83 二千年越しの復讐劇
ジェナ……いや、ジェーナスの手によってワープさせられたアルフとヴィンセントは、小さな書斎のような場所へ飛ばされた。
いくつかの本棚と、少し散らかったデスクがある程度の、かなり簡素な部屋となっている。
「此処は私の隠れ家だ。異空間に作ってあるから、アインでもそう簡単には見つけられない筈だ」
ジェーナスはどこからともなく椅子を二脚出現させると、それを並べ、アルフ達に言う。
「状況を説明する。先ずは座ると良い」
助けてもらったのは事実だし、アインを殺そうとしていたっぽいのも分かる。
が、やはり信用はまだできないというもの。
アルフは警戒しながら腰掛けた。
「さて、先ずは私の過去から説明しようか」
ジェーナスは、自分の使っていた古めの椅子を持ってくると、そこに座り、話を始めた。
◆◇◆◇
昔、今から約二千年前の出来事。
ジェーナスは、エルフの森と呼ばれる場所で生まれ、暮らしていた。
彼女はエルフという、長い耳が特徴の種族で、元々は今見せているような金髪の人が多かった。
だがある時、アインがエルフの森を滅ぼした。
正確には、アインに村中の人々が洗脳され、その中でも特に強かったジェーナスが、森と集落を破壊し尽くした。
彼女の“次元魔法”は恐ろしく強力で、家族を、友達を、住人を殺す過程で、エルフの森の空間は歪み、異界と繋がるようになり、時間も捻れ曲がり、止まってしまった。
そして、エルフの森は、現代では禁足地と呼ばれるようになった。
その後、唯一生き残ったジェーナスは森を出た。
はじめて森を出て、最初に出会った人物、それが、現代で三英雄と呼ばれているロウェルだった。
その時もアインの洗脳は解かれていなかったため、襲いかかろうとしてしまったのだが……幸運なことにロウェルのスキルは“状態異常無効化”で、しかも古代魔法を扱えていた。
そしてスキルを利用することで、ジェーナスの洗脳は解除された。
そこから色々あり、ロウェルと共に、アインを倒すことを決意したのだ。
もちろん仲間は他にもおり、エノテラという、ヴィヴィアンやヴィンセントの祖先にあたる人物とも、共に戦っていた。
そうして様々な出会いや、酷い死の世界を見ながら、アインの元へと辿り着いた。
いや、正確にはジェーナスは、アインに連れ去られてしまったのだが。
どうやら当時のアインは、ジェーナスに惚れていたらしく、何としてでも手に入れようとしていた……らしい。
当時もアインは、アインコアの技術を持っていたそうだが、ありのままのジェーナスを欲していたためか、コアを埋め込むことはなかった。
そこに、ロウェル達が助けに来た。
が、無限のステータスを持つアインを倒すことができるはずがなく、ロウェルは一瞬にして敗北してしまった。
そしてアインは、ロウェルの前で見せつけるように、ジェーナスにコアを埋め込もうとした。
その時、ロウェルは怒りと殺意に飲み込まれ、化物と化した。
古代魔法を暴走させ、巨大な化物と化したロウェルではあったが、そのおかげか、アインの不意を突くことに成功した。
その結果、アインの知力のステータスが消え、存在が抹消された。
そのおかげで、アインは未来を視る能力を失い、それにより生じた隙を突き、残されたジェーナス達は封印に成功した。
だがジェーナスは、諦めていなかった。
ロウェルは、アインを殺すことを望んでいた。
彼女はジェナと名乗るようになり、彼の想いを汲み取り、密かにアインを殺すための計画を練り始めた。
まず、アインを殺すために必要なモノをまとめた。
必要なのは、古代魔法を扱える人物と、無限のステータスを何とかできる人物の二人。
古代魔法を扱える者については、アインに致命打を与えたロウェルが使えたから、必要だろうと考えていた。
無限のステータスを何とかできる者は、言わずもがな、アインの強さの中核を成すモノを何とかしなければ、敗北は必至だからだ。
ジェナは、その二人が現れるのを、二千年間待ち続けたのだ。
そして現れた時に、アインを油断させるために、あえて協力していたのだ。
元々はジェナが作った封印でもあるので、密かに封印をすり抜ける手段や、封印の継承条件も知っていた。
空間ごと隔離するような形で封印していたので、その空間に接続すれば、アインを外に放つことはいつでもできた。
だがあえてそれはせず、アインの力の一部だけを外へ出すことで、密かに協力していたわけだ。
そして、念願のアルフとヴィンセントが現れた。
アルフは“状態異常無効化”持ちで、古代魔法を扱えるようになる可能性のある人物。
ヴィンセントは、“破壊”のスキルで、物体だけではなく、無限をはじめとした概念すら破壊可能。
計画において最も重要な二人が揃った所で、ジェナは大きく動き出した、というわけだ。
◆◇◆◇
約二千年前から今に至るまでのジェナの軌跡を、アルフとヴィンセントは聞かされた。
「……」
「……」
