#’7 封の儀、心象。

#’───…

    ……記憶、annnounn。




「君のことが好き」


 あの時、君に伝えていれば何か変わっただろうか。ううん。きっと君は変わらない。いっそのこと抱きしめて、唇を奪ってそして……。

 そしたら傷も浅かったかも知れない。


 一週間、そんな後悔の日々。


 何の目的化は解んない事、



 酷イ事ヲイッパイサレテ、



 色々なものが欠けてしまった。



 でも、私が私を保てたのは、偏に君への想いがゆえ。そうだ。言いたい。この想いを伝えなくちゃ。私が生きてるんだから、


 これは希望だ。だって、この世界は私たちの知っている世界とは常識が違いすぎる。だから生きてるに違いない。


 穢れも、絶望も、もう寄せ付けない。

 君に会うため生きる。


 そう思うと、不思議と私の頭は冴え、私のナカの変化に気が付いた。



 冷たい石畳の上で体を起こす。天井の石からは雫が落ち、同じ独房に入れられている女の子はその音に薄っすら目を開けた。その目は木の洞の様に暗い。……何日もその瞳を見た。

 重い金属音が響き、少しだけその子の瞳が揺れる。

 足音が近づき、その子は石のように身を縮めた。動かない。反応しない。私も昨日まではそうだった。でも、今はそうじゃない。


 でも確証は無かった。怖いのは変わらない。


 金属の扉が開き、汚い笑みを浮かべながら男たちが独房へ侵入する。


 …喉が張り付いたように、突っかかったように開かない。


 猶予はない。



 心の中で文言を叫んだ。



 強く思う事。それが条件だったらしい。


 現れた淡い光の壁は私たちを包み、侵入者を吹き飛ばした。


 鈍い音。そして、頬が温かく濡れる感触がした。


 見れば、壁には赤い花がさいていた。






「………………きれい。」









 第二幕

  VENATORヴェナトル - 狩る者たち -







#7、



「あくまで仮説だが、坊やの魔術は偶発的に発症した呪いの様なモノ。んで、魔力ってもんの多寡はその時の環境、状態によって変化する例がある。治外賊ラプトルの襲撃に、坊やは極限状態だったんだろう。

 故に、坊やはその呪いに……自らの魔力に乗っ取られたんだ」


 そんな小難しい説明を僕は診察台にで聞いた。

 人体の駆動の起点を悉くを制した拘束に身動きが取れるはずもなく、また、その部屋が完全な密室である事に、内容などほぼほぼ入ってなど来なかった。


「これが困ったとこなんだがねぇ、暴走した根本的な原因が現状は分からないだ。あろうことか坊やの魔力の根源が何なのかも。まぁ、兎に角だ。」


 彼女は趣に、魔方陣が施された手袋を嵌め、横たわる僕の服の裾をつかんだ。


 ひやりとした空気が露出された素肌をを撫でる。


「えっ…と」

「獲って喰いやしないよ。今から坊やの魔力の起点に封をする。完封は出来ないが……、私が見ても坊やの暴走状態は危険だ。こう云うのは放っておけない性分でね。私が責任もって坊やの面倒を見させてもらう。この封はその第一段階だ。何か質問は?」


 そう質問した。彼女が付けている手袋に施された魔方陣は、魔力の高ぶりか、光り輝きを増していく。


 僕は、予て思っていた事を口にした。


「……シューユです。あの、名前」

「……」


 ……目を丸くされてしまった。まずい事は言って無いはずだ。


「名前! そういえば聞いてなかったし言って無かったねぇ!」


 うかつだったと笑っている。


「じゃ、施術前に自己紹介といこうか。

 名はマギー・ラインズ。有名な魔術師でね、何とかって渾名を付けられたりもしてる。今いるここ『鷹旺ようおうつるぎ』の長だ。どれくらい有名かは、国に顔が利くぐらいさね。」

「鷹旺の劍…」

「平たく言えばギルドだ。ウチが主に受ける依頼は要人警護や賞金首の捕縛と言った肉体労働メイン。腕利きの粒ぞろいだよ」


 腕利き。その言葉に恐らく偽りは無い。

 事実、昨夜 治外賊ラプトルの襲撃から、アーブル村の窮地を救ったのはこの人達『鷹旺の劍』だ。それまで絶対的な優位者であった盗賊を文字通り圧倒した様をこの目で見ている。


「さて、そろそろ始めようか。こーの魔力は強情だから少し手荒になるけど、坊やなら大丈夫さ」


 いろいろ頭を過ったが、何を言う隙も無くマギーが僕の露出した腹部に手を当てた。


 刹那 ───


  !?

          !

     ?

 っ………………!!!


 腹の中、激痛。いや、痛みとは違う


苦    し  

   み。

          まるで

 臓腑  が 直接 触られている

 臓腑  が 直接 触られている

 臓腑  が 直接 触られている

 臓腑  が 直接 触られている

 臓腑  が 直接 触られている臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓が 臓が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が 臓腑が臓が。



 そうか。だからこそこの拘束なんだ。きっと無意識に躰は反射で動いているに違いない。


 苦悶に点滅する視界に、再び靄がかかった。


 短期間に何度も見た、黒い靄。



 だから………、


「あんたはなんだ………!?」


 呼応か、黒い靄がヒトの形を成した。

 無面の貌の口にあたる部分が、虚空のように黒くなり動いた。


 蠢くそれは何かモノを言っている様だが、廃墟に吹き抜ける風みたく『音』が鳴っているに過ぎない。


 筈だった。


『お前、だ』


 やがて僕の脳は、ただの音としてしか聞こえないそれを言葉として理解し始めた。


『チ………ツグ……お前だ。』

「は…?」

『この力…お前の……受…入れよ。シを…つ、漂流者』

「意味が……」


 分からない。しかし、マギーの言う通りこれは僕の固有のモノではないようだ。


『受け入れよ』

「何を…」

『受け、入れろ』


 意思の疎通は不可能かと歯噛みする。


「………だから、」


『お前が、次だ。漂流者!』


 陰が手を伸ばす。僕を喰らわんとばかりに襲い来る。


「………………!」


 陰の動きが止まる。

 着撃までの間、

 自分の躰の線正中線を軌道からずらし、伸ばされた腕に沿わすように自身の腕を這わせる。そして

 指の第二関節 二本にて突いた。


「意味が、分からないんだよ……!」

『………………』


 手応えは薄い。

 だが陰が揺れ、


 霞んで、

     やがて消えた。

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