94 魔人族の強者達
アインとの戦いを目前に、各々が準備を整えていく中、魔人族の四天王達、といってもガディウスとグローザだけなのだが、ステータスが無いなりに戦えるように工夫を凝らそうとしていた。
していた、のだが……
「……本当にステータスが消えたんだよな?」
「消えた、はず……だけど、何でこんなに動けるの……?」
クロードに巨人を一体貸してもらって、それ相手に軽く戦闘をしてステータスの無い身体に慣れようとしていたのだが、ステータスが無いにも関わらず、かなり派手に動けるのだ。
それも、魔法による強化は一切していないにも関わらず、だ。
特にそれが顕著なのがガディウスで、単に身体能力が高いだけでなく、五十メートル超えの巨人に踏み潰されても、骨が何本か折れる程度で済むほどには、肉体が度を超えて頑丈なのだ。
他のグローザやアブラムについても、ガディウスほど頑丈ではないとはいえ、普通の人なら致命傷を負うような攻撃を受けても、掠り傷程度に抑えることができていた。
「……なぁジェナ。この原因、何か分かるか?」
とりあえず彼らは、何でも知っている雰囲気を出しているジェナに尋ねる。
「いや」
しかし、彼女ですら、よく分からないのだという。
とはいえ、一応推測はできているらしく、それについては簡単に教えてくれた。
「一応予想ではあるが、魔人族は人間と比較すると、単純な肉体強度や身体能力が高い傾向がある……と思われる」
「ほーん……」
「まぁこの辺りについては、多分ダニエルの方が詳しい。彼は元“ネクロア”のリーダーだ、知識は豊富だろう」
「……じゃあ行ってみる?」
「おう、聞いてみるか」
二人はジェナと別れ、ダニエルに話を聞くために戦闘訓練を終えた。
◆◇◆◇
元、クロードの家。
辛うじて破壊を免れたそこで、ダニエルが薬の調合を行っていたのだが、そこにガディウスとグローザの二人が訪れた。
「……なるほど」
二人の事情を聞いたダニエルは、軽く頷くと立ち上がり、部屋の本棚を漁る。
「一応、魔人族と人間の間には、身体構造上は変わりません。が、身体能力には明確な差があります」
資料を漁り、目的のものを持ってくると、席へ戻ってくる。
「詳細なデータはありませんが、魔人族は人間の五倍の筋力、体力、瞬発力があると言われることもあります。加えて魔力量も、人間と比べると明らかに多いそうです」
そう説明しながら、ダニエルは一つの論文を二人の前に広げる。
「この論文では、魔人族は数が少ないため、それを補うため、個の力を伸ばしたのだと考察されています」
「……まぁ確かに、人間と比べたら数は少ないな」
「あと、人間には分かんないかもだけど、魔人族の中にも色々あるからね」
「あぁ……少しだけ聞いたことありますね」
魔人族は、人間と比べると数はかなり少なく、国もかなり小さい。
そもそも言ってしまうと、人間は魔人族のことを一括りにして定義しているが、実際は魔人族の中に、様々な種が混在している。
人間以外の様々な種族の集まりを、人間がまとめて魔人族と呼んでいるだけで、実態は複数の少数種族の複合体であり、彼らが一つの国を作り上げたのだ。
「別の資料にも、種族ごとに固有の特性があると記されてますしね」
例えば、ガディウスのような
最も特徴的なのは肌の色で、肌色や褐色等ではなく、青や赤といった色になっている。
実際、ガディウスの場合は青肌になっている。
特殊な能力こそ無いものの、様々な種が存在する魔人族の中では、総合的な身体能力が最も高いとされている。
ヴィヴィアンやヴィンセントのような
彼らには角が生えているのが特徴で、人間が想像するステレオタイプな魔人族が彼らだ。
身体能力は人間より少し高いくらいだが、特に魔力量が多く、魔法に長けている種族であると言われている。
あとは、
身体能力、魔法共に人間よりも優れており、特に自身の血液を操作する魔法を駆使して戦うとされている。
加えて固有の能力があり、別種族から吸血することができ、その血を魔力へと変えることが出来るらしい。
それにもう一つ、体内の魔力を血液に変換できるという固有の特性も有しているのだとか。
他にも、様々な種族が存在しており、それぞれが交わって暮らしているのだ。
故に混血というのがかなり多くなっている。
四天王で言うならアブラムは、
「へぇ……私ってそんなことできたんだ。いや、吸血のことは知ってたけど、魔力が血液に変換……そんなの初めて知った」
「多分ステータスの影響で、その特性すら封じられていたのでしょう。ガディウスさんについても、ステータスのせいで強みが潰れていたはずです」
ステータスのせいで、魔法を封じられていた。
ステータスのせいで、元々高かった身体能力が低い状態で固定化され、弱体化していた。
アインの手により、魔人族は気づかぬ間に弱体化させられていたのだ。
「はぁぁ……なるほどなぁ。色々分かってスッキリした。ありがとな」
「いえいえ」
ガディウスは軽く礼をして、部屋を出ていこうとする。
が、もう一人のグローザは、まだ出ていこうとしない。
「ん? お前、他にも何か聞きたいことあるのか?」
ガディウスが尋ねてみると、
「うん。ちょっと私の戦闘スタイルについてね。私の特性的に、ダニエルさんに聞くのが一番だと思って」
どうやら戦闘について、ダニエルに聞きたいことがあるらしい。
ダニエル自身は、戦闘能力はかなり低いどころか、ほぼ皆無と言ってもいいが……何かあるのだろうと、ガディウスは考えた。
「ほーん……そうか。じゃあ俺は先に行くから」
そういうわけで、自分は用が済んだのでガディウスは部屋を出ていった。
◆◇◆◇
それから大体三時間後。
ガディウスとグローザは、再び巨人相手に戦闘を試していた。
しかし、戦闘スタイルは、二人共大きく変わっていた。
「ウォぉぉオオオ!!」
ズッゴォォォオオン!!