流石にこの話を聞かされたら、もう、何も言えなかった。
流石にアルフは、少し疑っていたが、
「……えっと、ヴィンセント」
「本当、だと思います。本人じゃないと知り得ない情報が、色々あったので。しかも辻褄も合っている……」
ヴィンセントにこう言われたら、信じてしまうものだ。
彼は魔人族の歴史について調べていて、かなり詳しいから。
「……一応、私の方の事情については以上だ。質問が有れば、可能な限り答える」
とりあえず、話はここで一区切りついた。
が、アルフとしては、他にもジェナに色々と聞いておきたいことがあるというもの。
「アインに協力してたと言ってたけど、具体的には何を?」
「アイン……と云うよりは、教会に協力していたと云うのが正しい。アインコアの製造から、キメラやクローン兵の大量製造……後は物資の輸送等を、ヌルと名乗って行っていた」
「他は?」
「他だと……アインに私が味方だと誤認させる為に、アインの復活後、クローン兵やキメラを王都に解き放ったりもしたな」
「は……? 待て、それは大丈夫なのか!?」
「問題無い。其の対策の為に、ヴィヴィアン達を
アイン、正確には教会への協力ではあるが、それらは全て、アインを油断させるためのものだった。
どうやら、自身を味方のように見せかけることにより、アインの未来予知の範囲外に行こうとしていた、とのことだ。
しかし、これもまた疑問が生じる。
「ん……? 今はともかく、それまではアインのステータスは無限だったはず。なら普通は敵だって気付かれるはずじゃ?」
何故、無限の知力を持っていたアインが、ジェナを見逃してしまったのか。
無限の知力を持ち、過去現在未来全てを見通せる頭脳を手にしたと、アインは言っていた。
ならば、ジェナが敵であることも、勝手に脳内に入ってくるのではないかと、アルフは考えたのだ。
それに対するジェナの答えが、これだった。
「無限のステータスと云っても、実際は完全なる全知全能では無かったりする」
無限のステータスは、万能ではない。
それが彼女の答えだった。
「どうやら無限の知力を手にしても、全てを識ることは不可能らしくてね……あくまでアインが識れたのは、知ろうとした事だけのようだ」
「つまり、知ろうとしていないことについては、勝手に知識が入ってくることはないと?」
「そうだと、私は考えている。恐らく、本当に全てを識ってしまったら、脳が保たないのだろうな」
過去現在未来、全てを完全に見通すとなれば、脳にもとんでもない負荷が掛かることが予想される。
少なくとも、普通の人間では耐えることができないほどだろうと、ジェナは言っていた。
そしてそれはアインにも言えることで、もし全てを識ってしまったら、彼ですら脳がパンクし、廃人と化してしまう……かもしれない。
だから、無限の知力を得ても、知ろうと思ったことだけを識れる、それ以外は識れない、といった形になったのだろう。
「……実際、仮説は正しかった。違っていたら、ヴィンセントの不意打ちは通らなかった」
「まぁ、上手く行ったからよかったけどさぁ。アインが油断するのを狙うとか……あまりにも運に頼り過ぎな気が……」
「運に頼る以外に、方法が見つからなかった。一応、アインが私の領域に入って来てくれた時点で、成功はほぼ確定していたとはいえ……確かに分が悪い賭けだったとは思うよ」
それでも、ジェナの行動はかなり危険ではあった。
アインがほんの少しでも彼女を疑ってしまえば、その時点で終わってしまうのだから。
一応、上手く行ったので良かったが。
「それで、他に聞きたいことは? 私としては、ヴィンセントの事を聞かれると思っていたが……」
「それについては、何となく分かるから。死んでから数分以内に蘇らせたんでしょ? ほら、クロードとセシリアにやったみたいに」
「ああ……そういえば、そんな事もあったな」
ヴィンセントも、殺してからすぐに蘇生させたらしく、特に異常も無く蘇ったみたいだ。
変わった点は、一度死んだので、ステータスが無くなったことくらいだろう。
そうして色々話を聞いていると、不意にアルフから大きなあくびが出た。
目も少し薄くなっていて、かなり眠そうである。
「……とりあえず、暫く休むと良い。特にアルフは何度も死にかけて肉体を再生させたから、疲労も大きいんじゃないか?」
「……確かに、全身かなり怠いな」
「なら暫く休め。貴様が、この世界唯一の希望なのだから。英雄として、アインを倒して貰わねばならない。疲労が原因で死なれては困るのだよ」
「……そうか。じゃあ寝る」
「分かった。あまり良い物ではないが、寝袋だ」
ジェナがそう言うと、アルフの目の前に寝袋が落ちてきた。
ベッドよりは寝心地は悪いが、今のこの状況では、文句は言ってられない。
アルフは寝袋の中に入り、軽く眠りにつくのであった。
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