101 死の宣告
アルフは、
どこにいるかは不明。
城の中でも外でも戦闘音は一切せず、ほとんど無音という不気味な雰囲気。
そんな中、場内を駆け巡ると、一回の奥の奥、アルフのいた場所から一番離れた広めの部屋に、奇妙な黒いドームがあった。
「なるほど……これだなッ!」
アルフは勢い良く剣を振るい、炎の斬撃と共にドームへ向けて突進する。
バリィン!
ガラスが割れるかのような音を響かせながら、ドームは破壊され、内部へと侵入した。
「アルフ!」
そこにいたのは、シャルルとクリスハート……いや、アインだった。
今の所、互いに完全に無傷といったところか。
ただ、一瞬だけ見えたシャルルの領域の様子的に、戦闘そのものはかなり激しかったらしい。
「その様子は、無事っぽいな」
シャルルが無事そうで、アルフは安心する。
「何言ってるか分かんないけど、今の所は一応何とかなってる。じゃ、防音するよ」
アインの古代魔法は、その声を聞いた者を無条件に従わせるという恐ろしいもの。
もしアインが「死ね」と言い、それをアルフ達が聞いたら、その時点でアルフ達は命令に従い、即座に自殺する。
一応、“状態異常無効化”のスキルを持つアルフだけなら、ある程度抗えるし、時間が経てば洗脳は勝手に解けるが……他の人は、どう頑張っても支配から逃れられない。
が、声を聞かなければ、あるいはアインの言葉を理解できなければ、効果は無い。
つまり、アインの言葉が耳に入らないようにすれば、彼の古代魔法は無力化できる。
それを可能にするのが、シャルルなのだ。
「チッ。シャルル、お前さえいなければ、一瞬で倒せたんだがなぁ……アルフより厄介だよ本当に……!」
アインが悪態をつくが、その言葉はアルフとシャルルの二人には届かない。
「……とりあえず、場所を移そうか」
そう言ってパチンと、アインは指を鳴らす。
すると、景色が一瞬にして変わる。
あっという間に、城の最上階へと移動する。
その場所は、一つの大きな部屋。
その奥の方にある玉座、そこにはミルが、座らされていた。
縛り付けられているとかそういうことは無いが、おそらく、アインの古代魔法で、立ち上がれないように、抵抗できないようにされているのだろう。
「ご主人様……!」
「ミル!」
アルフは叫ぶ。
声は聞こえなくても、ミルが助けを求めていることは理解できた。
アルフは速攻でアインに詰め寄り、剣ではなくレイピアで胸を突こうとする。
「ハァ、なんでミルはこんなクズを慕ってるのか……意味わかんねぇな」
だが、アインは容易に回避する。
無限のステータスは失ったとはいえ、アインは未だに、各ステータスがそれぞれ百万を超えている。
アルフの攻撃など、容易に回避できる程度のものだった。
そして、シャルルの音の斬撃も。
ガキンッ! ガキンッ!
アインに当たろうと、まるで鋼鉄の壁に阻まれたような音と共に弾かれる。
「昔からそうだ……ボクは誰よりも頭が良いというのに、何でみんなボクを好きにならないんだ……何でボクをイジメようとするんだ……」
アインは当然無傷だ。
「ボクは頭が良い、だから全て正しい……この世界でもそうだ、ボクは最強で……地球でもテレビとかで、そういう人はみんなに尊敬されていたのに……!」
アインは叫ぶ。
「なんでボクだけッ! こんな目に遭うんだッ!!」
同時に、アルフやシャルルの辺りを爆風と無数の斬撃が包み込む。
しかしその程度では、二人は死なない。
衝撃と煙が晴れた先にいたのは、無傷の二人。
二人を包む防音の障壁は、音だけでなく、その他のあらゆる攻撃を相殺し、対消滅させ、阻む。
「……何言ってるんだ?」
そんな叫ぶアインを見て、アルフは困惑している。
怒っているようではあるが、シャルルの防音障壁のせいで、何を言っているのか聞こえない。
「しっかし、どうやって倒したものか……シャルルのおかげで攻撃は効かないけど、これじゃあ埒が明かないし……」
一応、シャルルがいるおかげで攻撃は効かないのだが、同時にこちら側からの攻撃も効かない、あるいは回避されるのだ。
王都で戦った時は、カーリーがダメージを負わせたとも聞いたが、それも彼女の超が付くほどに攻撃特化の古代魔法と、シャルルのサポートの合わせ技によるもの。
アルフでは、その時と同等の攻撃力とスピードは出せないのだ。
◆◇◆◇
そして、戦闘開始から数時間が経過した。
戦況は膠着状態。
