鹿だな。そんなのぜんっぜんかなわないような、もうすっごいすっごいでっかいやつ」

「ふうん」

「また下に行ってみようかな。面白そうだし」

「ええっ?! また戻ってこれなくなるよ?」

「大丈夫さ。階段を降りることはできたんだから、登る練習をすればいいんだよ」

「ホントに? ホントに降りる気??」

「いいから。明日っから、チョコも練習な!」

「え〜」


 ぼくは泣きそうになった。だって、やっとあの箱の上に登れるようになったばっかなんだよ? もうとっくにミントがピョンって飛んで上がる。そんなぼくに、階段を降りろ、登れ、だなんて……。ふぅ。ミントは厳しい兄ちゃんだなあ。



「なんでミントは下に降りてきてたの?」

「う〜ん、多分、黒い大きい猫に追いかけられたんじゃないか?」

「黒い大きい猫? ボスじゃなくて?」

「なんか、よそのが混ざってるみたい。下の餌を食べてたら、うちのやつらに追い出されるから、二階で食ってたんじゃないかな」

「二階のを食べられないように、下のを増やしてたのに! それで、二階のごはんもカリカリも減るのが早かったのか!」


 それでなのか?!


 おとうさんとおかあさんの話を二階で聞いていて、ミントとぼくは顔を見合わせた。

 最近、ごはんが足りないなあ、もっとカリカリが食べたいなあと思ってたのに、なかったのは、あいつのせいなんだ!!


「下にはさ、もっといっぱい、ごはんもギュウニュウもあるって、大きい兄ちゃんが言ってたよな」

「そうだけどさぁ」

「ちょっと怖かったけどさ、ワクワクもしたんだよね。だから、行ってみようよ、チョコ。」

「う〜ん。じゃあ、まあ、練習からね」


 ぼくは、ミントにつきあわされて、次の日から階段を降りる練習をさせられたのだった。


 でもね、嫌々やってた練習が、急に楽しくなったんだよ!!


 なんでか知りたい? じゃあ、次のときに教えてあげるね! たくさんたくさん教えてあげるね!!


 ふぁ。今日はもう眠たいよ。思いがけない大冒険をしたのはミントの方なのに、まるでぼくがしたかのよう。とっても疲れた。今日のお月様はぼんやりだ。明日は雨になるのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る