第九章 最終決戦
93 攫われた彼女、あるいは妹
王都に集まった実力者達の間で行われた作戦会議、それによって、古代魔法持ちである五人の配置は決まった。
アルフとシャルルとリリーの三人が、アインの討伐に動き、残りのクロードとカーリーは、王都に残って防衛を行う。
だが、古代魔法を使えない他の人達の配置はまだ決まっていない。
古代魔法持ちと比べると、ステータスも消えたので戦力的にも数段劣っており、はっきり言って、何をしようが足手まといであった。
なので、どう動かすべきなのか、困っていたところだ。
そういった所で、いったん会議は終了したのであった。
◆◇◆◇
会議が終わった後、アルフはシャルルを呼び出して、
「話があるって何? まぁ、言いたいことは何となく分かるけど」
「……お前、ミルの兄だって言ってたよな?」
まだ崩れていない無事な建物、その壁によりかかりながら、アルフは言う。
「そうだね。昔、この王都で僕達は二人で一緒に暮らしてた。と言っても、その時僕が九歳で、ミルは三歳の時だったはずだから、かなり前の話だけど」
大体十年くらい前の話。
シャルルは、ミルと一緒に王都で暮らしていた。
その当時は、シャルルという名前ではなく、セシルと名乗っていたそうだ。
「あの時はまだ子どもだったけど、ステータスは高かったから冒険者してたんだよね。それくらいしか稼ぐ方法無かったし。でも……」
「でも?」
「僕のいない隙を狙ったのか分かんないけど、誰かがミルを攫った。そして僕は怪しい奴等を殺して回った。その辺りは、前にちょっとだけ話したと思う」
「あー……なんか聞いた覚えがあるな」
ミルを攫われ、怪しい人達を殺して回り、一晩で数百人を殺した。
その結果、彼は王都にいられなくなり、外に出ることとなった。
シャルルと名乗るようになったのは、それからしばらくしてからなのだという。
「……それで、何で今まで隠してきたんだ?」
だが、アルフとしては疑問だった。
大切な妹のはずなのに、どうして妹を見つけても、何もしなかったのか。
大切なら、強引に奪おうとするはずだと、アルフは考えていたのだ。
「……ミルを守れなかった僕には、兄を名乗れない。そう思っててさ」
「……」
「ミルは僕にとって唯一の家族だった。当然大切だったし、姿を見れたのは嬉しかった……けど……守れなかったんだ。兄としての使命を、果たせなかった」
シャルルは、大きなため息をつく。
「だから、試したんだ。二人の様子を音で聴いて、わざわざミルを傷付けるような依頼までして……お前が本当に、ミルに相応しい人物かどうかを」
「……まさか、あの依頼か?」
アルフの中で思い出されるのは、数ヶ月前に起きた事件だ。
シャルルが、ミルの前の主からの依頼で、攫おうとした。
「僕がミルを攫った、あの依頼だよ。お前はステータスを失ってたというのに、それでも僕に立ち向かってきた。もちろん、攫われた後も本気で、助けようと動いていた」
「……でも結局、お前には負けたぞ?」
「別に強さを試してたわけじゃない。重要なのは心意気の方だ。本気でミルのことを想っているのか、守ろうと動くのか……そういう人じゃないと、奴隷になったミルを幸せにすることは出来ない。そう思ったんだ」
その依頼でアルフは、自分が傷付くことを厭わず、ミルを助けるために動いた。
どんなことをしてでも、ミルを助けようと奮闘した。
強さがあっても、臆病だったら逃げ出すだけ。
だから大切なのは心意気、勇気なのだと、シャルルは言った。
「アレを経て、お前にミルを託すことを決めたってわけだ」
「そうか」
暗い顔をしながらも、シャルルは遠い場所を眺めながら言う。
「……本当は、ミルに正体なんて明かす気は無かった。けど、アイツは不安そうに震えてた」
「だから、教えたと?」
「ああ」
あの時、アインがシャルルとミルの前に現れた時、アルフは王都にはいなかった。
つまり、ミルを守る人が、いなかった。
「あの時、アルフは王都にはいなかった。ミルの心の拠り所であるお前がいない……近くには僕しかいない……だから、明かした。そして、僕が代わりに守ろうとした」
シャルルは、アルフに託されていた。
自分がいない間、ミルを守ってくれ、と。
それを彼は、兄として、死ぬ気でやり通そうとしたのだ。
アルフと同じように。
「そしたら、古代魔法が発現した……でも結局、昔みたいに攫われた」
あの、何もできずにミルを攫われた情景を思い出し、シャルルは項垂れる。
また過去と同じ過ちを犯してしまった、そんな後悔が募るばかり。
「下手したら、もうミルにもアインコアが埋め込まれて、もう戻らなくなってるかも――」
「それは無い」
いつの間にか。
シャルルの真後ろに、ジェナが立っていた。
「ジェナ……何を理由にそう言えるんだ?」
「私が過去に体感した経験からして……アインがコアを利用した洗脳を行うのは、本当に最後の手段だ」
ジェナは断言するように言い、過去の話を続ける。
「過去……私やロウェルがアインと戦っていた頃の話なのだが……ある時、私はアインに攫われた。今のミルと同じように、不意を突かれて」
「えっ……ジェナが? いや、その強さがあって……?」
「……今から二千年以上前の話だからな。当時の私は弱かった」
アルフ達は、ジェナが攫われるなんてあり得ないと思ったのだが、これは二千年以上前の話なのだ。
今のジェナは、二千年以上の鍛錬を積み重ねた末に得た強さを持つが、当時はそんな力など無く、そこまで強くはなかった。
今の強さがあれば、アインに捕まることはなかっただろう。
「私が捕らえられた理由は、アインの一目惚れ……らしい。ミルを攫った理由と同じだと思っている」
そして攫われた理由は、アインがジェナに惚れたから。
確かに顔立ちや雰囲気はクールな美女だ。
一応、それは二千年生き続けた今の話で、もしかしたら昔は、もう少し活気ある少女だったかもしれない。
だがどちらだろうと、魅力的なのは確実で、アインの目を惹くのも何となく分からなくはない。
「……それで?」
しかしそれだけでは、まだ理由になってないと、シャルルは続きを催促する。
「当時から、アインコアと似た物は存在していた。つまり、捕らえた私を洗脳しようと思えば出来た。アレは、脳構造を書き換えて洗脳を行うから、“状態異常無効化”では対処出来ない」
「……でも、されなかったと?」
「ああ。アルフの言う通り、私は洗脳されなかった。恐らくミルも、昔の私と同じで、コアによる洗脳はされない……と考える」
過去、アインに攫われたジェナは洗脳されなかった。
ここから、一番欲しい人については、可能な限り洗脳しないようにするのではないかと、ジェナは考えていた。
「……そうか。色々とありがとう」
ミルが洗脳されていない可能性を教えられ、シャルルの表情は少し明るくなる。
「今は時間が無い。悩んでいる暇があるのなら、古代魔法の練度を上げておけ。其れが、ミルを救う最短の道だ」
「……分かった。アルフ、行くぞ」
「ん、おう」
ミルを救うなら、鍛えろ。
暗にそう言われて、シャルルはハッとしたようだ。
そうしてシャルルと、加えてアルフも、アインとの戦闘に備えて互いに古代魔法の訓練を行うのであった。
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