第七章 宿命と復讐の始発点
幕間終 全ては終わり、混沌へと進む
アイゼンは、教会本部の最上階にて、悩みに悩んでいた。
というのも、魔人族との戦いで、クリスハート達が完膚無きまでに叩き潰されてしまったからだ。
しかも、向こう側にはアルフがいる始末。
「これではダメだ。確実に四天王の誰かが裏切り者なはずだ。何とかして殺さなければ……」
魔人族領への侵攻で、四天王を殺す、それが元の計画だった。
なぜなら、アインの封印に干渉できるのは、彼らくらいしかいないから。
彼らの中に、アインの封印を解こうとする裏切り者がいるのは、アイゼンの中では確定事項だった。
どうやって殺すべきか、そんなことを考えていると、
「随分と悩んでいるみたいだな」
「ッ!? ジェナ……!」
ジェナが、音も無く現れる。
驚き、慌てて距離を取ろうとするが、教皇として、アイゼンは平静を装う。
「何のつもりだ」
「王都に用事があってね。後は……」
まばたきの瞬間、一秒にすら満たない一瞬で、ジェナに接近される。
そして、アイゼンの腹部に、彼女の腕が突き刺さる。
「なっ……は?」
ギョッと目を見開くアイゼン。
しかしすぐに、明らかな違和感に気付く。
ジェナの右腕が腹を貫いているというのに、痛みを一切感じない。
そして、
カチッ!
自分の中で、何かが、鍵のような何かが、外れるような音がした、気がした。
そして、ゆっくりと腕は抜かれる。
「なにを、した……?」
流石にこんなことが起きたら、狼狽してしまうというもの。
アイゼンは額に汗をかきながら、ジェナに問う。
「……お前の心の中に在る“枷”を、外した」
「枷……」
「欲望を抑える為の鎖、其れを除いた。故に本能や欲望を抑えられなくなるが……直ちに影響は無い。今のお前には、ステータスが有るからね」
ジェナいわく、アイゼンの中にあった、欲望を抑えるための“枷”を外したのだという。
その影響で彼は、感情制御が、特に欲望を抑えることがほぼ不可能になった。
とはいえ、現時点ではそれだけである。
しかし、アイゼンは聞き逃さなかった。
ステータスが有るからね、と、ジェナは言っていた。
ということは、逆に言えば、ステータスを失えば何かが起こるということになる。
「……ステータスが消えたら、何が起こる?」
「古代魔法を発現出来るようになる。欲望を解放するわけだからね。とはいえ“枷”を外した以上、欲望の制御は不可能だから……フフッ」
そう言うと、ジェナは空間に穴を開け、その中へと入っていく。
「さて、他にも良い感じの奴等を探して、“枷”を外すとしよう」
最後にアイゼンの耳に入ってきたのは、そんな言葉だった。
◆◇◆◇
それからジェナは、王都にいる人達を十人ほど、“枷”を外して回った。
もちろん闇雲にやっているというわけではなく、古代魔法への適性を持っている人達に限定して“枷”を外すようにしていた。
そして彼女は、アルフレッドの実家へとワープした。
一番の目的である、クリスハートと会うために。
「クリスハート、準備は出来たぞ」
「……ということは、アインは復活したのか」
「ああ。そしてアインの力は、お前に移すという契約だった」
彼を、魔王城へ連れて行く必要がある。
封印されたアインの力を、クリスハートに移すために。
そういう契約を、以前会った時に行っていたのだ。
「急ぐぞ。アインが復活した今、何時王都が狂気に染まるか分からない」
「そうだな」
そうして二人は魔王城へとワープする。
魔王と他の四天王は全員別の場所、しかも人間の支配する領地にワープさせておいたので、しばらくは戻ってこれない。
つまり、今この場所には、ジェナとクリスハートの二人しかいないというわけだ。
クリスハートは、ジェナに案内されて、魔王城の地下、アインの元へと向かう。
それなりに長い道を進んでいくと、最奥部に辿り着く。
「到着だ」
そして、目の前にいる存在に、クリスハートは息を飲む。
「こいつが、アイン……!」
元々は人間なのだろうが、その身体の大半は機械で補強され、複数の人間の臓器が移植されている。
特に脳については、百個以上がその機体の中に組み込まれており、そこから体表にある目に神経が繋がっているのが見える。
そんな異形の存在が、部屋全体から伸びる鎖によって、拘束されていた。
そして、これまでは封印のせいで触れられなかったが、今は封印が解かれたため、触れることができる。
確実に、目の前にいる。
「ケーブルが見えるか? それらの中から二つを耳に入れる事で、能力の移行が開始される」
ジェナに言われたので見てみると、確かに複数本のケーブルが、機械の身体から伸びているのが分かる。
別段鋭利というわけではなく、外敵を傷付けるような意図はなさそうに感じる。
なので彼は、ジェナに言われた通り、ケーブル二本を手に取り、その場に座り込むと、それを耳に挿した。
「……」
そして、クリスハートは、活動を停止する。
「移行には三十分程度掛かる。その間、私が魔王城を守っていよう」
ジェナは、沈黙したクリスハートを置いて、その場を去った。
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