ガディウスは、巨人の口から放たれるレーザーを一身に受けながら、速度を落とさずに巨人へ接近する。
全身の皮膚にヒリつくような痛みが走るが、外傷は少し表皮が焼ける程度。
「クッ、ラッ、えぇぇぇエエエ!!」
そして、巨人の眼前まで跳び上がると、そこで、巨大な大爆発を起こす。
周囲は真っ白な光に包まれ、巨人の顔へダメージを与え、怯ませる。
これまでは、グローザが前線で敵の攻撃を捌き、ガディウスが強力な魔法で攻めるというのが定石だった。
しかし今ではそれが逆転している。
ガディウスは自らの飛び抜けたフィジカルを活かし、前線で敵の攻撃を受けつつ、近距離から超高火力の魔法で自爆特攻を仕掛けるとんでもないスタイルになっていた。
本来なら危険過ぎるというか、相打ち覚悟で行うような手法なのだが、彼の頑強性の前では、自身は掠り傷程度で済んでいる。
そして、ガディウスが作った隙を、
「血槍……発射!」
グローザが攻める。
圧縮した血液を、指先からまるで束ねられた矢のように高速で飛ばして攻撃を行う。
それらは分裂し、曲がり、全方位から巨人へ狙い撃つ。
が、それだけでは巨人に致命打は与えられない。
わずかに血液の矢が身体に突き刺さりはしたが、致命傷になるような部位には当たらない、内臓までは届かない。
実際、巨人は痛がる様子すら見せない。
しかし、血液操作の真髄は、ここからだ。
「止まれ」
グローザの言葉と同時に、巨人の身体は硬直し、動かなくなる。
本当に静止して、震えすら無い……それだけでなく、内に流れる血液の循環すらもが停止してしまっていた。
酸素の供給を止められ、肉体を硬直させられ、何もできなくなった巨人は、数分後、立ったまま意識を失うのであった。
「……よし、これで撃破……で、いいよね?」
「おう。というかお前、なんだアレ?」
戦闘訓練は終わったので、ガディウスは何をしたのか、グローザに尋ねる。
「巨人の体内の血液を操った」
「あん? ということは、敵の血を操ったってことか? そんなこと、できたっけ?」
「一応出来るわよ。相手の体内に、少量でも私の血液を入れれば。まぁそれも、ダニエルさんから人体のことを詳しく教えてもらわないとできなかったかもだけど」
グローザは、自分の血液を操ることが出来る。
そして自分の血液を、ほんの少量でも敵の体内に入れることができれば、その敵の血液も操れるようになるのだ。
つまり、一発攻撃を当てるなりして、血液を相手の体内に入れさえすれば、今の巨人のように速攻で全身の動きを止め、動きを封じる事が出来るわけだ。
それをできるようになったのも、実はダニエルに、人体について詳しく教えてもらったからでもある。
その分野の専門家である彼に教えてもらったことで、戦闘においてどのような応用が可能なのか、どのように扱えば強いのかを把握することができたのだ。
「ま、腕切って大量の血液流して周りを血の海に変えれば、さっきみたいな血の矢を飛ばすみたいな細かいことやらなくていいんだけどね」
加えて彼女は吸血鬼であり、体内の魔力を血液に変換できる特異な体質を持っている。
故に先程言ったような、大量の血を流して血の海を作ることも比較的容易に可能で、そうして流した血による物量戦術すら可能という、万能性の高さがある。
「あとは……流石にあんた程とまでは行かないけど、普通の身体強化魔法とは別に、体内の血液を操作して、身体強化とかもできるよ。これもダニエルさんに教えてもらってさ」
加えて近接戦闘においても、血液を高速で循環させることで大量の酸素を供給させ、身体能力を高めるといったことも可能。
しかも普通の身体強化魔法と併用して扱えるので、近接戦も弱くないどころか、かなり強いレベルだ。
「……そんだけありゃ、俺達も戦力になれるな。アブラムさんも、なんかアルフみたいな自分だけの領域を形成できるみたいだし」
「そうね。私達も……アインを倒したいし」
二人の目的、いや、四天王と魔王と副王、彼らの目的は、アインを殺すこと。
一度封印を解いた以上、犠牲は多く出るだろうが、倒すには絶好の機会なのだから。
ここを逃せば、世界はアインに支配され、人間も魔人族も、アインに洗脳され、自我を消され、服従させられることだろう。
そしてあわよくば、自分達もアインを討伐しに行きたい。
そう思っているからこそ、彼らは強くなろうと努力し、そして力を得たのだ。
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