アルフ・シャルル側も、アイン側も、どちらからもまともな攻撃手段は無い。
彼らの攻撃は全て、堅牢な防御により完全に阻まれてしまうため、互いに一切ダメージを負うことはなかった。
しかも、この場にいる全員が古代魔法持ちというのも、厄介な点だった。
古代魔法を使っている時は、原理は不明だが、どれだけ魔法を発動して魔力を使おうが、枯渇することはない。
本来なら先に魔力を枯渇させた方が圧倒的に不利になるのだろうが……そういった未来すら見込めない。
しかもこの魔王城の最上階は、外界と時空を遮断されているため、基本的に外部から人が入ってくることはまず無い。
つまり、完全なる千日手のような状態となっていた。
「……」
「……」
「……」
三人共、攻撃の手を止めている。
アインからしてみれば、アルフの持つステータスを無視してダメージを与えてくる武器にだけ気を付ければいい。
アルフからしてもそうで、彼の三種の武器による攻撃を一発でも当てられれば、それだけで致命打となり得るので、それを狙って戦っている。
シャルルは、アインに対して有効な攻撃手段を持たないため、完全にアルフのサポート要員として割り切って行動している。
が、どちら側も、決定打となる一撃を放てど当たらない。
「シャルル。これどうする?」
「……? まぁ、流石に疲れたな、精神的に」
音を完全に遮断しているので、アルフとシャルルの言葉も噛み合わない。
古代魔法を使えるので肉体的疲労は無いが、長時間戦うと、流石に精神的に疲れが出てくる。
(……さて、どーしたもんか)
アイン側も、かなり頭を悩ませていた。
ステータスが高いとはいえ、彼もまた、精神的に疲れてきている。
アルフの攻撃に当たるとマズいことは分かっているが、分かっているからこそ警戒しているし、警戒に集中力を消費し、疲れるというものだ。
(音の障壁……って言ってたよな? アレを突破しなきゃ、ボクの洗脳は効かない)
シャルルの展開している音による障壁。
それはアルフとシャルルの周りに張られ、外部からの音を完全にシャットアウトしてしまう。
もちろんそれだけではなく、音を防ぐ機能は、特殊な音波によるもので……その音波の効果で、侵入してきた物体やエネルギーは分解される。
実際、アインがシャルルに接近しようとした時は、自らの身体が破裂し、分解されてしまった。
(……あー。なるほどね)
だが、よくよく考えてみれば、対策法が無いわけじゃない。
アルフとシャルルがダメージを受けていない以上、音の障壁は、空気のように、彼らを囲うように存在しているわけではない。
どちらかというと、結界のように、壁のようにして存在していると言える。
と、なれば。
「……“スキルと魔法を使うな”」
アインは、対策を思い付いてしまった。
「は……ッ!?」
「アルフっ、まず――」
二人は、聞こえないはずの声を聞いた。
一瞬驚くものの、すぐにアインに向けて駆けて、アルフは一撃を入れようとするが、驚いた時点で、もう終わりだった。
「“何もするな”」
次の命令によって、アルフの攻撃は止まった。
「ク、ソ……!」
「何を、した……アイン!」
二人は困惑や絶望、怒りなど、あらゆる感情を発露させながら問う。
「簡単に言えば、空間を捻じ曲げて、音の障壁の内側から話しかけた。まぁ、もはや聞いても無意味だけどね」
洗脳されてしまえば、もう終わり。
アインの命令には逆らえない。
「さぁ、“死ね”」
「くッ……ぅがぁぁあッ!」
自ら首を斬ろうとしたアルフだったが、何とかギリギリで、洗脳を跳ね除け剣をアインへと向けた。
だが、
ザシュッ!
「……!」
アルフが洗脳を跳ね除ける間に、シャルルは、自らの古代魔法で首を吹き飛ばし、死んだ。
そして血溜まりが、アルフの足元にまで広がる。
“状態異常無効化”の効果を付与してもらっただけでは、アインの古代魔法による洗脳を跳ね除けることはできない。
つまり、洗脳された時点で、シャルルの死は確定していたのだ。
「殺す……お前は絶対に……!」
言葉にできないほどの悔しさと怒り。
それを押し止め、精神を律して、アインを睨みつける。
「フッ、やってみろ」
そして、アインは嗤う。
だが、笑いながらもその表情には、一欠片の油断もなかった。
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