#’ 10 Fast orde


 まる二日ぶりに家に戻ったら、なんだ、漂流者が引っ張りだこになっていた。

 ああ、いや。仲良くなったというよりは玩具、か?


「その体術はどこで身に着けたんだ?」

 やら、

「魔術起源はなんだ?」

 やら、

「一番美味い魔物は何だと思う」

 やら。

 後の2つは漂流者の坊やにとっては何が何だか解さんだろう。

 若いのが、好きな女のタイプはどうだとか聞いてたが、ま、年頃はその手の話は好きだから仕方ないか。


 ともあれ、人間関係のもつれみたいなのは、問題なさげだ。


「仕事の合間縫って帰ったら、迎えも無しかい?」


 ふと、ぼやく。

 疲れちゃいないが、楽しそうな輪にギルド長わたしを混ぜないとはいただけん。


「マギー。お帰りなさい、って言っても様子見ですか」

「察しの通り忙しくてね。」


 真っ先に来たのはやはりしっかり者のミコトだ。まとめ役を担うことも多いし、そのうち自分で何かしら立ち上げても可笑しくない。寧ろ書類仕事はこの子の方が適正があるだろう。!!


 ああ、因みに今の私は小鳥の姿だ。正しくは、魔術で構成された使い魔に感覚共有をさせ、更に会話を可能にしている。

 ま、マジな帰宅じゃないってこった。……安楽椅子に座って葉巻ふかしてぇ。


この前の賊ヴァールーに魔術提供をした連中がいる筈なんだが、なかなか口を割らなくて尋問に手間取っててね。奴隷商ラドゥラの方もちょっとした山になりそうだ」

「そう、お疲れ様。いつでも駆けつけるから、無理はしないでね?」


 健気。泣かせるねぇ。


「こっちは足りてるよ。心配なのは寧ろあんたたちだ。副長カルロスはアーブルに送っちまったし私は私で何時もみたいに、政治屋共の面倒見だ」

「頼られてますね。

「解ってるねぇ」


 そう。鷹旺の劍はかなり有名な傭兵集団ギルドだ。

 今回のように、国の人手が足りない時なんかよく国から仕事の依頼が来る。 ってな感じでお得意様だ。強い力を持つ我々への警戒の意もあろうがね。


「さて、ルイスとヒルデに指名で依頼があってな、あとで部屋に呼ぶとして。坊やシューユを呼んできてくれ。」



***



 僕の行動にはちょっとした制限があった。マギーが僕に施したと封はあるものの、先のミコトのように、危険視する者も居るからだ。ギルドには組織内外問わず色々な人が出入りしていて、そんな人への配慮もある。


 監視のほどは、自室からお手洗い、食堂までは部分的に使い魔の監視がある。たまに見かける蜘蛛や

 他は基本的に付き添いが一人は必要とのことで、ミコトと、彼女の仕事仲間で相棒の ブルー と言う大型の豹を思わせる動物が、僕の監視役として付いてくれていた。

 ブルーの種類は『剣豹パンテラ』と言う動物で、鋭く立派な犬歯が特徴だ。懐いている人にかわいい。因みに女の子である。


 お風呂などは、ミコトとブルー以外の方が付いた。当然である。二人は女の子である。


 こういう時、近くにやすが居たらどんな反応をするかが、安易に想像ついたが、今は、ここに居ない。



「ふむ、」


 マギーの自室にて、だ。

 目の前に木の実を咥えやすそうなくちばしの鳥が一匹。まじまじと僕を見ていた。

 この鳥は、所謂、マギーの通信端末、といったところか。


「その後の経過は問題ないね。変わりは無いかい? 」

「体調は問題ないです」

「あの、一つ」


 ミコトが口を開く。なんだろう?


「ん?」

「死闘をしました。その、彼と。」

「…ほう?」


 小鳥の使い魔が首を傾げる。

 相手が、マギーがどんな顔をしているのかは分からないが、僕は苦手な空気を感じていた。


「彼を信頼できい者は複数名居ました。私がその筆頭です。彼がその魔術を悪用しないか、また、簡単に暴走しないかを確かめようとしました。」

「あの……」


 口を開いた僕に、ミコトが目線を送り、首を横に振った。


「結果、暴走も兆しすら見受けられませんでした。この行動はマギーの信用を裏切る行為です。本当に、ごめんなさい。」

「……意外だねぇ。あんたがを起こすなんて」

「何なりと処分を」

「なら、」

「謝罪は既に受けています。そして、僕はそれを受け入れました。」


 一歩、前に出た。この空気に耐えたくなかった。それに、


「だから?」


 空気が冷え付く。だが後には引けない。尤も、口を挟んだ以上ここで引く選択肢は考えていない。


「この子が言ってるのは私への不義だ。私がこの組織の長である以上、処分はするべきだと思うが?」


 ……でも、


「であっても、被害を受けたのは僕です。あなたじゃない。不快な思いをしたと言うのであれば僕にも原因の一翼は有ります。済みませんでした」

「君…! 彼に問題は有りませんでした! 死闘は私の身勝手で…! ちょっ、頭下げないで………」


 静止は聞かず、頭を下げる。

 慌ててミコトも頭を下げた。

 そして、ワザとらしく溜息が聞こえた。


「あーー、解ったから頭を上げな。どいつもこいつも真面目なんだから。」


 表情は見えないが、これは……、


「怒ってないんですか?」


 恐る恐る、ミコトが聞いた。

 そして、半ば呆れたようなマギーの声が続く。


「正直者を必要以上にとっちめる趣味はないよ。坊や、」

「はい」

「私刑をされた事実は無いんだね?」

「ありません。ですが、鷹旺の劍の上席の皆々様より、手合わせの栄を預かりました。結果信頼を得る近道となったものと感じます」

「お、ぉう」


 背筋を正し、真っ直ぐにマギーを向き、答えた。いえ、正しくは使い魔ですが。


「どこで覚えるんだい、そんなかったい言い回し。」

「……本、ですかね?」

「記憶に関しては突っ込みにくいんだよ」

「すみません」


 本は読む方だったが、詳細を探ろうとすると記憶の欠落部分に差し掛かり、そこから先は思い出せない。悪いことをしてしまった。


「ま、私もバタバタしてたからね。満足な説明もなく出かけちまって、皆に不安要素を残したのは落ち度だ」

「いえ、そんな」

「と言う訳で不問だよ。強いて言うなら喧嘩は程々に。この話は終了。」


 そして、マギーは話を変えた。


「さて、問題が一つ生じているんだ。ミコトには坊やの面倒を見てもらっとるが、国からの依頼が来ている。ルイスとヒルデには同時に別の依頼、カルロスはアーブルだし、」

「彼の監視が居なくなる。ということですか?」

「そゆこと。ウチは外部からの出入りもあるし、坊やが変なんに絡まれても困る。


 そこでだ。

 坊や、ミコトの依頼について行ってみないかい?」



「……はい?」


 今、なんて?

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