第二幕 VENATOR - 狩る者たち -

幕間

 記録。


 ニーヴェル王国、サルトゥス領、

 西部山林地帯、アーブル村。


 治外賊ラプトルによる夜襲。


賞金首

 首魁、グェン・ヴァールー。生け捕り。

 奴隷商、ラドゥラ・ヴェルブ。生け捕り(重傷だが治療済み)

 

 夜間の奇襲とあり、アーブル衛兵隊は防衛戦線をまともに作れず内部への進行を許す。

 加えて、ヴァールーは短剣の装飾に宝石やアーブル鋼を用い、対物に有効な威力を発揮する魔術を使用。他、高度な固有魔術を複数保有している。

 治外賊である当人らに、誰が魔術を指導したのか。調査の必要があるので、国でどうにかしようって姿勢くらいはみせな。


 死者、21名。(治外賊:3含まず)

 重傷者、68名。(治外賊:12含まず)

 精神的看護対象者、3名。手厚くケアをすること。んで、加害者への私刑の許可を求む。身柄は私らが預かってんだ、少しくらいはいいよな?


 他、国軍の対応、行動の遅さは次回の定例会議でとっちめてやるのでそのつもりで。


追記

 漂流者の少年を保護。

 あまりに特異な魔術を保有するため、

 鷹旺の劍の監察下に置くこととする。



 鷹旺の劍 団長、マギー・ラインズ

      副長、カルロス・マルク・ダティ



***



「なんです、これ?」


 整った髭の偉丈夫もとい、ギルドの副長であるカルロスが、ぷかぷかと葉巻を吹かしながら安楽椅子に腰掛ける女性に声をかけた。


「ほーほうひょ」

               「

 恐らく報告書と言ったであろ彼女は、書類を書いた本人、つまりは鷹旺の劍の長、マギー・ラインズである。

 胸元まで伸びた深い紫の長髪に、如何にも魔術師らいしいローブに身を包んでいるが、剣技においても右に出る者はそうそう居ない。あと、美人。

 とは言えその魔術の腕も伊達では無い。

 国内外問わず、国軍に所属していない、際だった才をもつ三人の魔術師『連外三魔術師ドライステラ』が一人。その二つ名は『冰星』。そして、カワイイ。

 身長は157cm、体重不明、年齢も不詳! スリーサイズは上から……」

「いい加減黙んな!」

「ヘブライゴッ」


 にぶーい音は、マギーが自身の得物である魔杖で、フレイの頭をド付いたからである。


「いつー……酷くない? 美人った時嬉しそうだったじゃん」

「失笑だよ。んで?」

「ふえ?」

「ふぇ~? じゃないよぶりっ子め。要件をいいな。」

「あーねー」


 返事をそこそこに背負っていた一振りの剣をマギーの前へと差し出した。


「はいよ。注文の品だよ。」


 丁寧に台座へ置き、巻き付かれた布を解いていく。

 獣の毛皮や骨が素材に使用されたそれを、

 魔剣だと、その場にいる誰もが剣に内包されている魔力を感じ取った。


「本当にこんなんでいいの? こいつはあんまりいい子じゃないよ?」

「ああ、問題ないね。しかしまぁ、あんたがまだ上級剣匠がきんちょだった頃の作品にしちゃ、よく手入れしてるじゃないか。」

「当ッたり前よー…って言うか、あの少年に渡すんだよね?」

「そそ。」

「持ち主の魔力を喰らう悪性の剣。これをあんた好みに調節すんでしょ? 人がいいんだか悪いんだか」

「良いも悪いもないよ。ほら、こんなとこでくっちゃべってんのもなんだ。工房行くよ。」

「はいはい、姐さーん」


 「その姐さんっての止めな。」そんな何時ものやり取りをしながらせわしなく団長室を後にした。


 ………。副長のカルロスが残されるのも、何時もの事だった。

 ドアの向こうに声が遠ざかっていく。

 彼は独り、マギーの感情まる出しな報告書を丁寧に、丁寧に折りたたんだ。

 便せんに入れ、軽く封をする。


 窓を開けると音も無く、もふもふとした茶毛の一羽の梟が窓辺に止まった。

 この梟は文のやり取りをする際に使われている。


 カルロスは梟に無塩の干し肉をあげると軽く頭を撫でてやり、便箋を渡した。

 飛び立つ間際、梟が微かに高い声で鳴いた声は「…どんまい」と、そう聞こえた。

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